第182話 チョロイン彩香ちゃん
放課後、私は智恵ちゃんとおしゃべりをしてから同好会の部室へとむかう。
出遅れたかと思ったけど、ドアを開いたら彩香ちゃんしかいなかった。
みんなどこかで用事かな?
せっかくのふたりきりなんだし、ちょっといたずらをしてみよう。
「彩香ちゃん、スカートが挟まってパンツ見えてるよ?」
「へ?」
そんな嘘を吐きながら、私はスカートを直すふりをしてお尻を撫でる。
「ひゃっ!?」
「うん、いい感触だね」
「ちょっとやめてよ」
「あ、ごめんね~」
大丈夫、これくらいなら彩香ちゃんは許してくれるのだ。
「まったくもう、触るのなら堂々と言うべきだと思うわ」
嘘だとバレてる……。
って、あれ?
ということは、お願いすれば触っていいってこと?
「彩香ちゃん、お尻触るね」
「ダメに決まってるでしょ」
「え~」
さっきと言ってることが違う~。
「誰かに見られたらどうするの。恥ずかしいでしょ」
「今はふたりきりだよ?」
「誰でも入ってこれるじゃない」
「じゃあ、ふたりきりになれる場所でならいいんだね?」
「そ、そういう意味じゃないから……」
私は彩香ちゃんにグイグイとせまる。
反応が楽しいんだよね~。
私ってば悪い子。
「なずなさん、やめてあげてください」
「あ、珊瑚ちゃん」
悪ふざけしていたせいで珊瑚ちゃんと茜ちゃんが来ていることに気付かなかった。
危ない危ない。
「委員長は押しに弱いチョロインなんですから」
「誰がチョロインよ!」
珊瑚ちゃんがニヤニヤとした表情でからかう。
当然彩香ちゃんは反論するけど、間違ってはいないと思った。
「彩香ちゃん、試してみようか」
「へ?」
「ちょっと胸を触らせて?」
「ななな、ダメに決まってるでしょ!?」
「おねが~い」
必殺上目遣い。
「うぐっ。し、仕方ないわね。10秒だけよ」
「ありがと~」
もみもみ。
「って、これか~!!」
それだよ、チョロイン要素。
ちょっと違う気もするけど。
「くぅ~。こうなったら私は浜ノ宮さんのお尻を触るわ」
「へ?」
「うりうり~」
「きゃ~!! 委員長がご乱心~!!」
彩香ちゃんにお尻を撫でられた珊瑚ちゃんは、あっという間に部室の外へと出て行ってしまった。
「あらら……」
やっぱり自分が標的なると弱いなぁ、珊瑚ちゃんは。
「平和だね~」
そしてこの騒ぎにまったく関与してこなかった茜ちゃん。
のんびりとお茶をすすっていらっしゃる。
すごい。
「さて、浜ノ宮さんのことだから、いつもの公園にでもいるでしょ。行ってみよう」
「そうだね」
茜ちゃん、なんだか珊瑚ちゃんの扱い慣れてきてるなぁ。
何気に仲いいんだよね、このふたりって。
私たちは学校を出て、川沿いの道を歩きながら公園へとむかう。
もしそこにいなくても珊瑚ちゃんの方から合流してくるだろうし。
「お花、綺麗だね~」
「え?」
茜ちゃんが道に咲いているお花を見ながらそんなことを言う。
どうしちゃったの茜ちゃん。
今日はたまに出てくるきれいな茜ちゃんの日なのかもしれない。
「ふふふ」
「……」
うむむ、これはいかんです。
治療しなければ!
「お花なら、彩香ちゃんがお花のプリントパンツ履いてるよ」
「は、履いてないから!」
どうだ茜ちゃん!
「なずな、そういう適当なこと言ったら委員長に迷惑だよ」
「……ごめんなさい」
うわ~ん、いつもの茜ちゃんじゃな~い!
仕方ないあきらめるか。
私はキラキラ光る川の水面を眺めながら歩いた。
「あ、水面に反射して彩香ちゃんのプリントパンツが」
「だから履いてないってば! あと覗かないで!」
「え、パンツ履いてないの?」
「パンツは履いてるわよ! というか、なんでそのネタさっき使わなかったの!?」
「今思いついたから」
「思いつかないで!」
ふふふ、やっぱり彩香ちゃんをからかうのは楽しいなぁ。
でも今日はこのあたりにしておこう。
困らせたくないしね。
でも最後に一発だけ。
「じゃあ、どんなパンツ履いてるの?」
これにツッコまれて、それでこの話はおしまいにしよう。
そう思っていた。
しかし返ってきたのは、予想とはまったく違う答えだった。
「……あなたが好きそうなの履いてるのよ」
「え?」
彩香ちゃんは照れたように視線をそらしてそう言った。
私の好きそうなもの?
「な、なんで?」
思わず聞き返してしまった。
「言わせないでよ……」
ちらっとだけこちらに視線をむけて、またそらす。
かわいすぎるんですけど。
「え? あ、いや……」
私が答えに困っておどおどしてしまう。
するとしばらくして彩香ちゃんが「くくく」と押し殺すように笑った。
「あ、彩香ちゃん?」
「ふふふ、冗談に決まってるでしょ~」
え、冗談?
「も~、びっくりさせないでよ~」
「あなたがからかってくるのが悪いんでしょ。お返しよ」
「も~、も~!」
私は彩香ちゃんをポカポカと叩く。
「あはは」
「うふふ」
「あはは」
「うふふ」
私たちが人目もはばからずイチャイチャキャッキャウフフしていると、突然鋭い視線を感じた。
振り返ると、そこには珊瑚ちゃんの姿が。
これは……まずいか?
「も~、何ふたりでイチャイチャしてるんですか~! 早く探しに来てくださいよ~!!」
「ごめんなさ~い!!」
よかった~、ヤンデレ化してなかった~。
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