第165話 気配を消す少女

 ある休み時間のこと。

 私がトイレに行って帰ってくると、隣の席の智恵ちゃんのところに彩香ちゃんと珊瑚ちゃんが集まっていた。


 3人で何の話をしているのだろうか。

 珍しい組み合わせのような気もする。


 それよりも気になったのが、智恵ちゃんの後ろの席の子だ。

 珊瑚ちゃんの髪からこぼれるキラキラのせいで、なんだか半分浄化されて消えそうになっている。


 その子は安曇奈々あずみななちゃんという子で、あまり人としゃべっているのを見たことがない。

 きっと目立ちたくないタイプの子なんだろうなぁ。


 とりあえず消えてしまいそうなのはまずいので助けださなければ。


「お~い珊瑚ちゃん、ちょっとこっちに移動して」

「はい。……えっと、何かありましたか?」


「いや、ちょっと髪の毛が後ろの子を浄化しそうになってたから」

「浄化?」


 意味は分かってなさそうだったけど、ちらっとさっきまでいた場所の後ろを見る。


「……」

「あ、ごめんなさい、誰もいないと思っていました」


 奈々ちゃんは、謝る珊瑚ちゃんに手振りだけで大丈夫だと伝える。

 本当におとなしい子だなぁ。

 ちっちゃいし、愛でたくなってしまう。


「さっきは誰もいないと思ってたのに、いつの間に……。気配を感じなかったわ……」


 彩香ちゃん、奈々ちゃんは授業終わってからずっとここにいたよ。

 私がトイレに行くときにいたからね。


 そして彩香ちゃんはなにやら深刻そうな表情で私の隣に来ると、内緒話をするように少しその場を離れた。


「どうしたの彩香ちゃん」

「白河さん、まずいわ。あの子誰だっけ?」


「さすがにそれはひどいよ彩香ちゃん。安曇奈々ちゃんだよ」

「え、本当に誰!?」


「嘘でしょ!? クラス名簿で一番上にいるでしょうに」

「ええ? クラス名簿の一番上って藍沢さんでしょ?」


「そっちこそ誰!? 別のクラスじゃないの!?」


 大丈夫ですか、クラス委員長?


「くぅ~、私としたことが……。って、あれ? 安曇さんどこか行った?」

「いや、目の前にいるけど」


 奈々ちゃんはいつの間にか私の後ろに移動していた。

 確かに気配を感じない。

 ……どこかのスパイさんか?


 私は今、なぜか後ろから抱きつかれている。

 これが命のやり取りだったら、私はもうこの世にはいないだろう。


「どうかした?」

「みんなから隠れてます。ここが落ち着きます」


「そっか、じゃあそのままでいいよ」

「はい」


 ほとんど聞いたことなかったけど、ええ声してますなぁ~。

 背も低くてかわいい。

 どことなく柑奈ちゃんに似ている気がしないこともない。


「目の前にいたはずなのに見えなくなるなんて……。手が出せませんね」


 珊瑚ちゃんは、私の後ろにいる奈々ちゃんの姿すらも見失っているようだった。

 本当にすごい能力だと思う。


「そういえばさっきなずなさんは普通に見つけてましたよね?」

「え、うん。いや、普通に人が見えないとかないでしょ、幽霊じゃないんだし」

「いえいえ、私は本当に言われないと見つけられませんよ」


 確かに珊瑚ちゃんが嘘を言っているようには見えない。

 本当に見失っているということか。


 でも彩香ちゃんはある程度見えているみたいだよね。

 名前は憶えてなかったけど……。


 もしかして、陽と陰の関係があるのだろうか。

 珊瑚ちゃんはキラキラが見えるほどの太陽の人だ。


 彩香ちゃんは中間くらいだし、私は陰キャを極めし者。

 奈々ちゃんは失礼ながら完全に陰の者だし、同じ属性同士で私は普通に見つけられるのかもしれない。


 どうだろうか、この推理。

 いい線いってるのではないだろうか。


「智恵ちゃんはどう?」

「え? 私は……。本人の前で失礼だけど、あんまり……」


 智恵ちゃんは陽の者って感じだもんね。

 ……たまに深い闇が見えるけど。


 あとは……、そうだ、茜ちゃんだ。

 茜ちゃんは珊瑚ちゃんとは別の方向で陽を極めている気がする。

 きっと茜ちゃんに見えなかったらこの推理が正しいと証明されるよ!


 ところで茜ちゃんはどちらに?

 教室を見渡してみるけどいない。

 と、その時私の後ろの方で足音が聞こえた。


「奈々~! なずなに抱きついて何してるの~?」

「ぴゃああああああ!!」


 私に抱きついていた奈々ちゃんがかわいい悲鳴をあげながら私から離れた。

 後ろを振りむくと、茜ちゃんが奈々ちゃんにいろいろとちょっかいを出していた。


 うむ……。

 普通に見つけてじゃれ合っている。

 どうやら私の推理は間違っていたようだ。


「あ、茜ちゃん、やめて~」

「しょうがない、このあたりで勘弁してあげよう」

「あう~」


 茜ちゃんから解放され、疲れた様子で自分の席に戻る奈々ちゃん。

 椅子に座ると机の上に突っ伏してしまった。


 というか、このふたり、めっちゃ仲いいじゃん。

 いつの間にそんな仲に。


 私、ちょっと嫉妬しちゃうよ?

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