第166話 消えた新作フィギュア
放課後、まっすぐに部室へとむかう私。
部室に入ると、なぜかすでに、彩香ちゃんが緑茶、珊瑚ちゃんがコーヒーを飲んでのんびり過ごしていらっしゃいました。
瞬間移動でも使ったのか?
それと時空の歪みも発生しているのではないだろうか。
我々は異世界から攻撃されているのかもしれない。
そんな中二的な妄想をしながら、私は甘いココアを用意する。
「奈々ちゃんは何にする?」
いつの間にかテーブルにいるのを発見した私は、奈々ちゃんの飲み物も用意してあげようと希望を聞いた。
すると私の淹れたココアを指差したので、もう一人分用意することにする。
ふふふ、私の激甘ココアについてこれるかな?
「安曇さん、いたんだ……」
お茶を飲みながら、言われて姿を確認した彩香ちゃんがぼそっとつぶやく。
奈々ちゃんがなぜここに来たのかはわからないけど、もしみんなと仲良くなれたら私も嬉しい。
「私も安曇さんと仲良くなりたいです。よろしくお願いいたします」
珊瑚ちゃんが握手しようと、にっこり笑顔で手を差し出す。
しかしその方向には誰もいない。
「珊瑚ちゃん、こっちこっち」
「あ、そちらでしたか……」
本当に見えてないみたいだ……。
まるで幽霊だなぁ。
「奈々~、気配消すのやめようよ」
「別に消してないけど……」
いつの間にか部室に来ていた茜ちゃんが奈々ちゃんに声をかける。
奈々ちゃんも茜ちゃんには普通に声を出してお話していた。
むむむ、本当にいつ知り合って仲良くなったんだろうか。
もしかして一緒にいたけど、茜ちゃんしか気付いていなかったとか?
そんなホラーなことが身近に起こっていたのかもしれない。
いやでも、私は現状普通に見えている……はず。
見えたり見えなかったりしているのだろうか。
いつの間にか私の知らない茜ちゃんが増えていくんだなぁ。
小さいころからずっと一緒だったのに……。
これからもこんな感じで少しずつ疎遠になっていくのだろうか。
ちょっと……、いや、かなり寂しい話だ。
みんなとはいつまでも一緒にいたい。
本気でそう思う。
大人になったらそういう気持ちも無くなってしまうんだろうか。
だとしたら私は大人になんかなりたくないものだ。
「茜ちゃ~ん!!」
「うわっと、いきなりどうしたのなずな」
「私たち、ずっと一緒だよね~」
「本当にどうしたのいきなり!?」
私は茜ちゃんに抱きついて、その胸に顔をすりすりぐりぐりこすりつけた。
「なんか突然いちゃつき始めたんだけど……」
「さすがなずなさんですね」
茜ちゃんと珊瑚ちゃんの苦笑いしてそうな声が聞こえる。
もちろんふたりのことも大事だからね!
「愛してるよベイべ!」
私は茜ちゃんに抱きついたまま、顔をふたりにむけてそう言った。
「……」
「……」
ふたりは無言だった。
「なずなさんは精神不安定なのでしょうか」
「かもしれないわ。いつの間にかなにかを背負っていたのかもね。気付いてあげられなかったわ……」
ふたりは私にむかって、まるでお墓にするみたいに手を合わせていた。
ひどい扱いである。
私は死んでなんかいませんよ。
「へえ、お姉さまでもそんなことあるんですね」
「それは私も人間だからね。……って、果南ちゃん!?」
いつの間にか隣にいた果南ちゃん。
まるで奈々ちゃんのように気配を感じなかった。
もしかして流行っているのか、このスキル。
というか、どうやって入ってきたんだろうか。
よく見つからなかったものである。
「こんにちは、お姉さま」
「うん、こんにちは。それよりどうしてここに?」
「珊瑚お姉さまに呼ばれました」
「珊瑚ちゃんに?」
見ると珊瑚ちゃんが怪しげな笑みを浮かべていた。
そうか、だから中まで入ってこれたのか。
ちゃんと話が通っていたわけだね。
「例のものは持って来ましたか?」
「はい。自信作です!」
果南ちゃんは背負っていたかばんをおろすと、中から何かを取り出した。
そしてそれをテーブルの上に置く。
「新作フィギュア、完成です!」
「素晴らしいです!」
テーブルに置かれたのは、私の姿をした新作フィギュア。
しかしかなり美化されている気がする。
こんな美少女がいたら、私なら結婚を申し込んでしまうだろう。
「果南ちゃん、よくここまで素晴らしいものを作り上げましたね」
「ありがとうございます。これでも本物のお姉さまのかわいさを7割くらいしか表現できてないと思いますけど」
「それは仕方ありません。なずなさんの魅力を完全に再現するなど、神に挑むようなものです。このあたりが人間として限界でしょう」
なんだか大袈裟な話をしているが、私にはフィギュアの方が美化されているようにしか見えない。
私はこんなかわいくないぞ?
それに見たことない制服を着ている。
何かのコスプレだろうか。
とてもかわいいので、誰か作って私にプレゼントして欲しい。
家の中で着たい。
いや、もしかしたらこの制服で街を歩けばモテモテになれるかもしれない。
そんなことになったら、私は小学校に突撃してウハウハだ。
「ゲヘヘ……」
「あ、なずなが久しぶりに見せられない顔をしてる……」
茜ちゃんが私を見ながらつぶやく。
おっといけない、思わず気持ちが顔に出てしまったようだ。
最近はちゃんと自重して、大和撫子に近づいていたと言うのに……。
まだまだ修業が足りないということか。
「って、フィギュアが消えた!?」
彩香ちゃんの声にテーブルを見ると、ついさっきまで目の前にあったはずのフィギュアが消えていた。
何が起きた?
やはり時間停止魔法でも使える人物が、異世界からこの学園に入り込んでいるのだろうか。
と思ったら、私のそばをそのフィギュアが通過していく。
なんと奈々ちゃんがフィギュアを抱きしめながら、さも当然のように持ち帰ろうと部室を出ていこうとしていた。
「捕獲です!」
そして珊瑚ちゃんが神懸り的な早さで奈々ちゃんを拘束した。
フィギュアへの執念だろうか。
なぜか珊瑚ちゃんが奈々ちゃんの姿をばっちり捉えていた。
というか、なぜ奈々ちゃんはそのフィギュアをお持ち帰りしようとしたのだろうか。
欲しかったのかな?
そのフィギュア。
まあ、私の姿をしていることを除けば素晴らしいフィギュアだしね。
そして後日の話。
教室で珊瑚ちゃんと奈々ちゃんが楽しそうに会話している姿が目撃されるようになった。
どうやらあの一件以来、珊瑚ちゃんにも奈々ちゃんの姿が見えるようになったらしい。
めでたしめでたしである。
「このフィギュア、隠し機能としてキャストオフ仕様になってるんだよ」
「きゃっ、そんな、破廉恥です……」
おい、教室の中でやめんか。
それ、私の姿のフィギュアなんだけど?
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