第164話 智恵ちゃんと料理研究会
それはある日の放課後のこと。
隣の席の智恵ちゃんが、ホームルーム終了とともに声をかけてきた。
「なずなちゃん、なずなちゃん!」
「え? って、わわっ」
振りむいてびっくり。
あわや唇と唇が濃厚接触する寸前くらいの距離に智恵ちゃんの顔があった。
近い近い近い。
「えっと、どうしたの?」
「今日、私と一緒に遊ばない?」
「ああ、別にいいよ」
「やったね」
智恵ちゃんと遊べる機会は珍しいし、今日は同好会をお休みしよう。
同好会は自由参加だけど、一応連絡は入れておく。
「それでどこか行く? それとも智恵ちゃんの家でまた水着動画でも見せてくれるの?」
「ちょっ、それはダメだからね! 普通に遊ぼうよ」
「わかった」
残念だけど仕方ない。
今日のところは普通に遊ぶとしよう。
「とりあえず智恵ちゃんの家に行く?」
「ううん、なずなちゃんの家とは反対方向だし、近くで遊ぼう」
「別に気にしなくてもいいのに。でもそうしようか」
「うんうん」
ということで私たちは行き先も決めずに教室を出る。
昇降口へむかって歩いていると、智恵ちゃんが突然妙なことを口走ってきた。
「そういえば私って水着姿の動画見られたんだから、私たちお付き合いしているようなものだよね?」
「え? なんだって?」
別に私の耳に不自由はないのだけど、ちょっと意味が分かりかねて聞き返してしまった。
水着姿、しかも過去の動画を見ただけで付き合ってることになってしまったら、この世の中は恋人だらけになってしまうよ。
「せめて自室で裸を見せてくれたら、お付き合いしているようなものかもしれないね」
「うっ、それはちょっとハードル高いです……」
おおっ、なんか普通な反応!
なんだか最近変な人が多いから、「じゃあ見てください!」的な返しをされるかと思ってしまった。
大分毒されているな私。
しばらく智恵ちゃんと遊んでいた方がいいのかも?
「あ、そうだ! なずなちゃん、家庭科室に行こっか」
「え? 何しに?」
放課後の家庭科室なんて、料理部みたいなものが使っているのではないだろうか。
「私の友達が料理研究会に入ってるんだけど、今日はお菓子作りするって言ってたんだ」
ほう、料理研究会でしたか。
同好会なのかな?
「それで?」
「お菓子をたかりに行こう」
「いいのかな……」
「大丈夫大丈夫、緩い感じの部だから。何度か行ったことあるし」
「へえ、じゃあ行ってみようかな」
「行こう行こう」
ということで家庭科室にむかうことになった。
どうやら正式な部のようだ。
そういえばこの学校は同好会と正式な部に差があるのだろうか。
今度機会があれば珊瑚ちゃんに聞いておこうかな。
私たちが家庭科室の近くまで来ると、すでに甘い香りがあたりに広がっていた。
もうなにか作ったのだろうか。
放課後の時間は始まったばかりだというのに。
開けっぱなしになっていた入り口から家庭科室の中に入る。
「こんにちは~」
「あ、智恵ちゃんだ」
「お菓子もらいに来たよ~」
「あはは、なにそれ~」
中に入ると、智恵ちゃんは数人のお友達と会話を始める。
友達いっぱいだね、智恵ちゃん。
そういえば智恵ちゃんって部活やってなかったっけ?
今日はお休みなのだろうか。
「って、白河さん!?」
「うん?」
智恵ちゃんとおしゃべりしていたお友達のひとりが、私に気付いて目を丸くする。
「あ、こんにちは」
「こ、こんにちは」
どうしたのだろうか、何か緊張しているみたいだ。
もしや何かへんな噂でも広がっているのだろうか。
心当たりがありすぎて怖い。
「なずなちゃん、お菓子もらったよ」
「あ、うん、ありがとう」
私は智恵ちゃんからお菓子を受け取ると、料理研究会の人たちにお礼を言った。
「い、いいの! 白河さんになら全部あげちゃう!」
「え? いや、それは悪いよ。それに食べきれないし……」
「そ、そうだね。あ、じゃあこれを持っていって! 自信作なんだ」
「いいの? せっかくの自信作を」
「うん、自信作だからこそ誰かに食べてもらいたいの」
「そっか、素敵だね。大切にいただくね」
「うん。よかったら、いつでも来てくれていいから」
「あはは、ありがとう。それじゃ」
「バイバイ」
出会ったばかりの料理研究会の方たちとお別れし、私たちは学校を出た。
そして学校近くにあるきれいな公園へ移動し、そこのテーブルに頂いたお菓子を広げる。
クッキーやカップケーキなどいろんなお菓子が出てきた。
あと、自信作としてもらったお菓子の袋には、チョコレートでコーティングされた名前のわからない何かが入っていた。
オリジナルなお菓子なのだろうか。
形は違うけどドーナツの類だと思う。
クリームも間から出てきているし、いかにもカロリー爆弾な感じがする食べ物だ。
これを頻繁に食べていたらまん丸になりそうだよ。
「智恵ちゃんのお友達、みんないい人だったね」
「確かにいい子たちだけど、さっきのはなずなちゃんだったから特にだね」
「え、私?」
「うん。まあ、気にしない方がいいよ。今は私だけを見てね」
「あ、うん。わかった」
「それじゃあ、さっそく食べようか」
「そうだね」
ではではクッキーを頂こうかな?
そう思って手を伸ばすと、トントンと肩を叩かれる。
振りむくと、智恵ちゃんが口にクッキーをくわえて顔を突き出してきていた。
……どこかで見たことある光景だなぁ。
「えっと?」
「あ、ごめんね。つい妹にやるみたいにしちゃって」
「美咲ちゃんにそんなことしてるの!? 私も混ぜて!!」
「あ、いや、今のは違うっていうか、その……」
「よし! 智恵ちゃんで練習だ! はいっ」
私はクッキーをくわえて智恵ちゃんに顔を近づけていく。
「え? ええ!? ええええええ!?」
智恵ちゃんがなぜか大慌てをしている。
しかし、ここで引くわけにはいかないのだ。
私はさらに顔を近づけていく。
「む、無理~!!」
と、そこで智恵ちゃんは急に気を失って倒れてしまった。
「智恵ちゃ~ん!?」
いったいどうしたというのだろうか。
まさか何かを盛られていた?
そんなわけないか。
とりあえず私は智恵ちゃんを担いで家まで送っていった。
美咲ちゃんにも会えたのでよかったです。
まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます