第163話 憧れのお姉さん
私たちは自販機で買ったアイスを食べながら神社を目指している。
海岸沿いの道を歩き、そして森の中へと進んでいく。
少し山の方に神社はあるようだった。
一応人が通れるように軽く整備はされているようだ。
いつ頃作られたものなのかはわからない。
でも昔に作られた道だと思って歩いていると、ちょっと感動することもある。
もし私が作った何かが100年後、200年後も誰かが使ってくれていたら嬉しいよね。
ほぼ自然の一部となっている道を歩いていくと、10分ほどで神社の鳥居が見えてきた。
こういう誰もいないところにある神社って雰囲気があるよね。
観光地化してないというか、人が踏み込んじゃいけない空気というか、そういうものを感じる。
この神社は大きくはないけど、小さいわけでもない。
しかも境内を進んで行くと、なんとむこう側はけっこう開けていて海が見渡せるようになっていた。
ちょっと高いところから見る海というものは、とてもきれいで心が癒される。
こういう景色を見ていると、自分の抱えている悩みなんかはすっかり吹き飛んでしまうね。
まあ、解決するわけじゃないんだけど。
「なにか目に見えないものを感じますね」
小路ちゃんが私の隣でつぶやくように言った。
それはいいことなのか、それとも怖いことなのか。
なにかいるってことだよね?
小路ちゃんが言うと本当にいそうで怖い。
とりあえず一通りお参りを済ませ、神社内をお散歩し、海側の方へ移動して椅子に座る。
椅子と言ってもとても古い感じのものだ。
昔の人もここで海を眺めながら休憩したりしていたのだろうか。
時代は変わっても、こういうところは変わらないということかな。
そういえばこの神社、人はいないけど掃除はされている感じがする。
道も整備されてたし、管理はされているということか。
しばらくそうしていると、隣で小路ちゃんが小さくあくびをした。
「眠たいの?」
「あ、そうですね。急に眠くなってきました。なんか力を吸われているような……」
「怖いこと言わないで……」
冗談……だよね?
「小路ちゃん、眠たいなら少し寝てもいいんですよ」
「あ、じゃあちょっとだけ」
小路ちゃんがそう返事をすると、紅葉さんは小路ちゃんを抱き寄せ、それから膝枕状態になった。
ぎゃああああああ!!
私の小路ちゃんがぁああああああ!
「すぅすぅ」
「……」
しかし、かわいい小路ちゃんの寝顔を見ていると、そんなことはどうでもよくなった。
さすが紅葉さん、ひまわりちゃんのお母さんなだけある。
これが本物の大人の女性ということなのだろうか。
見た目は完全に女子高生なんだけどなぁ。
どこかで私との差があるんだろうね。
「ふふふ、なんだか娘ができたみたいですね」
いやいや、ひまわりちゃんは!?
娘がいないことになってる……。
「そういえば紅葉さん、きょうはこんなのでよかったんですか?」
「どうしてですか?」
「いや、デートって言ってたのに、小路ちゃんも一緒だし、特に何もしてないし」
「ふふふ」
紅葉さんはお姉さんっぽく笑うと、そっと私の頭を撫でてくれた。
「一緒にいられるだけでいいんですよ。ただそれだけで……」
「うっ」
そう言ってもらえるのは嬉しい。
照れるなぁ。
紅葉さん、たまにそういう顔をするんだからずるいんだよね。
やっぱり見た目より中身ですなぁ。
と、そんな話をしていると、早くも小路ちゃんが目を覚ます。
「おはようございます」
「おはようございます」
小路ちゃんは体を起こすと、のび~をする。
「もう大丈夫なの?」
「はい。精神力は回復しました」
「そ、そっか……」
いやいや、本当に怖いからやめてほしい。
もしかして小路ちゃんは本物の巫女さんの力でも宿しているのだろうか。
「紅葉さんの膝の上、とても心地よかったです。お母さんって感じです」
「まあ、お母さんやってますからね」
「私もそんな大人になりたいです」
いやぁああああああ!!
小路ちゃんが紅葉さんに憧れの視線をむけてるぅうううううう!!
このままじゃ、私の憧れのお姉さんの地位が失われてしまう。
そもそもあったのかは知らないけど。
「小路ちゃん! 帰りは私がおぶっていってあげるね」
「え、大丈夫です」
「が~ん」
フラれてしまった……。
「あ、いえ、嫌とかじゃなくて、普通に歩いて帰れますから」
「それはまあそうだけど……」
「私、これでも野球少女ですから」
そういえばそうだった。
最初に出会ったのは小学校のグラウンドだったなぁ。
あの時は全然しゃべってくれないおとなしい子だったのに。
こんなにもお話してくれたり、一緒にお出かけできる仲になったんだよね。
もはや柑奈ちゃんもひまわりちゃんも抜きで遊んでるし。
これってすごいことだよね。
小路ちゃんの一番の親友って私なんじゃないかって自惚れているくらいだよ。
うん、これは自信もっていいかも。
そう思うと勇気ある行動もとれるってものよ。
「小路ちゃん、ぎゅ~」
「わわっ、何ですかいきなり……」
私は小路ちゃんを抱き寄せる。
抱き心地のいい小さな体はとても温かい。
とても幸せな時間だ。
……なんか誰かに見られている気がするのはちょっと怖いけど。
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