第162話 賞品はおデートです
お休みの日。
この前のバッティングセンターの件で賞品となっていた私。
約束通りに紅葉さんとデートすることになり駅前に集まっていた。
とはいえ、誰か連れてきてもいいと言われたので小路ちゃんも呼んでいる。
「よろしくね、小路ちゃん」
「あの……、なぜ私なのでしょうか」
「落ち着くからかな?」
「知っていると思うんですけど、私はひまわりちゃんのこと好きだったんです」
「うん、知ってるよ」
なぜか過去形になっているのは気になるけど。
ちなみにそのひまわりちゃんはありさちゃんに負けて商品となっている。
今日は別の場所で一緒に遊んでいることだろう。
無事に帰ってこれることを願っているよ。
「あの人、ひまわりちゃんのお母さんなんですけど……」
「うん、そうだね」
「ちょっと気まずいです」
「それはごめんね」
「まあ、いいんですけど」
「小路ちゃんからは和の香りがするんだよね。和服だからかな?」
私は小路ちゃんをぎゅっと抱きしめて深呼吸する。
「や、やめてください……」
照れる姿もかわいいよ。
「あの~、ふたりともイチャついてないで行きますよ~」
「は~い」
別にイチャついてたわけじゃないよ?
心を落ち着けていただけさ。
私たちは手を振る紅葉さんのそばまで移動する。
そして駅から電車に乗った。
私は電車で旅をするのは好きだ。
一番気軽に遠くまで行ける気がするから。
今日はどこへ連れて行ってもらえるのだろうか。
行き先も聞かずについてきているのでちょっと楽しみ。
実は神社があるというのは聞いていたので小路ちゃんにも声をかけていたのだった。
3人隣で並んで座りながら、少しチョコレートのお菓子を食べたりして電車に揺られる。
ふと後ろの窓から外を見ると、一面に広がる海。
この路線はここを通るから好きなんだよね。
頻繁に乗るわけじゃないけど、何度見てもわくわくする。
「あ、次で降りますよ~」
「そうなんですね」
ということは、この海の街で遊ぶわけか。
そういえばいつも通過するだけで降りたことないなぁ。
神社以外だと何があるんだろうか。
そんなことを思っているうちに駅に着く。
「おお~」
ただ通過するのとは違って、実際に降りてみると目の前に海があるという、そのすごさに驚く。
「海だ……」
「そうですよ」
やっぱり海はいいなぁ。
泳ぐわけじゃないけど、見てるだけで癒されるし、わくわくもする。
「なずなちゃんと言えば海ですよね」
「え、そんな感じですか?」
「はい」
そっか、そんな風に思われていたとは。
神社と言えば小路ちゃんだし、案外この組み合わせは最高なのでは?
「なずなさん、私も海好きですよ」
「私も神社好きなんだ」
「なずなさん……」
「小路ちゃん……」
私たちはそれ以上何も言わずに抱き合った。
「お~い、イチャついてないで行きますよ~」
おっといけない。
今日は紅葉さんとのデートのはずなのだ。
小路ちゃんはもちろんだが、紅葉さんにも楽しんでもらわないとね。
駅から出ると、さらに海が近くにある。
心地いい風が吹いていて、ここでボーっとしていたら眠ってしまいそうだ。
「そう言えば神社ってどの辺にあるんですか?」
近くにはなさそうだけど。
「あっちの方ですよ」
「あっち?」
う~ん、わからない。
どこまでも海岸が続いているようにしか見えなかった。
「ここを抜けて、ちょっと行ったところから山の方に入るんです」
「山ですか」
「ちょっとだけですけどね。あまり人の来ない神社らしいです」
「へぇ~」
なんか怖いなぁ。
最近は神社って観光地化していて、大体は人がたくさんいるからね。
それはそれでつらいけど、誰もいないと今度は怖いんだよ。
「とりあえず一番遠いので神社から行きましょう~」
「は~い」
ということで、まずは神社を目指すことに。
神社まで行くためにはこの長い海岸通りを制覇しなければならない。
思わず走りたくなるけど、ここは景色を楽しみながらのんびり進むとしよう。
今日はまだまだ時間があるしね。
そんな時だった。
「こ、これは!?」
「え?」
珍しく小路ちゃんが驚いたような声を出していた。
見ると、目の前には自販機。
それは飲料のものではなく、食べ物の自販機だった。
「焼きそばが売ってます!」
「本当だね~」
そういえば以前どこかでラーメンの自販機を見かけたような。
今思えばすごいなぁ。
食べ物の自販機というとプールとかではよくあるような気がする。
行かない人間からすると珍しいよね。
「あ、でもこれ全部売り切れになってるね」
「え……」
多分海水浴の時期じゃないからだろうね。
「しょぼ~ん」
そんなに食べたかったのだろうか、焼きそば。
「あ、こっちのアイスの自販機はちゃんと売ってますよ! なにか食べます?」
こっちはお馴染みのアイス自販機。
私はこの自販機アイスはプリン味が好きなんだよね。
普段のアイスだとバニラかコーヒー味なんだけど、自販機はプリン一択。
なかなかこのプリン味に敵うものがスーパーとかでは売ってないんだよね~。
「ささ、小路ちゃん、選んでください。ごちそうしますから」
「……ありがとうございます」
小路ちゃんは私と同じくプリン味を選んでいた。
紅葉さんも一緒だ。
「そういえば、私が行ったことあるプールにラーメンの自販機がありましたね~」
もしかしてそれ、私が思ってたのと同じところかも。
さりげなくつぶやいた紅葉さんのその一言に小路ちゃんが食いついた。
「ラーメン!?」
「そうですよ。食べたことはないですけど。ラーメン好きなんですか?」
「はいっ」
へえ、けっこう以外かも。
「じゃあ今度一緒に行きましょうか。ひまわりちゃんにナイショで」
「はいっ、ありがとうございます!」
そう言って目をキラキラさせながら、小路ちゃんは紅葉さんに抱きついた。
いやぁああああああ!!
小路ちゃんのハートがたやすく紅葉さんに奪われてしまったぁあああ!!
ぐすん。
さすが紅葉さん、ひまわりちゃんのお母さんなだけはあるよ。
そんな落ち込む私のそばに、小路ちゃんがそっとやってきて服をくいっと引っ張ってくる。
「あの、なずなさんも一緒に行きましょうね」
「も、もちろんだよ!」
ひゃっほ~い!!
いつになるかわからないけど、小路ちゃんの水着姿、この目に焼き付けまくって見せるよ~!!
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