第155話 出会わせてはいけないふたり

「いいねいいね~、あのスカートのヒラヒラいいね~」

「なずなさんはいつか本当に捕まりそうですね……」


「え~? 大丈夫だよ~、見てるだけだし」

「といいつつ、手にスマホ持ってますし」


「大丈夫大丈夫、バレなければ」

「それアウトですね」


 今私は珊瑚ちゃんとともに近くの公園に来ていた。

 なぜ珊瑚ちゃんと一緒なのかというと、よくわからないけど待ち伏せされていたからだ。


 まあひとりよりふたりの方が楽しいということで、細かいことは気にしない。


「なぜあのヒラヒラは人を惹きつけるのだろうか」

「ヒラヒラというより、もしかしたら絶対領域の方かもしれませんけどね」

「なるほど、それもあるかもしれないね」


 そんな会話をしながら、いったん私はベンチに腰を下ろす。

 隣には珊瑚ちゃんが座る。

 のんびりとした時間が心地いい。


 空を見上げると、そこには青空が広がっている。

 今日もいい天気だ。


 なんて思っていたら、急に誰かの顔が目の前に現れて、驚きのあまり固まってしまった。


「こんにちは~」

「こ、こんにちは~」


 なんとか挨拶を返しながら、私はバクバクいっている心臓を落ち着けにかかる。

 びっくりした~。

 やられたかと思ったよ……。


「どうかしたんですか?」

「わっ」


 今度は下から覗き込まれてまたまた驚かされる。

 お相手はみこさんだ。

 なんでこの人はいつも突然現れるんだろうか。


 と思ったけど、最近はいろんな人が突然現れるから、別にみこさんの特殊能力ではない気がする。

 それにしても下から覗き込まれると、かわいさがさらに増すなぁ。


 いつか襲われちゃいますよ?

 この私にね!


「うふふ、なずなさんは驚かせると面白いですね」

「そ、そうですか? あまり驚かさないで欲しいのですが……」

「努力しますね♪」


 あ、今の超かわいいです。

 と、ここで置いてけぼりの珊瑚ちゃんから視線を感じる。

 みこさんもそれに気付いて珊瑚ちゃんを見る。


「……」

「……」


 見つめ合うふたり。

 なんとなく、会わせてはいけないふたりが出会ってしまった気がする。

 しばらく膠着状態が続いた後、ついにみこさんが動き出す。


「はっ!」


 おおっと、ここでみこさんが栗饅頭を取り出した!

 相変わらずどこから出てきたんだ~!?


「はっ!」


 おおっと、そして珊瑚ちゃんがソフトクリームを召喚した~!

 こっちはもっとどこから出てきたんだ~!?


「……」

「……」


 がしっ!

 何か通じ合うものがあったのか、ふたりは握手を交わした。

 そして栗饅頭とソフトクリームを交換し、おいしく頂き始める。


 私は何を見せられているのだろうか。

 ……あの、私の分はないのですか?


 とりあえずふたりはおいておいて、私は再び可愛い女の子を観察するとしましょう。

 立ちあがり、私は女の子のお尻を視線で追いかける。


 あ~、神風でも吹かないかなぁ~。

 とその時、私の願いが届いたのか公園内に突風が吹きつける。

 そして私のスカートがありえない感じでめくれあがった。


「って、なんで私!?」


 せっかくの神風だったが、犠牲者は私だった。

 カシャカシャっとカメラの音がする。


 音がした方を振り返ると、そこにいるのは珊瑚ちゃんとみこさん。

 しかし手には栗饅頭とソフトクリームのみ。


「なんか今、カメラの音しなかった?」


 とりあえず聞くだけ聞いてみる。


「してないですよ。ねえ?」

「ええ、気のせいだと思いますよ?」


 珊瑚ちゃんもみこさんも怪しげに知らないと言う。

 ……。

 まあ、一応見られて困るようなものではないが。


 ちゃんとスパッツを履いておるからのう。

 ふぉっふぉっふぉ。


「それにしてもなずなさんは過激な下着をつけているのですね」

「え?」


 なぜだかみこさんが頬を赤らめてそう言った。

 そんなばかな……。

 ちゃんとスパッツを履いてるはず……。


 そもそもそんな変な下着を身につけた覚えはない!

 思わず私は確認のためにスカートをめくりあげた。

 その瞬間、連続でシャッター音が鳴り響く。


「ふっふっふ、ベストショットです」

「やられた!?」


 くそ~、騙された~!

 というか、そんな手があったとは。


「さすがみこさんです!」

「そちらもさすがのシャッタースピードですね!」


 シャッタースピードってそういう意味じゃないでしょ!?


「「イエ~イ」」


 ハイタッチする珊瑚ちゃんとみこさん。

 なんかすごい仲良くなってる!?


 まずい。

 やっぱり出会わせてはいけないふたりだった……。


「みこさん、連絡先を交換していただいてもよろしいでしょうか」

「ええ、ぜひ」


 ちょっと待ってくれ~!


「今度家に遊びに来てください。とっておきのなずなさんコレクションをお見せしますよ」

「あら、それは素敵ですね。おいしいお菓子を用意してお邪魔させていただきますね」


 全然素敵じゃないです~!!

 これは、これは……。

 由々しき事態ですよ~!?


「うふふ」

「うふふ」


「うふふ」

「うふふ」 


 ふたりの微笑みが、まるで魔女のもののように感じられた。

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