第156話 何の変哲もないただの一日

 さてさて、いつもはコーヒーを飲む私ではありますが、今日はお茶にしましょうか。


 お茶というと紅茶のことだと思われるけど、私のお茶は緑茶だ。

 そして緑茶と言えばやはり和菓子がいい。


 とりあえずどら焼きあたりが食べたいところ。

 家にあったかな?


 リビングにむかい、普段お菓子の入っている棚をあさってみる。

 おおっ、ちょうどどら焼きがあるじゃないですか。

 ひとつ頂いていくとしよう。


 ついでに緑茶の用意をし、部屋に戻る。

 ではでは、アニメを見ながらおいしくいただきましょう。


 この前、配信に入ってきたアニメ映画。

 それが以前から興味はあったのに見れてなかった作品だった。

 楽しみにとっておいたので、今日はこれを楽しむとしましょう。


 この作品、特におねロリ作品というくくりではない。

 しかし、女子大生と女子小学生の、友情をはるかに超えていると思われる友情を描いている。


 そのため、その道の人にはおねロリ作品として評判なのだ。

 最近はこうした隠れた名作を掘り当てては楽しんでいる。


 さあて、この作品は私を満足させることができるかな?

 では視聴開始だ。


 ……。

 ……。

 ……。


 そして1時間半が経過。

 視聴終了。


「な、なんてええ話なんや~!」


 思わず言葉遣いがおかしくなるほどのめり込んでしまった。

 感動である。

 萌えとかかわいいとかを期待していたところがあったけど、これはもう普通に泣ける。


 なるほど、だからSNS上でも内容についてはほとんど触れられていなかったのか。

 劇場公開からは大分経っているし、円盤も売られているというのになぜだろうとは思っていたけど。


 確かにこれはネタバレしたやつは消されるレベルだな。

 ふう~、満足した~。


 どら焼きを食べながら見るつもりだったのに手つかずだよ。

 さっさと食べてしまおう。


 なんだかいつもよりおいしく感じるどら焼きを頬張り、すっかり冷たくなった緑茶を飲む。

 最高の時間だった。


 もう寝てしまいたいくらいにエネルギーを使い果たしたよ。

 と、そんな半分放心状態な私にスマホの着信が入る。

 そういえば電源切ってなかったなぁ。


 まあ、ここまでの作品とは思ってなかったしね。

 よく視聴中にならなかったものだ。

 奇跡だね。


 スマホを見ると、お相手は茜ちゃんだった。

 これがもし珊瑚ちゃんとかだったら、私がアニメの視聴を終えたのを待ってかけてきたとか思ってしまうね……。


「やっはろ~。どうしたの茜ちゃん」

『やっはろ~! 今散歩しながらなずなの家の近くにいるんだけど、どこか出かけない?』


「いいよ~。どこ行く? 走る?」

『なんでそうなるの……。別になずながそうしたいならそれでもいいけどさ』


「冗談だよ。じゃあすぐに準備するから。着いたら勝手にあがってていいよ」

『いますぐ行くからゆっくり着替えてて!』


「いや、別に着替えないけど……」


 私は出かける準備に時間をかけない人なのだ。

 そして茜ちゃんと合流した私は、なんとなくぶらぶら歩いて公園のベンチに座っていた。


 一応普段はあまり来ないようなちょっとだけ遠い河川敷の公園だ。

 そこでぼ~っと時間を過ごす。

 これが幸せというものだよ。


 そんな私たちの視界の中に、犬を散歩させている女の子が入ってくる。

 モフモフなかわいい犬と、モコモコしたかわいい服を着たかわいい女の子だ。

 茜ちゃんも同じようにその子を見ていたらしく、ぼそっとつぶやく。


「かわいいね~、モフモフだ」

「そうだね。モコモコした服を着た女の子って大好きだなぁ」


「え、服? 女の子?」

「え?」


「え?」


 どうやら茜ちゃんのは犬のことだったらしい。

 ちょっと恥ずかしかった。


 そんな感じでその後もぼ~っと女の子を眺めたり、お姉さんを眺めたりしていた。

 それはそれで楽しいのだが、私自身はまったく動いていないので、次第に眠気を感じるようになってくる。


 映画視聴で感情を揺さぶれたからかな。

 ダメだと思いつつ目を閉じた瞬間、私の太ももにドスンと衝撃があり、一気に目が覚める。


 なんと茜ちゃんが隣から倒れてきたのだった。

 同じように茜ちゃんも眠くなっていたようだ。

 悪いことしちゃったかな。


 もっとちゃんとお出かけすればよかったかも。

 なんて思いながら、私の膝の上で眠る茜ちゃんの顔を覗き込む。

 茜ちゃんもかわいいんだよね~。


 眠っていると、ちっちゃい子みたいでさらにかわいい。

 私はほっぺたをぷにぷにしたりしながら、しばらくその寝顔を眺めていた。


 そして今度は、起こさないようにそっと茜ちゃんの頭を撫でる。

 やっぱりここに来てよかったかも。


 たまにはこんな風に過ごすのも悪くない。

 そう思った。


 ……視界の端で冷たい笑顔をむけてきているひまわりちゃんを見つけるまでは。

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