第154話 ありさちゃんとかわいい女の子巡り

 さて、ちょっと時間も空いたし、軽く走りに行ってこようかな。

 放課後、同好会もなく、誰かと遊ぶ約束もなかった本日。


 少し体を動かしたい気分だったので、私はジョギングをしに出かけることにした。

 近くに大きな川があるおかげで、河川敷の道は良いジョギングコースとなっている。


 この道を最後まで走り抜けば、なかなかに有名な観光地までたどり着くというおまけつき。

 まあ、けっこうな時間がかかるうえに、行ってしまうと戻ってくるのも大変なので今日は行くつもりはないけど。


 とりあえずどこかでぐるっと回って折り返してくるとしましょう。

 ではいざっ!


 家の鍵をかけて敷地から出ると、そこでびっくりすることにとある少女と出会った。


「あ、ありさちゃん!?」

「こんにちは、なずなさん」


「どうしてここに?」

「この前はなずなさんがプールまで来てたじゃないですか。今度は私が遊びに来ました」


「え、わざわざ私のところに? めちゃくちゃ嬉しいよ! 結婚しよう!」

「ちょっと意味がわからないですね。ところでどこか行くんですか?」


「相変わらずありさちゃんはツンツンだなぁ。ちょっとジョギングに行こうかと思ってたんだ」

「そうでしたか」


「でもありさちゃんが来てくれたことだし、予定変更かな」

「え、いいじゃないですか。私も一緒に走りますよ」


「一緒に走るの?」


 そういえばありさちゃんって、意味の分からないところで懸垂しているような子だったな……。

 どうせなら一緒に遊びに行きたいところだけど、まあ一緒に走るのも新鮮で悪くないかもしれない。


 もしかしたら、汗をかいて一緒にお風呂展開もありえるしね!

 よ~し、ありさちゃんと一緒に汗まみれになるぞ~!


「なんか変なこと考えてません?」

「考えてないよ? じゃあ行こっか」

「はい」


 私たちはまず、河川敷の道へむかって走り出した。

 ありさちゃんは小さいけど、こう見えて中学生。

 きっと体力も小学生たちよりあるはず。


 と言ってもまだ中学生。

 ある程度は加減してあげないとね。

 そう思っていたら、ありさちゃんは私の隣に並んできた。


「なずなさん、もしかしてこのサイクリングロードを最後まで走るつもりですか?」

「いや、今日はそこまで走るつもりじゃないよ。軽く運動したかっただけだし」


「そうでしたか。ではでは、せっかくですからかわいい女の子でも眺めながら走りませんか?」

「……ほう、詳しく」


「この時間だと、まだ外で遊んでいる女の子たちがいるわけですよ」

「ほうほう、つまりは走りながら、そういった子たちがいる場所を巡っていくわけですな?」


「そういうわけです」


 さすがありさちゃん。

 かおりたん大好きクラブの仲間なだけはある。


 将来有望だ。

 ぜひうちの高校へ入学してもらって、幼女同好会の会長を引き継いで頂きたい。


 私たちはしばらく河川敷を走った後、坂道から住宅街へ戻り、公園のある場所を目指していく。

 女の子がいれば公園の中に入り、スローペースで走る。


 今日はじっくりと眺めたり、写真を撮ったりはしない。

 あくまでもジョギングコースにかわいい子がいただけなのである。


 そんなわけで私たちは近場の公園をはしごしていく。

 なぜだか今日はいつも以上にどの公園もにぎわっていて、楽しさのあまりいつの間にか結構な距離を走っていた。


 気付けばいつも通るような道を逆走していたりして、また違った景色が見えるのも楽しい。

 まるで見知らぬ土地に来たみたいだ。


「楽しいね、ありさちゃん!」


 私が振り返ると、そこにはまるでゾンビのようなひどい顔をしたありさちゃんの姿が。


「ありさちゃ~ん!?」




 私たちは走るのを止め、たまたま近くにあった神社の境内で一休み。

 自販機で飲み物を調達し、ありさちゃんに手渡す。


「ごめんね、ありさちゃん」

「い、いえ……」


「大丈夫?」

「なんとか」


 どうやら楽しくてペースを上げすぎてしまったようだ。

 相手はまだ中学生。

 ちゃんとペースを考えるべきだった。


「なずなさんはやっぱり体力すごいですね」

「あはは……、かわいい子を見てたら無限に力が湧いてくるんだよね」


「そういうものですか」

「そういうものだよ」


 しばらくぼ~っとして休憩する。

 ありさちゃんは飲み物を飲み終えると、すっと立ちあがる。


「そろそろ帰りましょうか」

「うん、そうだね」

「おっと」


 歩き出そうとしてふらつくありさちゃん。

 まだ本調子ではないようだ。


「おぶって帰るよ」

「ええ!? いやいや、大丈夫ですよ」

「ダメダメ、危ないから」


 私は少し強引におんぶをさせる。

 ありさちゃんはあきらめて私の背中におぶさった。


 ゆっくりと歩きながら、とりあえず私の家を目指す。

 幸いなことに、いろいろ走り回った結果、ある程度家の近くまで戻ってこれていた。


「なんだか恥ずかしいです」

「恥ずかしがってる姿がかわいいんだよ」


「なずなさん、見えないでしょ」

「そうだね~」


 のんびりまったりと歩く。

 すっかり夕暮れの時間だった。


「今日は泊っていく?」

「明日も学校なんですけど」


「よし、休もう」

「いやいや」


 ありさちゃんはそそのかされたりしない真面目な子だった。


「大丈夫ですよ、あとでむかえに来てもらえることになってるので」

「そうだったんだ。じゃあその場所まで送った方がいいよね?」


「なずなさんの家ですけど」

「おおう」


 用意いいなぁ。

 と、家の近くまで戻って来たあたりで突然声をかけられる。


「あ~! ありさちゃんがおんぶされてる~!!」


 声をかけてきたのはひまわりちゃんだった。

 柑奈ちゃんたちもいる。

 一緒に遊んでたんだね。


「ふふん、いいでしょ」

「ずるい!」


「頑張ったご褒美みたいなものだから」

「何を頑張ったの?」


「ナイショ」

「む~」


 なんだか最後は騒がしくなったけれど、今日も楽しくて素晴らしい一日だった。

 家の前でありさちゃんを降ろし、空を見上げる。


 私はさっきまでありさちゃんのふとももを支えていた手で顔を覆い、大きく息を吸い込んだ。

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