第153話 彩香ちゃんとおねロリ映画

 用事が早く終わり、空いた時間で彩香ちゃんとお出かけ。

 腕を組みながら歩き、再び駅前に戻ってきた。


「それでどこに行くつもりなのかしら?」

「え?」


「駅に戻ってきたんだから、行きたいところがあるんじゃないの?」

「ううん、何も考えてなかったよ」


「そうなのね」


 むしろ彩香ちゃんに任せてたつもりだったよ。

 まさか私に委ねられていたとは……。


「せっかくここまで来たんだし、ショッピングモールで映画観よっか」

「何か観たいものあるの?」


「本当は明日見に来るつもりだった映画があるんだ」

「あら、それはいいじゃない」


「でも彩香ちゃんが楽しめるかはわからないよ」

「それは気にしなくていいわ。そういうのは愛花ちゃんで慣れてるから」


「ほえ~、やっぱりお姉ちゃんなんだね~」

「あなたもそうでしょ」


「私の場合、柑奈ちゃんの好きなものは私の好きなものでもあるから」

「私も似たようなものよ」


「でも今日は私の好きなものだよ?」

「それも似たようなものよ」


「え? もしかして彩香ちゃんは私のこと好きなの」

「帰るわよ」

「わ~、冗談だってば~」


 もうっ、彩香ちゃんたら照れちゃって~。

 そんなやり取りをしながら映画館にむかい、私の観たい映画のチケットを購入する。


「……まさしくあなたらしい作品ね」

「きっと彩香ちゃんも楽しめると思うよ」

「だといいわね」


 ふふふ、実はこの作品、おねロリ作品なのだ。

 きっと妹好きな彩香ちゃんなら楽しめるはず。

 一緒に見るんだから、私だけ楽しんじゃ悪いからね。


 少しだけ本屋さんで時間を潰した後、映画館に戻ってくる。

 私たちの見る作品はシアター2だった。

 ちゃんと隣通しで席は取れたし、後は映画を楽しむのみ。


 内容は病弱な女子小学生と出会い、恋をしてしまった女子高生の話。

 まったくもって私の趣味全開の作品である。


 お話はともかく、おねロリ作品として売っているためか、劇場内はそこまで混んではいなかった。

 さすがに超大作みたいに、次の上映時間まで席が埋まっているようなことはない。


 時代はまだまだ私たちに追いついてはいないようだ。

 まあ、それも時間の問題さ。

 きっとね。


 隣に彩香ちゃんがいるのを忘れ、ひとりでいろいろと考えを巡らせていると、急に照明が暗くなる。

 おっと、いつの間にか映画の宣伝たちは終わっていたようだ。


 あれも楽しみのひとつだったのにね。

 そして本編が始まった。

 ……。




 映画を見終わった私たちは、ショッピングモール内のカフェに移動した。

 前にも来たことのある、コーヒーもパンもケーキも安いお店。

 私たち学生の心強い味方だ。


 映画で感動した後は、とりあえずコーヒーを飲んで心を落ち着けるのがいい。

 主に今回は彩香ちゃんのだが。


「はぁ~、最高の映画だったわね~。空ちゃん尊すぎる……」

「彩香ちゃん、完全にオタクみたいになってるよ……」


 私も感動したし、空ちゃんは最高なのだが、彩香ちゃんがこんな状態なので私は冷静になってしまった。


 恐らく彩香ちゃんが冷静だったら私がこんな風になっていたのだろう。

 そう思うとぞっとする。


 私がそう思うくらいに、目の前の彩香ちゃんは気持ち悪い顔をしていた。

 ちなみに空ちゃんとは映画のヒロインである女子小学生の名前だ。


「もうね、お話は最高だし、空ちゃんはかわいすぎるし。なんでグッズが全然置いてないのかしら」

「なんというか、まあ、一応マイナーな作品なんだよね」


「くっ、早く時代が私たちに追いついて欲しいものね」

「……」


 なんか映画が始まる前の私と同じことを考えているようだ。

 実際に言葉にされるとちょっとイタイ感じもするけど、同じ気持ちなのは嬉しい。

 なにより私よりも楽しんでくれたみたいでよかった。


「今すぐもう一度観たい気持ちだけど、ここは抑えて明日またこようかしら」

「私は来週に来ようかなって思ってるんだ。入場特典も変わるし」

「そうなの?」


 今週はキャラクターのミニ色紙だったけど、来週はミニノベルが配布される。

 このシナリオを読んでみたいので、来週も来るしかないわけだ。

 フリマアプリで手に入れてもいいんだけど、もう一度観たいしちょうどいい。


 しかしまあ、2週目にミニノベルを持ってくるのはなかなかうまいのではないだろうか。

 制作陣はけっこう自信ありだったのでは?


「白河さん! それじゃあ来週も一緒に観に来ましょうか!」

「そうだね!」


 こうして私たちは来週の映画デートの約束をした。

 友達と、同じ作品やキャラクターを推すというのはこんなにも楽しいものなのか。

 それは沼るわけだね。


 その後も私たちは時間を忘れ、映画の内容や空ちゃんのかわいさ、それから別の作品の話で盛り上がる。

 気付けば窓の外はオレンジに染まっていて、私たちは我に返って帰宅することに。


 ものすごく楽しい時間を過ごし、この時飲んだブラックコーヒーは、なぜだかとても甘く感じたのだった。




 そして休み明けの放課後。

 いつも通りの同好会が始まった。

 そして、珊瑚ちゃんから今日の活動内容が知らされる。


「今日はお休みの日になずなさんと委員長が見に行った映画の感想をお聞きしましょ~」

「……」

「……」


 なぜ映画を観に行ったことを知ってるんだ……。

 あと、映画の感想なんか聞かずに、ちゃんと観に行った方がいいと思います!

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