第151話 ドーナツと女の子

 休日の公園にて、現在ボーっとしております。

 なんとなく気分を変えて、公園のベンチでドーナツを食べる。

 こういうのも贅沢な時間だ。


 チョコレートのかかったドーナツを堪能し、甘い甘いココアを飲む。

 くぅ~、染みますなぁ~。


 ふぅ~っと息を吐き、ふと隣を見ると、いつの間にか幼い少女が座っていてこちらを見上げていた。

 びっくりだ。


「……」

「えっと……、私に何か用かな?」


「……」

「食べる?」


「いいの?」

「いいよ」


 私は袋に入ったドーナツをひとつ女の子に手渡す。

 あればあるだけ食べてしまうから、私の健康的にも食べてくれた方がいいだろう。


 女の子はドーナツをひと口食べてから、残りをガツガツと食べ進めていった。

 もしかしてドーナツは初めてだったのだろうか。


 知らない人にお菓子もらっちゃいけないよ?

 なかなか心配な子である。

 これは私が見守ってあげないといけないな。


 私ももう一つドーナツを取り出して食べる。

 これは穴がないタイプで中にはあんことクリームが詰まっていた。


 糖質爆弾のような食べ物な気がするけど、実際どうなのだろうか。

 とりあえず食べてから考えよう。


 おいし~!

 あっという間に平らげて、私は空を見上げる。

 幸せな時間だ。


 何もせず、何も考えず、ただボーっとするだけの時間。

 こういう時間を取れることが幸せだということなのかもしれない。


 ……普通の女子高生が考えるようなことではないような気がするけど。


 しばらくそうしていると、とんと私の腕にのしかかってくる重さを感じる。

 見ると、女の子がいつの間にか眠ってもたれかかってきていた。


 甘いもの食べて、そして寝る。

 それも幸せな時間だよね。


 よく見ると、唇にチョコレートが付いてしまっている。

 これはお姉さんがきれいに舐めとってあげるしかあるまい。


 ……と思ったけど、冷静になるとヤバいはずなのでやめておこう。

 ふぅ、よく気付いた私。

 えらいぞ。


 まあ、こんな風に小さな温もりを感じながらのんびりするのも悪くはないか。

 これも幸せな時間だ。


 あ、そうだ。

 せっかくこんなことになっているんだし、おねロリマンガでも読もうじゃありませんか。


 スマホを取り出し、アプリから電子書籍を開く。

 ちょうどこんな感じのシチュエーションの作品があったかも。

 現状の参考になるかもしれない。


 あ、これだこれだ。

 公園で女の子がもたれかかってきて眠っている状態。

 さあ、このマンガだとどうなる?


 ……胸元を覗き込んでいるね。

 私もやってみるか。


 しかし残念ながら何も見えない。

 隙間なんてなかった。


 続きを読む。

 今度は胸元へ手を突っ込んで……。

 いかん、これはエロマンガだった。


 あやうく参考にしてお縄につくところだったよ。

 と、そこで女の子が急に目を開けた。

 いや、本当に危なかったよね。


「……誰」


 誰と言われても……。


「あ、ドーナツのお姉さん」

「ドーナツのお姉さんですよ~」


「遊ぼ~」

「いいよ~」


 どうやらドーナツ効果で懐かれたらしい。

 なんというコスパの良さだろうか。

 ドーナツひとつで女の子と仲良くなれるなら、私はいくらでも買ってくるよ。


「何する?」

「本を読む」

「……」


 おとなしそうな子だとは思ったけども、まさか本とは。

 それは遊ぶというのだろうか。


「体を動かさない?」

「……」


 ものすごく嫌そうな顔をされた。

 そんなに動きたくないのか。

 この歳でそれでは将来が心配である。


「運動するとね、健康になるんだよ?」

「……」


 興味なしか。


「運動するとね、頭もよくなるんだよ?」

「……」


 あ、今ぴくっと反応した。


「運動する」

「よし、じゃあ走ろうか」

「嫌~」


 嫌か。

 まあ、運動しない子にとって、走るなんてつらいだけで何も楽しくないもんね。


「じゃあ、お散歩でもしようか」

「そんなのでいいの?」

「うん。初めはこれくらいからね」


 というわけで、私たちは公園を出て、どこを目指すわけでもなく歩き始める。

 まあ、とりあえずぐるっと回って、何か見つけたら寄るくらいでいいだろう。


 それより、手くらい握ってもいいのだろうか。

 ちょっと試してみるか。

 私はそっと女の子の手を握ってみる。


 すると女の子はこちらを見上げ、そしてにこっと笑ってくれた。

 天使だ……。


 繋いだ小さな手がやわらかい。

 そして温かい。

 とても幸せな気持ちだ。


「お姉さん、どうかしたの?」

「ううん、ちょっと考え事してただけだよ」


 いかんいかん、今は淑女らしくこの子をエスコートしなければ。

 ぶらぶらと歩いていると、視界に神社の鳥居が入ってくる。

 こんなところに神社があったなんて。


 小さな神社だけど、ちょっと寄って行くのも悪くない。

 住み慣れた街だとしても、いつもと違う道を通って散歩していると新しい発見があるものなんだなぁ。


 お参りをし、今日のこの子との出会いを感謝し、神社を出る。

 今度は大通りの方に行き、そこから噴水のある広場へむかった。

 ふたりでしばらく噴水アートを楽しむ。


「あ、時間が出てきた」

「楽しいよね、こういうの」


 そして今度は河川敷の方へ。

 この辺りには、この時期に綺麗なお花が咲き誇るところがある。


「わあ、綺麗……」


 お花に興味があるかわからなかったが、どうやら喜んでくれたようだ。

 このお散歩コース、もしかしたら小路ちゃんや愛花ちゃんあたりとのデートでも使えるかもしれない。

 でも、けっこう歩いたなぁ。


「疲れた?」


 ちょっと心配になって聞いてみる。


「うん。でもお散歩楽しいね!」

「そっか、よかったよ」


 どうやら私はひとりの女の子の運動嫌いを直せたかもしれない。

 ふふ、この子の人生、変えちゃったかもね。

 そして私たちは公園まで戻って来た。


「到着~」

「楽しかった~」


「だね」

「じゃあ、そろそろ帰るね。お姉さんバイバイ」


「うん、バイバイ」

「またね~」


 女の子は手を振りながら走って公園を出ていった。

 またね、か。


 名前も連絡先も聞いてないけど、また会えるだろうか。

 会えるといいな。

 私はすごく満たされた気持ちで家に帰った。


 ……なんかすごく健全な1日を過ごしてしまった気がする。

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