第150話 いつもと違う自然公園と幼馴染

 今日は柑奈ちゃんとひまわりちゃんとともに、いつもとは違う自然公園に来ていた。

 ここにもちょっとしたアスレチックがあって、今まさに挑戦中。


 私は保護者らしい振る舞いで、縄梯子を登るひまわりちゃんのすぐ後ろにつけている。

 決してやましい気持ちがあるわけではない。

 ひまわりちゃんや柑奈ちゃんにもしものことがあったらいけないと思っての行動だ。


 簡単なアスレチックなので余裕を持って登っていると、その途中で心地よい風が吹き付け、私の頬をやさしくなでる。

 ああ、なんという素晴らしき休日だ。


 その風に揺られて、ひまわりちゃんのスカートがふわりと舞い、私の頬をやさしくなでる。

 ああ、なんという素晴らしき休日だ。


 先に登りきったひまわりちゃんが膝をつくと、私の目の前にかわいらしいお尻が突き出される形となる。

 その瞬間、私は無意識にそのふたつのお山にむかって顔を突っ込んでいった。


「ぎゃ~、何してるんですか~!!」

「わっと」


 ひまわりちゃんは悲鳴をあげながら、私の顔面にヒップアタックを繰り出してきた。

 そんな幸せアタックをまともに食らいながらも、私は腕力で耐えきってみせる。


 ふぅ、危ないところだった。

 やはり筋肉はすべてを解決するのだな。


「ごめんね、つい」

「ついじゃないですよ~! 恥ずかしいじゃないですか~!」


「栗饅頭あげるから許して?」

「なぜ栗饅頭……」


 私はジト目になるひまわりちゃんに栗饅頭を手渡す。

 ……。


 あれ?

 私、今どこから栗饅頭を出したんだろう。


 まずいぞ……。

 なんかみこさんみたいな謎のスキルを身につけてしまったのかもしれない。


 これでは私もファンタジーキャラの仲間入りを果たしていまう……。

 いや、ダメだ。


 私は大和撫子を目指す女子高生。

 魔法なんか使っている場合ではないのである。


「あ、柑奈ちゃんにも栗饅頭あげるね」

「今どこから出したの?」


「どうやら魔法を使えるようになったみたい」

「ふ~ん」


「もうちょっとお姉ちゃんに興味持って!? ああ、どうしよう、私は大和撫子のはずなのに」

「姉さんが大和撫子……。ふっ」


「鼻で笑われちゃったよ」


 ひどいよ柑奈ちゃん。

 まあ、そんなこんななことをしながら、アスレチックを攻略し、広場に戻ってきた。


 私は浅い川に足をつけながら、川ではしゃぐ柑奈ちゃんたちを眺めてのんびりしている。

 水遊びをする女子小学生ふたりを眺めて過ごすなんて、最高の休日だ。


 と、そこに私と同年代くらいと思われる女の子が走ってくるのが見える。

 そしてそれは信じられないことに、私たちのよく知る顔だった。


「あ、なずなだ! すごい偶然だね!」

「茜ちゃん……、これが偶然っていうのはなかなかきついと思うよ?」


「いや、別に後をつけてきたとかじゃないからね!?」

「いやいや、茜ちゃん、自分の過去の行動を思い返してみてよ」


「なんかあったっけ!?」


 いや、いいんだ。

 自覚がないならそれでね……。


「あ、茜ちゃんだ」

「やっほ~」


 茜ちゃんを見つけた柑奈ちゃんが、川からこちらにむかって駆けてくる。

 そして事件が起こった。


「あっ」

「おっと」


 足を取られた柑奈ちゃんが、なんと茜ちゃんの胸に突撃し、顔をうずめているではありませんか。


「ぽや~ん」

「ぎゃ~!!」


 か、柑奈ちゃんが私とお母さん以外の胸で天国へ行ってる~!

 茜ちゃん、まさかそこまでとは……。

 今度私も茜ちゃんの胸に突撃してみよう。


「茜ちゃんの胸、けっこう落ち着く……」

「そうなの?」


「うん、なんか姉さんに近い感じ。成長したね、茜ちゃん!」

「あ、ありがとう?」


 なんか誇らしげに上から目線な柑奈ちゃんと、微妙な表情をする茜ちゃん。

 それはそうなるよね。

 そして茜ちゃんは私の方をむいてこう言った。


「まあ、私はなずなの胸が世界一だと思ってるけどね」

「え……、そんなこと思ってたの……?」


「こら、引くんじゃない」

「あはは、冗談だよ」


 それにしても、なんで私たちは自然公園にまで来て、この心地よい太陽の下でこんなアホな会話をしているのだろうか。


 せっかくだからもっと有意義な時間を過ごしたいところだ。

 そう思っていたら、茜ちゃんがばっちり提案してくれた。

 

 さすが私の幼馴染。

 ただの変態ではない。


「むこうで野球でもする? 私、ピッチャーやるよ?」

「え、茜さん、ピッチャーできるんですか?」

「なずなに比べたら全然だけどね。並の女子高生以上ではあると思うよ?」


 そりゃ、茜ちゃんくらい鍛えている子が並の女子高生レベルなはずがない。

 でもそういえば、茜ちゃんとはキャッチボールくらいはするけど、全力投球は最近見たことないかも。


「せっかくだし勝負しましょうよ」

「ほう、ひまわりちゃんがバッターをやるってこと? いいよ」


「決まりですね」

「じゃあ、3打席勝負で、ひまわりちゃんが1本でもヒットを打てたら勝ちでいいよ」


「わかりました」


 そして突然始まる茜ちゃんとひまわりちゃんの野球対決。

 まあ、なんだかんだふたりともスポーツ少女なんだよねぇ。

 場所を移し、対決が始まる。


「じゃあ、いくよ!」


 茜ちゃんの第一球。


「な、なんだあのフォームは!?」


 私が思わずそんなセリフをはいてしまうくらい、茜ちゃんは独特のフォームで投球を始める。

 なるほど、アニメの影響だな。


 突然ピッチャーをやるなんて言うから何事かと思ったけど、そういうことだったわけだ。

 茜ちゃんの投げたボールはなかなかの速度で、なぜか巻き込まれてキャッチャーをやらされている私のミットに収まった。


「はやっ」


 ひまわりちゃんはその球速に驚いている。

 しかし、本来の茜ちゃんならもっと速い球を投げられるはずだ。

 あのアニメフォームは茜ちゃんの力をうまく引き出せるようなものではない。


 そしてひまわりちゃんは投手でありながら、打撃センスもなかなかのものがある。

 これはもたないな……。


 そんな私の予想通り、3打席目でひまわりちゃんは茜ちゃんの直球を完璧にとらえてヒットとなった。


「私の勝ちですね」

「あ~、負けちゃったか」


「アニメキャラのモノマネなんてするからですよ」

「あ、ひまわりちゃんも見てる?」


「もちろんです! 今期ナンバーワンアニメです」

「だよね~」


 ちょっとちょっと、ふたりで盛り上がらないでよ!

 え、なんで?

 私そのアニメ知らないんだけど……。


 もしかして私の使っている配信サイトじゃ見れないやつ?

 くぅ~、私もまぜて~!


「じゃあ茜さん、服脱いでください♪」

「なんで!?」


「野球で負けたら脱ぐんですよ?」

「なにそれ、どういうこと!?」


「なんか昭和という古の時代にそういうルールがあったみたいですよ?」

「それは野球拳の話かな!?」


 古の時代って、それは言いすぎだよひまわりちゃん。

 あと野球拳って、本来負けたら脱ぐなんてルールはないそうですよ。

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