第148話 食べ過ぎ大和撫子
お蕎麦とわらび餅を堪能した私たちは、揃ってお店の外に出る。
う~ん、おいしかった。
食事もしたし、この後は近くの公園にでも行って、お昼寝でもしながらかわいい女の子でも眺めたい気分だ。
「みなさん、食後のデザートにソフトクリームはいかがですか?」
そう言う珊瑚ちゃんの手には、どこから出てきたのかおいしそうなソフトクリームが握られていた。
なんかみこさんの栗饅頭みたいになってきたね、珊瑚ちゃんのソフトクリーム。
栗饅頭よりもはるかに難易度が高いと思うけどね。
「珊瑚ちゃん、デザートならさっきわらび餅食べたけど……」
「遠慮せず、どうぞ」
「わ~い」
このソフトクリーム、めちゃくちゃおいしいんだよね。
では遠慮なくいただきましょう。
うん、甘い。
ソフトクリームは全員に配られ、私はのんびりまったりと堪能する。
あ、コーンがのどに引っかかった……。
私がコーンと格闘していると、くいくいとスカートを引っ張られる。
振りむいてみると、引っ張っていたのは小路ちゃんだった。
もう食べ終えたのか、手に握られていたソフトクリームは姿を消している。
すごい……。
「小路ちゃん、どうかした?」
「あの、この後って時間ありますか?」
「えっと、近くの公園で女の子を……、ゲフンゲフン! 何もないけど?」
「また神社へ行きませんか? 行ってみたいところ見つけたんです」
「いいよ~」
こうやって誘ってくれる人がいると、自分では行かないようなところにも行けるからいいよね。
「みんなも神社行く?」
「そうね、ちょっと興味あるわね」
彩香ちゃんが返事をし、愛花ちゃんと珊瑚ちゃんも一緒に来てくれるみたいだ。
「じゃあみんなで行こっか、小路ちゃん」
「……そうですね」
「うん?」
小路ちゃんは笑顔だったけど、なんかちょっと冷たい雰囲気を感じた。
まあ、気のせいでしょう。
ということで、私たちは小路ちゃんの案内で神社へとむかう。
道中でみかけた和菓子屋さんで豆大福とみたらし団子を購入し、みんなで食べながら目的地まで歩く。
スマホで調べたらけっこう遠いみたいだ。
とはいえ、バスや電車は近くを通っていないので歩くのがベスト。
そういうところってなかなか行く機会がないよね。
ひとりで行くのもありかもしれないけど、みんなで行く方が楽しいと思う。
私一人だったら神社まで全力疾走してしまうかもしれないし。
そしてさっと回って帰ってきてしまう。
やはり誰かと一緒にいることで楽しい時間を作れるというものだ。
ほら、こうやって小路ちゃんや愛花ちゃん、それからすれ違う小学生たちを眺めていたら目的地まであっという間だ。
こんな場所なので人がいないような静かな神社だと思っていたら、なんだかかなりにぎわっているみたいだった。
「あれ? なんか屋台が並んでるね」
「お祭りですかね。そこまで調べてなかったです……。ゆっくりしたかったんですけど」
「まあまあ、ゆっくりするならいつでもできるけど、お祭りなんてそうそうないんだから」
「そうですね」
「ほら見て! 和牛ステーキの屋台があるよ!」
「……なずなさん、まだ食べるんですか?」
うん?
私はそんなに食べ過ぎなのだろうか。
小食なつもりだったんだけどなぁ。
ほら、大和撫子たるもの、がっつり食べるなんて似合わないよね?
だがしかし、他人から見て食べ過ぎなのならちょっと控えなくてはならないかもしれない。
ぬわっ!?
「ななな! あっちにはじゃがバターがあるではありませんか!」
これは食べるしかありませんなぁ!
「白河さん、いくら何でも食べ過ぎ……」
「お姉ちゃん、私も食べたい。半分個しよ」
「愛花ちゃん!? うん、いいよ~! 先に食べていいからね! 残った分は私が責任もって食べるから!」
彩香ちゃんは目にも止まらぬ速さで飛び出していき、私よりも先に和牛ステーキとじゃがバターを連れて戻ってきた。
さすがのお姉ちゃん力。
妹には甘々である。
私も購入しおいしく頂く。
それはいいとして、目的を忘れていた。
私たちは食べるためにやってきたわけではないはずだ。
「小路ちゃん、ごめん。そろそろお参りに行こうか」
「あ、そうですね。人が多いのでゆっくり行きましょう」
「うん、じゃあ手を繋いで行こうか」
「は、はいっ!」
差し出した手を小路ちゃんはキュッと握ってくる。
私は大和撫子。
食べ歩いたくらいでは手を汚したりはしないのである。
「えへへ」
きゅんっ。
小路ちゃんの今日一番の笑顔を見た気がする。
やっぱりかわいいなぁ。
私の中で何かが満たされていく気がするよ。
守って見せようじゃありませんか、この笑顔を。
お参りをしながら、私はそう神様に誓ったのだった。
神社から家の近くまで戻り、そろそろ解散という流れになる。
「なんかたくさん歩いたしお腹空いたなぁ。ラーメンでも食べてく?」
ちょうど近くに気になってたラーメン屋さんがある。
これはもう運命かもしれない。
「食べるわけないでしょ。今日どれだけ食べたと思ってるの? しかもあなたは全部1人で食べてたし」
「まだまだ余裕だけどなぁ」
「……あなた、なんか燃費悪くなってない?」
「え、嘘……」
それは嫌だなぁ。
たくさん食べないと生きていけなくなっちゃうなんて。
ちょっと気にしないといけないかもしれない。
……明日から。
「それじゃあ私たちは帰るわね」
「うん、バイバイ。愛花ちゃんも」
「はい、さようなら」
富山姉妹はこちらに手を振りながら帰っていった。
「小路ちゃんはどうする?」
「え!? あ、私はこの後お母さんとお買い物へ行くので帰ります。すみません」
「ああ、大丈夫だよ。楽しんできてね。バイバイ」
「はい、失礼します」
小路ちゃんはぺこりとお辞儀をすると、なにやら逃げるように帰っていった。
残念である。
「しょうがない、ひとりで行こうかな」
まあ、ひとりですするラーメンというのも悪くはないか。
「なずなさん」
「わっ、珊瑚ちゃん!?」
「私はお供しますよ。ラーメンはあまり食べたことがないので楽しみです」
「あ、そうなんだ。……えっと、なんか途中からいつのまにかいなかった気がするんだけど」
「ちゃんといましたよ?」
「そっか、ごめんね。失礼なこと言って」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
……絶対いなかったんだけどなぁ。
「さあ、行きましょうか」
「あ、うん」
珊瑚ちゃんは自然と私の腕に抱きつき、そのやわらかい体を押しつけてくる。
お花のようないい香りがして、なんだか少しクラっとしてしまう。
まるで夢の中へ迷い込んだようにふわふわした感覚がする。
ああ、なんだろう。
この場で抱きしめてしまいたいよ。
そんな、少し夢の世界へ入りかけている私の耳元で、珊瑚ちゃんがそっと囁いてきた。
「やっと、ふたりきりになれましたね……、なずなさん♪」
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