第111話 珊瑚ちゃんのお泊り会

 みんなでお風呂という話はいったんなしになり、今はなんと私と珊瑚ちゃんが一緒にお風呂に入っている。

 家族とはいつでも入ることができるしね。


 別に一緒に入る必要はなかったんだけど、流れがそういう感じだったのでチャンスをものにしておいた。

 今むかいあって湯船に浸かっているんだけど、なんというか……不思議な気持ちだ。


 ほら、お友達の裸って特別な気がしませんか。

 だって普段服を着ているところしか見てない人が裸になっているんですよ?

 すっぽんぽんで街を歩く人なんていないじゃないですか。


 なのにお風呂だと裸になるんですよ。

 おかしいじゃないですか。


 私、実はそういうの得意じゃないんですよね~。

 人のは見たいけど。


 でも見たら見たでいろいろまずいことになる。

 目の前にいるこの妖精さんをどうにかしてしまいそうだ。


 私はいつのまにか異世界転生でもしたのだろうかと思うほど、珊瑚ちゃんのお姿は神秘的。

 いや~もう、同じお湯に浸かっていると思うだけでこのお湯を飲み干したくなるよね。


 それとかこのお湯を使ってココアとか作ったら至高の一杯が完成するかもしれない。

 ……。


 うむ、いったん落ち着こうか私。

 おかしな思考になってしまっている。


 だいたい珊瑚ちゃんと一緒に私も入ってるんだから、せっかくのお湯も汚れ切ってしまっていることだろう。

 非常に残念だ。


 今度はうまくやって珊瑚ちゃんだけに入ってもらい、そのお出汁を手にいれなければ。

 ふっ、さすが一瞬にして冷静になった私だ。

 こんな見事な作戦を思いつくなんてね。


「あの~、なずなさん」

「はい、なんでしょう!」


 いや、声をかけられてわかったよ。

 全然冷静になってなかったね。

 危ない危ない。


「なずなさん、ちょっとお願いがあるんですけど」

「何? 私にできることなら」


「ちょっとこっちに来てくれませんか」

「ええ!? いいの!?」


 まさかの珊瑚ちゃんからのお誘い!?

 いいんですかいいんですか?

 もうゴールしてもいいんですか?


「ここに座ってください」

「うん」


 珊瑚ちゃんに言われるがまま移動すると、私は珊瑚ちゃんと同じ方向をむきながら座ることに。

 そして後ろから珊瑚ちゃんがそっと抱きしめてくれる。


 こ、これは。

 私が珊瑚ちゃんにしてみたかったことのひとつじゃないか。


「ぎゅ~」

「……」


 ふむ。

 される側になるのもいいものですな。

 背中に当たってますしね。


「なでなで」


 あう。

 そ、そんな、わたしあんまりそういうことされたことないから。


 頭とか撫でられると、私、私は。

 出ちゃうよ~。


「バブ~」

「……」


 ほら~、出ちゃったよ~。

 バブッちゃったよ~。

 恥ずかしい~。


「うふふ、かわいいですね今の」

「も、もちろん冗談だからね」

「わかってますよ~、うふふ」


 その後も私たちはお互いの位置を入れ替えたりしながら、まるで恋人のようにイチャイチャしていた。

 お風呂から上がり自分の部屋に戻ると、そこには当たり前のように私のベッドの上でゲームをする柑奈ちゃんがいる。


「柑奈ちゃん、ごめんね。今上がったから」

「じゃあ私も入ってくるね」


「うん。あ、お湯飲んじゃダメだよ」

「ば、バカじゃないの姉さん! そんなことするわけないでしょ」


「だよね~。ところでその空ペットボトルは何?」




 柑奈ちゃんが戻ってくると、私たちはしばらくおしゃべりをしながらのんびりと時間を過ごす。

 そして日付が変わる手前くらいでお布団に入ることになった。


「え、私が真ん中なんですか?」

「うん。私も柑奈ちゃんも今日は珊瑚ちゃんの隣で寝たいから。だったらこうするしかないよね」

「うふふ、ありがとうございます」


 私の隣に寝間着姿の珊瑚ちゃんがいる。

 お風呂では裸で触れ合っていたわけだけど、それとはまた違って、これもやっぱりドキドキする。


 珊瑚ちゃんがかわいすぎるのがいけないよ。

 さてさて、それよりもお年頃の私たちがベッドの上ですることなんて決まってますよね。


 さあ、覚悟してね珊瑚ちゃん。

 うえっへっへ。


「すや~」

「え、珊瑚ちゃん寝ちゃった!?」


 驚きの早さに思わず身を乗り出してしまう。


「し~。柑奈ちゃんが起きてしまいますよ」

「あ、なんだ柑奈ちゃんか」


「きっと遊び疲れたんですね」

「こどもだね~」


「かわいいですよね」


 私たちは笑い合うと再び元の位置に戻る。


「私、幸せです。こんなに幸せな毎日でいいのかなって思ってしまいます」

「何言ってるの、もっともっと幸せになれるよ。幸せに総量なんてないんだから」


「なずなさん……」

「私が一生をかけて、珊瑚ちゃんのこと、もっともっと幸せにしてあげるからね」


「うふふ、まるでプロポーズみたいですね」

「えへ、そう受け取ってくれてもいいんだよ」


 私がそう言ってしばらくすると、珊瑚ちゃんが私の手の指先をちょこんと握ってきた。

 その感触を頼りに私は珊瑚ちゃんの手を握り返し、指を絡める。


「なずなさん、今夜は1秒たりとも離れたくない気持ちです」

「うん、そうだね」


 そうやって気持ちを確かめ合った私たちは、その後、手を繋いだまま一緒にトイレへ行く羽目になった。

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