第109話 打ち上げ花火と線香花火

 神社からの帰り道、私の背中には小路ちゃんがおんぶされていた。

 疲れたから歩けないと言ってたけど、小路ちゃんの体力とかを考えるとそんなことはないはず。


 なにやらご機嫌斜めなご様子です。

 私は何かしたのだろうか。


「小路ちゃん、何かあった?」

「別に……、何もないですけど」


「なんか怒ってる?」

「怒ってないですよ」


「そう?」


 確かにさっきとは違ってもう怒ってるような感じではないかな。

 結局何だったんだろうか。

 私としてはこんなに小路ちゃんと密着できて嬉しいんだけどね。


 背中に小路ちゃんの温もりとやわらかな感触を感じながら、私たちはゆっくりと来た道を戻り、みんなのいる公園へとたどり着く。

 そしてさっそくひまわりちゃんに見つかった。


「あ~!! いないと思ったら小路ちゃんとイチャイチャしてる~!」

「いや、おんぶしてるだけなんだけど……」


「いいないいな~! 私もおんぶして欲しいな~!」

「そんな、ひまわりちゃんが望むならもっといいことしてあげるよ」


「もっといいこと?」

「うん、とりあえずぬご……」


 脱ごうかと言い終える前に、私の頭が何者かにはたかれた。

 後ろをむいても誰もいない。

 え、ということは……。


「……」


 今のは小路ちゃん?

 そっか~、ついに私たちもそんな仲になれたんだね。

 これはもう、結婚するしかないね。


「小路ちゃん、結婚しよう」

「意味が分からないです。浮気しないなら考えなくもないですけどね」


 あれれ~?

 神社へ行く前は素敵な笑顔を見せてくれてたのに、やっぱりご機嫌斜めですか?


「えっと、まずは小路ちゃんにとっての浮気の定義を教えてもらえるかな?」

「もういいです。それ、浮気する人の台詞なので」

「そ、そんなことないから」


 私ってそんなに信用ないの?

 これでも柑奈ちゃんとかひまわりちゃんとか愛花ちゃんとか、一筋の愛を貫いているんだけどなぁ。


 そうこうしているうちに、私たちのまわりにみんなが集まり始めた。


「あ、小路ちゃんがおんぶされてる。姉さん、私のこともおんぶするべき」


 柑奈ちゃんっておんぶされるの好きだったっけ?

 割としてる気がするけど、喜んでるような感じはしなかったけどなぁ。

 さすがツンデレ妹だ。


「お姉さん、私はお姫様抱っこがいいです」

「愛花ちゃんはそういうの好きだね。いいよ、私でよければ後でしてあげるね」

「ありがとうございます」


 お姫様抱っこだけで済むかはわからないけどね。


「なずなさん、私は頭を撫でて欲しいです」

「さ、珊瑚ちゃん……」


 そして小学生に混ざってお願いしてくる珊瑚ちゃんがいた。

 うむ、どうしたらいいのか。

 とりあえず背中から小路ちゃんを降ろし、珊瑚ちゃんの頭を撫でることにした。


「えへへ~」


 ズキューンバキューン!

 はい、超かわいいです。

 そんなハートを撃ち抜かれた私の前に茜ちゃんがやってきて不思議なことを言った。


「モテモテだね、なずなは」

「あはは、何を言ってるの? 私がモテるなんてありえないよ。私の愛はいつも一方通行だからね」

「それ本気で言ってるの!?」


 その後もなんだかんだわいわいやっていると、気付けば辺りが夕日の色に染まり始めていた。

 そういえばそろそろご飯の時間だね。


 なにも決めてなかった気がするけど、いったいどうするんだろう。

 どこかで食べるのかな。


 なんて思っていると、いつの間にか黒服のお姉さまがバーベキューの準備をしていた。

 さすが前もはしゃいでいただけあって、かなり手際よく準備が進んでいく。


「なずなさん、今バーベキューの準備をしていますから、楽しみしててくださいね」

「珊瑚ちゃんありがとう。いつも楽しいこと考えてくれて」


「うふふ、私がみなさんとしたいことをしてるだけですから」

「それが嬉しいんだよ」


 とにかく、今夜は肉だ肉だ!

 ひゃっほ~!

 やがて準備が終わると、網の上にはお肉や野菜だけでなく、貝やいかなどの魚介類も並んでいた。


 今回は私たちだけでなく、黒服のお姉さま方も一緒に食事を楽しむ。

 見た目は怪しいお姉さま方も、さすがこの前盛り上がっていただけあって面白い人たちだった。


 仲良くなったお姉さんから珊瑚ちゃんの昔の写真データをもらうことにも成功。

 いつも一緒に過ごしているこの方たちだからこそとれる貴重な写真に私は大満足だ。

 そんな楽しい時間はあっという間だった。


 みんなで後片付けをし、辺りはすっかり真っ暗。

 さすがにもう帰らないとなぁ。


 ちょっと寂しいなと思いながら真っ暗な海を眺めていると、後ろから誰かが走って近づいてくる。

 それは茜ちゃんで、何かを抱えているようだった。


「見て見てなずな、花火もらったよ」

「わあ、いいね。まるで夏休みみたい」


「だね! 夏休みではないけど、海に来てるんだしやっちゃおうよ!」

「うん!」


 どうやら花火をくれたのは黒服のお姉さまのようだ。

 きっと珊瑚ちゃんがやりたがってるんだろうなぁ。

 あの人たちの行動基準はほとんど珊瑚ちゃんの幸せを願っているものだ。


 珊瑚ちゃん大好きクラブみたいな人たちだったし。

 小さいころからずっと愛で続けてるんだもんね。

 私も柑奈ちゃんたちに対してあんな風になるのかな。


 そんなことを考えながら花火に火をつける。

 真っ暗な世界が色鮮やかに照らされた。


 私のところに柑奈ちゃんがやってきて、私の持っている花火から自分の花火へ火をつける。

 さらにひまわりちゃんや愛花ちゃんもやってきて、火を移し終わると私の持っている花火は消えてしまった。


 今度はふたつ花火を持って火をつけ、私はアニメで見たことがあったハートマークを描くやつをやってみる。

 浮かれている、はっきりとそう自覚できた。


 でも楽しいのだから仕方ないよね。

 そんな時、少し離れたところで花火をしている小路ちゃんが目に入る。

 気になってそばに行くと、線香花火を大量に用意してゆっくりと楽しんでいるようだった。


「線香花火好きなの?」

「そうですね、きれいで落ち着きます。なずなさんは好きな花火ありますか?」


「そうだね~、私は打ち上げ花火が好きかな」

「なずなさんみたいですよね。みんなのことを照らしてくれる、みたいな」


「え? そんなこと考えた事なかったよ」

「でも本当のことですよ。私は線香花火みたいに静かにしてるのが好きですけど」


「そっか、でもそれが小路ちゃんの素敵なところだと思うけどね」

「そうですか?」


「うん。私の目指すべき大和撫子はそういう感じだから」

「なずなさんが大和撫子?」


「わ、笑わないでよ。ちゃんと目指してるんだから」

「まあ、頑張ってください」


「頑張りますとも。私も線香花火しよっと」


 私たちはふたり並んでやさしい花火の光を見つめる。


「打ち上げ花火もいいけど、こうやってやさしくみんなのことを照らせる線香花火のようなお姉ちゃんもいいよね」

「落ちましたよ」

「……」

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