第108話 海と神社、巫女さんとお饅頭
私と小路ちゃんはこの近くにあるという神社を目指し走り始める。
こういうのもデートと言うのだろうか。
誰かいますか?
デートで一緒に走るという方は。
とりあえず私たちは海沿いをゆっくりと走って橋へむかう。
「お~い! 私も連れてってよ~!」
後ろから聞こえた声に振り返ると、なぜか茜ちゃんが手を振りながら追いかけてきた。
まさか一緒に来るのだろうか。
「走りに行くんなら私もついてくついてく」
「茜ちゃん、走るのはついでみたいなもので、私たちは神社に行くんだよ?」
「大丈夫、ついてくついてく」
「……」
ふむ、茜ちゃんはここまで来てまったく息を切らしていない。
なかなかの体力おばけだ。
さすが学校の2階から飛び降りれるだけのことはある。
「じゃあ行こっか」
「うん!」
私たちは3人になり走り続けた。
しばらくすると小路ちゃんの言う橋が見えてくる。
そこまで大きい橋ではないけど、真っ白なうえになんだか見た目がかわいい。
車も渡れるような橋で、私たちは歩道の部分を突撃する。
「なんかちょっとだけ海の上を走ってる気分になるよね」
「そうですね。この橋、一部の人から『天国への架け橋』と呼ばれてるみたいですよ」
「え、渡ると天に召されるの?」
でもそう呼びたくなる気持ちもわからなくない。
油断してると海にむかって『ひゃっほ~い』したくなるし。
「ひゃっほ」
「茜ちゃん、ダメだよ」
「は~い」
なんか今飛ぼうとしたよね?
危うく本当に天に召されるところだったよ?
それにしても車が通れる橋ということは、この先にはそれなりにいろいろあるということだろう。
遠くから見た感じではそんな風には思えなかったけど。
橋を渡りきると、道は海沿いから離れていってしまう。
「小路ちゃん、道わかる?」
「はい。次の交差点を曲がって海沿いの道に戻ります」
「わかった」
私たちは海沿いにむかって進路を変える。
やっぱり走るなら海沿いか川沿いがいいよね。
少しすると再び海が見え、そのまま海沿いを走り続ける。
途中どこからかカステラのようなにおいが漂ってきて誘惑されたけど、そこは負けずにしのぐ。
そしてゆっくり走り続けていると、ついにそれらしき場所が視界に入った。
少し小さな鳥居と石畳の道が砂浜のむこうに見える。
ただそれ以外は何もないような気がするんだけど……。
「あそこみたいですね」
「やっぱり?」
小路ちゃんがスマホを見ながら言う。
ということはここでいいのか。
とりあえず鳥居の前で走るのを止め、石畳の道を歩く。
そのまま進んでいくと、木が並んでいるそのむこう側に境内と建物があった。
まるで海をみるような形で存在し、私たちは海を背にして境内を歩く。
「けっこう広いね」
茜ちゃんが辺りを見回しながら言った。
建物は本殿と社務所しかないけど、広さはけっこうある。
海を見ながら座れるようにベンチも設置されていた。
先にお参りをし、そしてそのベンチに三人並んで座る。
静かな場所で気持ちのいい風を浴びながら波の音を聞く。
なんとも贅沢な時間だ。
こんな時間を過ごしていると、なぜか急にお饅頭が食べたくなってきた。
「お饅頭、ありますよ」
「うひゃっ!?」
急に後ろから話しかけられ振り返ると、そこにはいつの間にか巫女さんが立っていた。
歳は私と同じくらいか。
なぜか髪の毛がうっすら青い。
……コスプレ?。
「どうぞ」
「え、あ、ありがとうございます」
すっとお饅頭を差し出され、反射で受け取る。
茜ちゃんと小路ちゃんも同じようにお饅頭をもらっていた。
小路ちゃんの目が輝いている。
和菓子好きだし、巫女さんという存在に憧れもあるんだろう。
「隣、よろしいでしょうか」
「え、はい」
巫女さんは私の隣にゆっくり腰を下ろすと、なぜか頭を私の方に預けてきた。
なんだこの状況は。
かわいい人だし、なんかいいにおいするし。
さっきまで何とも思ってなかったのに、急に緊張してきてしまった。
とりあえずお饅頭を頂き、意識をそっちにむけることにしようか。
手のひらサイズのお饅頭を一口食べると、口の中に餡子と栗の味が広がる。
なかなか上等な栗饅頭のようだ。
あまりのおいしさに隣の巫女さんのことを忘れかかっていると、急に腕が回され、そしてもう片方の手でお腹をなでられた。
なんだこの状況……。
「うふふ……、ここにいつか私とのこどもが宿るんですね」
「……」
ひええええええええ!!
なんかやばいですよ、この人!
初対面でこんなこと普通します?
やりたいと思ったとしても絶対しないですよね!?
ちらっと巫女さんの顔を見ると、まるで私をからかうような表情をしていた。
もしかしてここにくる女の人にちょくちょくこんなことをしているんじゃないだろうか。
よく無事でいられるものだ。
どこかでお縄につきそうなものだけど。
しかしそう思えば私にも余裕が生まれるというもの。
お返しにと、私も巫女さんのお腹を撫でながら言ってみせた。
「生むのはあなたの方かもしれませんけどね」
そう言うと、巫女さんは驚いたようにぽかんとした顔で私を見た。
そしてしばらくすると楽しそうな笑顔を見せる。
「ふふふ、そんなこと言う人は初めてです。楽しい人ですね」
巫女さんはそう言って立ちあがり、そのまま社務所の方へ歩いていってしまった。
なんだったんだ……。
私はまた海を見ながら栗饅頭を一口食べる。
その時、隣からぎゅっと腕を抱きしめられた。
見ると小路ちゃんがなぜか私の腕に抱きついている。
かわいいので頭を撫でておく。
「……また来ようか」
「もう来ません!」
「なんで怒ってるの!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます