第106話 また会えると信じて

 砂浜で出会った少女とともに、私は公園のベンチに座っていた。

 どうやらこの子は彩香ちゃんに憧れてしまったらしい。

 残念なことだけど、ここは私も応援するしかないか。


「よし、それじゃああなたの恋が実るように私も頑張るとしますか」

「恋? 私、恋なんてしてないよ?」


「ふふ、自分の気持ちに気付かないなんて、まだまだお子様だね」

「お姉ちゃんは何を言ってるの?」


 本当に私の言っていることが理解できないらしく、キョトンとしながら首をかしげている。

 かわいらしい仕草に、私も同じように首を傾けてキスをしそうになった。

 おっといけない、ここは自重するんだ大和撫子。


「とりあえず彩香ちゃんと仲良くなれるように私も協力するよ」

「いいの?」


「うん。私はかわいい女の子の笑顔が見たいんだ」

「さっきも言ったけど、私はかわいくなんてないよ?」


「もう何言ってるの? あなた鏡見たことある?」

「その台詞をそういうふうに使ってる人、初めて出会った……」


「大丈夫、自信を持って!」


 私はそう言って少女の頭をちょっと強めに撫でた。

 目を閉じて、ちょっと気持ちよさそうにしている少女を見ていると、私も少し幸せな気持ちになる。

 やっぱり私のものにしたいと思ってしまった。


「さて、まずは彩香ちゃんの服をいかにして脱がせるかだけど……」

「いきなりそこなの!? 物事には順序ってものが……」


「あなた難しいことを言うね。でも大丈夫だよ。彩香ちゃんなら服なんてポイポイポ~イだよ」

「そ、そうなの!?」


 少女は驚き、私の方へ身を乗り出してくる。

 そんな体勢を見せられると、私も身を乗り出して唇を重ねてしまいそうだよ。


 もう、無防備なんだから。

 私だったからよかったものの、他の人にそんなことしたら食べられちゃうよ?


「よし、それじゃあ作戦も練り上がったことだし、いっちょやってみますか」

「え、どこに作戦が?」


 少女が驚いている間に私は彩香ちゃんのところへとむかう。


「彩香ちゃん♪」

「あら白河さん。もう話は終わったの?」


「うん。というわけで、脱ごうか」

「……あなたが脱げば?」


「わかった。じゃあ私が先に脱ぐから、彩香ちゃんも脱いでね」

「待って待って」


 私が冗談で胸元に手をかけると、彩香ちゃんが慌ててそれを押さえるように手を伸ばしてくる。

 そしてそのタイミングで、どこに行っていたのかお母さんがすぐ近くを通ってきた。


「えっ!?」


 お母さんは私たちの姿を見るなり、目を見開き固まった。

 それはまあ、ぱっと見では私が彩香ちゃんに襲われているようにも見える状況だ。


 旅先だし、間違いが起こっても仕方ないともいえる。

 これは勘違いを生んでしまったことだろう。


「あの、お母さま、違うんですよ?」


 彩香ちゃんが焦りを必死に抑えているような表情でお母さんに話しかける。

 お母さまって……。


「これは……、書かなきゃだわ!」

「へ?」


 お母さんはなにやら興奮した様子でキャンピングカーの方へと走っていった。

 いったい何を書くつもりなんだろうか。


 まあいいか、とりあえず作戦は失敗ということだ。

 私はひとまず少女のところへ戻ることにした。


「ちょっと失敗しちゃった」

「うん。でもいいものが撮れたよ」

「いいもの?」


 私が何だろうと思っていると、少女がスマホの画面を見せてくる。

 そこにはさきほどの私が襲われているように見える場面が映されていた。


 なんと、私たちに気付かれずにこのような写真を撮っているなんて。

 やっぱりこの子は将来有望だ。


「その写真、譲ってくれませんか」

「お姉さんが持ってる写真を1枚くれたらいいよ」

「よし、じゃあこの中から選んで」


 私はささっと取引を成立させ、さきほどの彩香ちゃんの写真をゲットした。

 代わりに少女が選んだ写真は私が映っているものだったけど、それでよかったのだろうか。


 さて、ひと遊び終えた私は再び近くのベンチに腰を下ろす。

 すると少女もベンチに移動し、なぜか私に包まれるような形で座って来た。

 とりあえず小動物みたいでかわいいので抱きしめておく。


「お姉さんおっぱい大きいね」

「みたいだね」


「おっぱい枕して~」

「何かよくわからないけどいいよ」


 おっぱい枕なるものがどういうものなのか、私の想像とあっているかは知らないけど、一応了承してみる。

 すると少女は後頭部を私の胸に乗せてくつろぎ始めた。


 なるほど、想像通りだ。

 というわけで、私も胸を触らせていただくとしよう。


「あなたのおっぱいはまだまだこれからかな」


 そんなことを口走りながら、少女のほぼ平らな胸を撫でる。

 ぐふふ、この体勢ならば不自然なことはあるまい。


「お姉さんは女子小学生が好きなんだよね」

「ま、まあね」


 なんだか他人から言われるとビクッとする。

 確かにやばい人だと思うよね。


「じゃあ私が中学生になったら好きじゃなくなるの?」

「う~ん、それはないような気がする。私、クラスの子も好きだし、お母さんも好きだし」


「なにそれ。それって本当は好きじゃないんじゃないの?」

「そんなことないよ。みんな大好きだよ。でもまあ……」


「うん?」

「やっぱり小学生は最高かな」


「変態だ!」


 そしてお互い「あはは」と笑う。

 そこで少女はなにか思い出したようにぴょんとベンチから離れた。


「私、おつかい頼まれてたんだった」

「おつかいでこんなところに来るの?」


「ただの寄り道だよ~」

「うらやましい寄り道だね」


「私行かないと。じゃあねお姉さん」


 少女はそのまま去っていくのかと思ったら、なぜかこちらにむかってきて。


「楽しかったよお姉さん。ちゅっ」

「ひゃっ」


 私の頬に軽く唇を押しつけ、そしてニコッと笑う。

 驚く私を置いて、少女は手を振りながら走って去っていってしまった。


「あらあら、結局最後はあなたがもっていくのね」

「彩香ちゃん、見てたの」


「まあね、かわいい子だったし」

「だよね」


 私は少女が見えなくなるまで、その姿を目で追い続けた。

 あ、しまった、連絡先を聞いてない。

 また会えるかな。


 その可能性は高くない。

 ここは家からもけっこう遠い。

 偶然に会うこともないだろう。


 でもなんとなく、私たちはまた会えるような気がしていた。


 私は少女のことをいつまでも忘れないように、さっき胸を揉みしだいた手を顔に当てて大きく息を吸い込んだ。

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