第101話 まさかの風邪

 ば、ばかな……。

 この私が風邪をひくなんて。

 もはやこれは世界の終わりの始まりなのではないだろうか。


 そして世界を救うためにロリ女神様がやってきて私に力をくれるんだ。

 最後には私とロリ女神様のハッピーエンドが待っていたりなかったり。


 ごめんね女神様、私には心に決めた人が何人もいるから。

 ホントごめんね。


 うむ、体調がよくないせいか変なことを考えてしまう。

 とりあえず茜ちゃんに連絡しておこう。

 私は朦朧としているのかフル回転しているのかよくわからない頭でメッセージを打つ。


『ごめん、風邪ひいたみたいだから学校休むね』

『じゃあ私も休む。看病しに行くから』


 え!?


『いやいや、そんなの悪いから。ちゃんと学校行って』

『大丈夫だよ。なずなと学校、天秤にかけるまでもない』


『お願いだからちゃんと行って』

『しょうがないなぁ。まあとりあえず一回そっちに行くよ』


『わかった』


 ふぅ、まったく茜ちゃんは心配性なんだから。

 いや心配とは違うのか。


 そういえば私が風邪を引くといつもこんな感じになってる気が……。

 いい親友を持ったなぁ私。


「なずな、来たよ」

「早いね」


 茜ちゃん、レコードタイムだよ。

 朝からのこの騒ぎで柑奈ちゃんとお母さんも部屋にやってくる。


「姉さん風邪なの?」

「あら珍しいわね。とりあえず朝ごはん持ってこようか? 食べられる?」

「それは大丈夫そうだけど……」


 確かに体調は悪いけど、何も食べられないほどじゃないと思う。


「とりあえず熱を測ろうか」

「そうだね」


「じゃあ服を脱いで」

「え、なんで」


 私は普通に体温計を脇にはさもうとすると、なぜか茜ちゃんに服を脱がされそうになった。

 危ない、ボーっとしてて言う通りにするところだったよ。


「姉さん、服は脱がないと」

「そうよなずなちゃん、服は脱ぐのが正義よ」

「……」


 なぜかお母さんたちにまで服を脱ぐよう言われる。

 おかしい、私が間違っているのだろうか。

 とりあえず私はそれらを無視して体温を測った。


 ……うん?

 39度?


「どうだった?」

「39度……」

「私、今日は休んでなずなちゃんを看病するわね」


 お母さんが本気で心配そうな顔でそんなことを言いだした。


「大丈夫だよ、私も高校生なんだし、なんとかできるよ」

「でも……」

「本当に大丈夫だから、心配しないで」


 その後も説得を続け、ようやく納得してもらった。

 お母さんも柑奈ちゃんも出かけ、部屋には私と茜ちゃんのふたり。


「茜ちゃんもそろそろ行かないと遅刻するよ?」

「うん、だけどその前に口移しで薬飲ませてあげる」


「薬は先に何か食べてからにするよ」

「そっか。じゃあすぐ帰ってくるから、おとなしく寝てるんだよ」


「は~い」


 そうして茜ちゃんも学校へむかった。

 部屋でひとりぼっちになると、少しだけ寂しい気持ちになる。


 食欲もあまりないから、お母さんが用意してくれたリンゴをちょっとだけ食べて薬を飲むことにした。

 私が頭痛の時に愛用している国民的解熱鎮痛剤『アッカリ~ン』を。




「ん……」


 どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

 薬が効いたのか、体からだるさはすっかり消えている。

 これならもう大丈夫だろう。


 ゆっくりと体を起こすと、誰もいないと思っていた私の部屋には茜ちゃんがいた。

 椅子に座って、まるで知的な美少女のように文庫本を読んでいる。


 普段の姿からはあまり想像できないかもしれないけど、茜ちゃんは意外と読書家なのだ。


「あ、起きた?」

「茜ちゃん、学校はどうしたの?」


「ちゃんと行ったよ。もう5時」

「そうなんだ」


 ずいぶんと長い間眠っていたんだな私。

 そのせいか、ベッドから降りようとすると足元がふらついてしまう。


「あぶない」


 そこはさすがの運動神経を誇る茜ちゃんがすかさず支えてくれた。


「ありがと」

「まだおとなしくしてた方がいいよ」


「そうみたいだね」

「うんうん、おとなしいなずなもかわいいね」


「うぐっ、まあ、大和撫子目指してますから」

「そうだったね」


 なんだろう、今日の茜ちゃんは大人っぽい気がする。

 まるでお姉ちゃんができたみたいだ。


「それじゃあそろそろ帰るね」

「え、帰っちゃうの?」


「うん、起きるの待ってただけだから。もう大丈夫そうだし、長くいたらゆっくりできないでしょ」

「え~、もう少しだけ一緒にいて欲しいな」


 そう言って自分でも驚く。

 なんだか今日は茜ちゃんに甘えたくなってしまった。


 これも風邪の影響かもしれない。

 まだ本調子じゃないのだろう。


 茜ちゃんの方もちょっと驚いたように目を丸くしていた。

 それからにこっと笑って私の頭を撫でてくれる。


「じゃあ、小百合さんが帰ってくるまでね」

「うん!」


 それからしばらくの間、茜ちゃんとおしゃべりをした。

 夕日の差し込む私の部屋で茜ちゃんとふたりきり。

 なんだかとてもひさしぶりな感じ。


 小学生の頃、あたりが暗くなるまで外で遊んだ頃を思い出した。

 私の人生で一番長い時間をともに過ごした相手。

 それが茜ちゃんだ。


 学校でのことを聞きながら、みんなにも早く会いたいなぁと思う。

 でも、それでも、私にとって茜ちゃんは特別の中の特別なのだ。

 きっと私たちはこれからもずっと一緒にいるだろうし、私はそうありたいと願っている。


 一生一緒にいてね、茜ちゃん。

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