第102話 復活のなずな

 ふはははは!

 風邪から復活し、いつも以上に元気な私は放課後になると実に晴れやかな気持ちで街へ繰り出した。


 同好会の活動とか関係なく、私はスマホを構えナイスなショットを狙う。

 今日はもう3枚ほどゲットした。

 絶好調だね。


「今日はいい風が吹いている」


 私はそんなことを少しかっこつけながら言ってみる。

 風邪でじっとしていた反動なのか、吹きつける風が本当に心地よかった。

 そしてその風が私にベストショットをプレゼントしてくれる。


「いい、いいよなずな! 私はなずなの写真撮ってあげるからね!」


 茜ちゃんはさっきからまぶしい笑顔で私の写真を撮っていた。

 そんなの撮って楽しいのだろうか。

 もっと幼き天使たちを記録に残していくべきだと思うんだけどな。


 きっと珊瑚ちゃんや彩香ちゃんもそう思っているはず。

 私はそのふたりのいる方へ振りむくと、なにやらふたりで静かに話し込んでいた。


「今日のなずなさん、どこかおかしくありませんか? とても病み上がりとは思えませんけど」

「いえ、白河さんはおかしくない、おかしいのは高城さんの方よ」


 なにか私にも失礼なことを言われている気がしないでもないけど、話題になった茜ちゃんの方を見てみる。


「くぅ~! やっぱりガードは固いけど、それでも最高だよなずな!」


 ……確かにおかしいかもしれない。

 そんなに私が風邪で休んだことの影響があるのだろうか。


 学校で一緒にいられなかったことが茜ちゃんをこんな風にしてしまうというのか。

 珍しい出来事ではあったけど、初めてじゃないはずなんだけどなぁ。

 茜ちゃんが風邪で休んだことだってあったんだし。


 うん?

 そういえばあの時も茜ちゃんおかしかったかも?


 まあいいや、今はこの神風を味方につけながら、お宝写真をゲットしなければ!

 と、ちょうどその時、本日何度目かの神風が吹く。


 そしてこれまたたまたま私がスマホを構え、シャッターボタンを押す寸前のところで、近くにいた小学生のワンピースがひらりと舞う。

 ばっちりスパッツを履いていらっしゃいましたが、そのお姿が写真に写りこんでしまった。


 いや~偶然偶然、まいったねこれは。

 保存保存っと。


 そしてまたも神風!

 また別の子のスカートがめくれ上がり、今度はフリフリのぺチパンツが写真に写りこむ。


 いや~偶然偶然、まいったねこれは。

 保存保存っと。


 余は満足じゃ。


「いいよいいよなずな! ふっふ~!!」


 そしてハイテンションな茜ちゃんの声が私の足元から聞こえる。

 さすがにそれは偶然でもなんでもなく、ただ覗き込んでるだけだね。

 茜ちゃん、お縄です。


 って、あれ?

 珊瑚ちゃんたちがいなくなってる。

 どこ行っちゃったんだろう?


 ちゃんと写真撮らないと、同好会の活動にならないよ?

 なんて思っていたら、公園の外から珊瑚ちゃんたちが戻ってくる。

 その手にはなぜかソフトクリームが握られていた。


「なずなさん、ちょっと休憩しませんか? 一応病み上がりなわけですし」


 そう言って両手に持っていたソフトクリームの片方を差し出してくる。


「私からのお見舞い代わりです」

「え、いいの? ありがと~」


 私は受け取ったソフトクリームをさっそく頂こうとすると、コーンのところがラングドシャになっていることに気付く。

 これはあの有名なソフトクリームではありませんか!


 なぜこんなところに。

 ふと珊瑚ちゃんたちが入ってきた公園の入り口の方を見ると、そこにはいつも見かける黒い車が停まっていた。


 まさかこれ、買ってきたんじゃなくて、あそこで作られたのかな?

 さすがお嬢様、もうなんでもありだね。

 でもありがたい、一度食べてみたいと思ってたんだ。


 じっくりと味わって食べようと思い、私はベンチの方へ移動してからまずは一口。

 こ、これは……。

 牧場の味がする!


 目を閉じると、どこまでも続く芝生と青い空、そして牛さんが見えた。

 これ食べたらもう、他のソフトクリームが薄味に感じてしまわないか心配なくらいだよ。


 私の隣では珊瑚ちゃんが同じようにどこかへトリップしていた。

 やはりおいしいものは何度食べてもおいしいのだろう。

 そして私の逆隣りからなにか視線を感じ振りむく。


「……」


 そこにはなぜか小さな女の子がいて、じ~っと私のことを見上げていた。


「えっと……、食べる?」

「……」


 女の子は何も言わずにこくこくと頷く。

 私は女の子の前にソフトクリームを差し出し、その子は小さな口でそれを頬張る。


 けっこう一気にいったね。

 そのせいで口まわりにはクリームがついてしまっている。


 私が全部舐めとってあげようかと思ったけど、そこは堪えて、女の子が食べた部分を丁寧に舐めるだけにした。

 さすが大和撫子な私だ。


 もう一口食べるかなと思い、もう一度差し出すと、女の子は満足したのか首を横に振った。


「お姉ちゃん、ありがと」


 つたない話し方でお礼を言った女の子は、ベンチからぴょんと降りて公園の外に駆けていった。


「……かわいい子だったな」


 写真を撮れなかったことを少しだけ後悔しつつ、残りのソフトクリームを味わい、改めてお礼を言おうと珊瑚ちゃんの方を振りむく。


「珊瑚ちゃん、おいしかったよ。ありがと……」


 その振りむいた先では、なぜかラングドシャコーンをくわえながら、目を閉じて私の方に身を乗り出す珊瑚ちゃんの姿があった。


「……」

「……」

「え?」


 どういうこと?

 これは頂いてくださいと言うことでしょうか。


 では遠慮なく。

 頂きます!


 そしてそこにはソフトクリームのラングドシャコーンを両側からくわえる女子高生ふたりの姿が完成した。

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