第100話 全部バレてた

 私、白河柑奈は今、自室でこそこそと怪しいことをしている。

 自分で言うのもなんだけど、やっぱり堂々とできることでないことは自覚していた。


 だから隠しているのだ。

 私はこの秘密を唯一、茜ちゃんにだけ話した。


 それはなぜか。

 茜ちゃんも同志だからだ。


 その茜ちゃんは今日突然家に泊まりに来ている。

 そして姉さんはおいしいご飯を作るために買い出しへ出かけた。

 つまり今がチャンス!


「茜ちゃん」

「柑奈ちゃん」


 私たちは頷き合い、他の誰も入れないようにしている私の部屋にむかう。

 なぜ誰も入れないのか。

 それは当然だ。


 こんな姉さんの写真だらけの部屋に他人を入れられるわけがない。

 入れられるのは同志である茜ちゃんだけ。


 別に茜ちゃんにだけバレたとかそういうことじゃない。

 私のガードは完璧だ。


 茜ちゃんも同じようなことをしているというのはわかっていたので、お互いに姉さんのお宝画像や動画を共有する関係になった。


 学校内のことは茜ちゃん、家でのことは私が担当することで、普段は見られない姉さんの姿を拝むことができるのだ。

 私は部屋に茜ちゃんを招き入れる。


「あれ、持ってきてくれた?」

「もちろんだよ」


 茜ちゃんはニヤっと笑いながらメモリーカードを取り出した。

 そして私も同じくメモリーカードを渡す。

 こうやってバックアップをとりつつ、お互いを行き来してコレクションがたまっていくのだった。


 なので私と茜ちゃんはかなりの割合で同じお宝を持っている。

 何かあった時もこれなら安心だ。

 私はPCへ、茜ちゃんはスマホへメモリーカードを差し、さっそく中を確認し始める。


 学校での姉さんの姿は新鮮なものが多い。

 そして中にはどうやって撮ったのか気になるアングルの動画もあり、毎度毎度楽しませてくれる。


「いや~、家の中でもなずなは安定だね~」

「ごめんね、あんまり代わり映えしないものばっかりで」


「そんなことないよ。それよりもこのローアングルとかどうやって撮ったのか気になるんだけど」

「それは地面に転がって撮ったよ」


「……そっか」


 あれ?

 なんか引かれた気がする。

 茜ちゃんの動画にも同じようなアングルがあるから、てっきり同じようなことしてるのかと思ったのに。


 前は撮った写真とかを渡して黙っててもらってるとか言ってたけど、今は何か撮影テクニックのようなものがあるのだろうか。

 今度伝授してもらわねば。


 それにしても不思議な関係だと思う。

 姉さんと出会ってしばらくの頃、私にとって姉さんは憧れの存在で。

 そのせいか、なんとなく私は一緒にいて落ち着く茜ちゃんと仲良くなっていったんだ。


 そしてお互いの変質的な部分を知った私たちは協力関係を築いた。

 最初は私がコレクションを分けてもらうばっかりだったけど、今はこうやって家での姿を代わりに差し出すことができるようになった。


 まあ同じ家にいるから隠すのはけっこう大変だけど。

 今のところ、姉さんにもお母さんにもバレている気配はない。

 バレていたら家族会議案件のはずだし。


 大変だったのはこっちの家に引っ越してくる時だ。

 前の家の時から茜ちゃんを部屋に入れていたから、引っ越しの時は一時的に茜ちゃんの部屋に置かせてもらっていた。


 そして少しずつバレないように運びこみ、この素晴らしい楽園は完成したのである。

 本当に茜ちゃんと仲良しでよかったと思う。


 そんなことを思い出しながら茜ちゃんからもらったコレクションを堪能する。

 家でも見るような姉さんの笑顔。

 家では見かけないような大人びた表情。


 いろんな姉さんを茜ちゃんはしっかりと写真におさめてくれていた。

 ……どうやって撮ったのかは知らないけど。


 そして私はある写真を画面に映した時、思わず手を止めてしまった。

 それは学校での写真ではなく、日の沈む海辺でのワンショット。


 夕日を背景にして寂し気に微笑む姉さん。

 まるで映画のワンシーンのような一枚に私の心は鷲掴みされた。

 これはもう国宝級……、いや世界遺産級の写真だよ。


「くは~……」

「どうしたの柑奈ちゃん」


「これはすごい写真だよ、茜ちゃん」

「ああ、それは遊びで撮った写真だね」


「え?」


 遊びでこんなの撮れちゃうの?

 姉さんという国宝級の被写体に、茜ちゃんの盗撮テクニックが合わさって世界遺産が誕生してしまってる。

 恐ろしい人たちだ。


「ちなみにみんなの分もあるよ」

「あれ、盗撮じゃなかったの?」

「違うから! 私、盗撮なんてしないからね」


 うっそだ~。

 明らかに姉さんが気付いてない写真いくつもあるけど?


 茜ちゃんはそんなことどうでもいいのか、写真のデータを一個進める。

 すると次は同じような構図で珊瑚お姉様の写真だった。

 これはまたお美しい姿だ。


 次の彩香さんも思わずドキッとしてしまうような表情だった。

 みんな名女優さんだなぁ。


 そして次に出てきたのは茜ちゃん。

 ……なんか普通だった。


 これは茜ちゃんの演技力が足りないのか、それともやはり他の写真を撮った茜ちゃんのテクニックがすごすぎるのか。

 う~む。


 そんな感じで鑑賞会を楽しんでしまい、ついつい時間を忘れてしまっていた。


「あ、まずい、けっこう時間経ってる!」

「そろそろ戻っとかないとね」

「そうだね」


 私たちは鑑賞会をいったん中断し、揃って部屋を出る。

 そして姉さんと遭遇した。


「……」

「……」


 沈黙する私たち。

 いつかはこんな日が来るとは思ってたけど、まさか今日だとは。


「茜ちゃんって柑奈ちゃんの部屋に出入りしてるんだね。私は入れてもらえないのに」

「あはは……、まあね」


 ぎゃああああああ!!

 これは誤魔化し切れないよ!

 なんて思っていたら、姉さんから衝撃の言葉が。


「茜ちゃんびっくりしたんじゃない? 柑奈ちゃんの部屋、私の写真いっぱいあるでしょ?」

「へ?」


 姉さんがなんでもないように笑顔で言った言葉に、茜ちゃんもかなり驚き戸惑っていた。


「なななななな、なんで知ってるの姉さん!?」

「なんでって……、けっこう開けっぱなしで部屋出ていったりしてるから見えちゃうんだよね」

「きゃああああああ!!」


 全然ガード硬くなかったよ私!!


「お母さんも知ってたよ?」

「きゃああああああ!!」


 終わった……。


「あはは、まあ私も柑奈ちゃんの写真とかいっぱい飾ってるしね。……あそこまでじゃないけど」

「うう……」


 ってことは何?

 姉さんもお母さんも、このこと知ってて普通に接してくれてたってこと?

 もう!


 大好きだよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る