第99話 みんな仲良し
「おとなしく私のものになってね、なずなちゃん」
「と、智恵ちゃん」
私の目の前に迫る智恵ちゃんの顔。
このままでは結婚式まで取っておくはずだった私の初チュウが奪われてしまう。
初めての相手が智恵ちゃんか……。
別に悪くはないのだが、結婚式以外だったら、せめて10歳以下の幼女様がよかったなぁ……。
なんて思いながら智恵ちゃんを受け入れる準備をしていると。
「へぎゃっ!?」
「へ?」
突然智恵ちゃんが、現実世界で聞くはずのない非日常な声をあげた。
なんと智恵ちゃんは後ろから首をつかまれ、信じられないことだけど若干宙に浮いている。
犯人はみんなのお嬢様、珊瑚ちゃんだった。
「駿河さん、ちょっと調子に乗りすぎましたね」
珊瑚ちゃんはそう言って智恵ちゃんをそっと地面に降ろす。
女の子一人を宙に浮かせるなんて、そんな怪力いつ身につけたのだろうか。
というかいつの間にここまで来てたんだろう。
「大丈夫でしたか、なずなさん」
「え、うん、そうだね」
「安心してくださいね、その気になればなずなさんには誰も指一本触れさせないようにすることもできますので」
「いや、何もそこまで」
別に危害を加えられるようなことはないんだし。
「まったくもう、ひどいことするなぁ、このお嬢様は」
「あなたがふしだらな行為に及ぼうとするからです」
「ふしだらって……」
「初めてのチュウは結婚式でするべきです!!」
ズバ~ン!!
そんな感じで珊瑚ちゃんは智恵ちゃんにむかって人差し指をむける。
私とおんなじこと考えてる人がいたなんて、ちょっと嬉しいけど、他人が言ってるのを聞くとちょっと恥ずかしいかも。
ピュアな乙女すぎるかもね、これ。
「初めてのチュウは結婚式!? ウププ、良いんじゃないですか、お嬢様」
笑われた!
なんだか私まで笑われた気分。
「ば、バカにしてますね!?」
「別にバカになんかしてないよ。ただ行き遅れそうな感じがしただけだよ」
「行き遅れ!? 私には婚約者のなずなさんがいるから大丈夫ですぅ! そんなに言うならもちろんあなたはしたことあるんですよね」
「あるわけないでしょ! だから初めてをなずなちゃんにささげようとしたのに! ていうか婚約者って何!?」
まずい、ふたりの戦いがヒートアップしてきている。
私のために争わないで!
しかも婚約者とか聞いたことないよ!
「まったく……、初めてのチュウとか、そんな恥ずかしい話を大きな声でしないで欲しいわ」
「あ、彩香ちゃんだ」
なんだか続々と人が集まってくるんだけどどうして?
「愛花ちゃんをむかえに来たの。寝ちゃってるみたいだし、おぶって帰るわ」
「私が送っていこうか?」
「そうしてもらえると助かるんだけど、それどころじゃなさそうだし」
「そうかな?」
なんか別に私がいなくても、みんな楽しくやってそうだけど……。
というか、みんな私のことを理由にしながら仲良くなっていってるよね。
まあいいんだけど、私のことも忘れないでね?
「あら委員長、いつの間に来てたのですか?」
「ついさっきよ」
「愛花ちゃんをおぶって行くつもりですか? よければ家の車で送りましょうか?」
「え、いいの?」
「別に構いませんよ。ちょっと待っててくださいね」
珊瑚ちゃんはそう言ってスマホでどこかへ連絡を取り始める。
そしてそのすぐ後で大きな車が公園の前に停車し、中から見覚えのある黒服の方が出てきた。
あれはいつぞやの海ではしゃいでいらっしゃったお姉さまではなかろうか。
「それではなずなさん、私たちは失礼しますわ」
「あ、うん、バイバイ」
「はい。ほら駿河さんも行きますよ」
珊瑚ちゃんは智恵ちゃんの方にも声をかける。
「え、私も?」
「ここから家まで遠いのでしょう? ついでに送って差し上げます」
「ありがと~浜ノ宮さん!」
さっきまでのバトルは何だったのか。
すっかり仲良さそうな珊瑚ちゃんと智恵ちゃんは笑顔でおしゃべりしながら車の中へ乗り込んでいく。
そして彩香ちゃんと愛花ちゃんを乗せ、黒い車は夕日のむこうへと消えていった。
良いんだ別に。
みんなが仲良くしてくれるのは嬉しいし、私も望んだことだ。
だから寂しくなんかないんだからね。
一気に人数の減った公園。
そしてずっと壮絶なバトルを繰り広げていた茜ちゃんとひまわりちゃんも決着が着いたようだった。
「やるね、ひまわりちゃん」
「茜さんこそ」
「今日は引き分けってことにしといてあげる」
「そうですね。次こそはなずなさんを私だけのものにしてみせます」
そう言ってお互いに拳をぶつけあう茜ちゃんとひまわりちゃん。
いつの間にか私の所有権をめぐる戦いになっていたらしい。
私はみんなのものなんだけどなぁ。
そろそろ残ったメンバーも帰り始める頃かなと思い、私の膝の上で寝ている小路ちゃんのほっぺをツンツンしてみる。
しかしまったく反応はなく、起きる気配がない。
ならばと今度はお尻をさわさわしてみる。
しかしまったく反応はなく、起きる気配がない。
これは仕方がない。
お持ち帰りして、一緒にお風呂に入って、身も心も溶け合うしかないね。
私の精神が持つかどうかはわからないが。
「うう……」
「あ」
そんなやましい心が届いてしまったのか、小路ちゃんが目を覚ました。
残念~。
「小路ちゃん、そろそろ帰ろうか」
「はい」
小路ちゃんはゆっくり起き上がり、私から離れていく。
なんだかちょっと寂しく感じる。
「お~い、そろそろ帰るよ~」
私は青春している茜ちゃんたちに声をかける。
かけながら、そっと小路ちゃんと柑奈ちゃんの腰に手を回した。
ふぶふ、私も成長したものだ。
「じゃあみんなまた明日ね、バイバイ」
お別れをし、それぞれが家に帰っていくのをなんとなく眺める。
そんな私を柑奈ちゃんが不思議そうに見上げていた。
「私たちも帰ろっか」
「うん」
私は自然と柑奈ちゃんの手をにぎり、家までの道を歩き出す。
みんなが仲良くしているのを見て、なんだか私から離れていくような感じがして寂しかったのかもしれない。
そしてしばらく歩いた後、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。
「なずな」
「あれ、どうしたの茜ちゃん」
「今日はなずなの家に泊まろうと思って」
「急に?」
「そう、急に」
きっと茜ちゃんにはわかっちゃったんだろうな。
だって一番長く一緒にいるんだから。
「じゃあ今日はおいしいご飯を作らないとね」
「なずなの作るものはいつでもおいしいよ」
そんな話をしながら私たちは家にむかって歩き出す。
気付いたらいつの間にかさっきまで感じていた寂しさのようなものはなくなっていた。
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