第98話 公園でバトル

 放課後、私の家の近くにある公園で、それは突然始まった。


「茜さん! なずなさんとのデート権をかけて勝負です!」

「受けて立つよ、ひまわりちゃん! なずなとお出かけするのはこの私なんだから!」


 何をしているんだろうこのふたりは。

 デート権ってなんだ。


 ふたりとのお出かけならそんなものなくても行くんだけどなぁ。

 いつもそうしてるのに。


 まあ、とりあえずここで見守っておくとしよう。

 私はベンチに腰を下ろし、ふたりの戦いを見ていることにした。


「何で勝負しますか、茜さん!」

「よし、野球だ!」


「小学生と高校生で勝負するなんておかしいでしょ! まずはじゃんけんとかどうですか?」

「じゃんけんなんて完全に運じゃない! 私が負けるかもしれないからダメ」


「どういうことですか!? 自分が勝てる勝負しかしないなんて大人げないですよ!」

「残念だったねひまわりちゃん。これが大人になるということだよ、アッハッハッハ!」


 やめてよ茜ちゃん、教育に悪い発言は。

 私が恥ずかしい茜ちゃんにジト目を送っていると、そこにふらふらと女の子が近づいてくる気配を感じた。


 瞬間的に振り返ると、こちらに歩いてきていたのは最近急接近中の小路ちゃんだ。

 なんだか眠そうだなぁ。


「どうしたの小路ちゃん、寝不足?」

「はい……、昨日ひまわりちゃんが寝かせてくれなくて……」


「え!? そ、それって……」

「この前神社へ言った話をしたら、ずっとそのことを聞かれ続けて……」


「あ、ああ、そういうことね」


 あぶないあぶない、お布団の中の話かと思ったよ。


「ひまわりちゃんってめんどくさい子だったんですね」

「いやいやいや、かわいくていい子じゃない」

「かわいいですけど、私はなずなさんといる時の安心感の方が好きです」


 そう言って小路ちゃんは私の隣に座ると、頭をふらふらと揺らし始めた。

 本当に眠そうだなぁ、今日の学校は大丈夫だったんだろうか。


「小路ちゃん、ちょっと寝たら? 膝なら貸すよ?」

「いえ、大丈夫です……」


 そう言った瞬間、小路ちゃんはバッテリー切れを起こしたみたいに私にむかって倒れこんできた。


 私の胸でバウンドし、私はさっと小路ちゃんを抱きとめる。

 仕方ない、このまましばらく胸枕しといてあげようか。


 そうしていると逆側に今度は愛花ちゃんがやってきた。

 なんだかボーっとしている感じがする。


「どうしたの愛花ちゃん、眠たそうだね」

「今日はひまわりちゃんがいつもより元気で疲れました」

「そ、そうなんだ……」


 こっちもひまわりちゃんか。

 なんだか騒音公害みたいになってるけど大丈夫かな。


「愛花ちゃんもちょっと寝ちゃう?」

「はい、ちょっとだけ……」


 そう言って愛花ちゃんは私の胸にむかって倒れてきた。

 これも仕方ない、しばらく胸枕をするしかないか。


 私は両側から女子小学生に寄りかかられとてもいい気分だ。

 そっとその肩を抱き寄せ、私もふたりの体のやわらかさを堪能する。

 ガハハハハハ。


「ね、姉さん……」

「うん?」


 最高の気分に浸っていると、目の前から若干引いたような声が聞こえる。

 天国から意識を連れ戻し、ちゃんと目の前を見てみると、そこにいたのは我が愛する妹、柑奈ちゃんだった。


「何してるの姉さん」

「いや、ふたりが寝不足らしくてね、ちょっと胸を貸してたんだ」


「なんで胸……。なんか今の姉さん、ハーレムの女王みたい」

「え?」


「両腕で女の子を抱いて、これで胸でも揉んでたら完璧」

「ちょっとやってみようか」


「え?」


 私は柑奈ちゃんの期待に応えるため、心を鬼にしてふたりの胸を軽く揉む。

 いや、本当にいつもの私ならこんなことできないけど、これは柑奈ちゃんのためなんだ!

 くじけそうになる私の心を奮い立たせ、膨らみかけの胸をやさしく揉み続ける。


「ど、どうかな柑奈ちゃん! 女王っぽいかな?」

「何してるの!」

「ひゃっ」


 私は柑奈ちゃんに喜んでもらえると思ってドヤ顔をきめると、どこから出てきたのかハリセンで頭をはたかれた。

 なぜだ。


「早くおっぱい揉むのやめて」

「え? なんで~? あ、柑奈ちゃんも揉んで欲しいの? ごめんね、今は両手がふさがってるから、今晩お風呂でね♪」


「両手がふさがってるのは揉んでるからでしょ! それに私は揉まれるより揉みたいの! だから今晩お風呂でね!」


 なんと!

 半分冗談だったのに、柑奈ちゃんとの入浴がセッティングされてしまったではないか。


 くっくっく、はっはっはっ!

 私の勝ちだ!


「うわ~、なんだかすごいことになってるね~」

「って、あれ? 智恵ちゃん!?」

「こんにちは」


 両腕で女の子を抱き、胸を揉みながら笑う私の前に、突然姿を表したのは智恵ちゃんだった。


「智恵ちゃんの家って反対方向だよね? どうしてこんなところに?」

「一度家に帰ってから遊びに来たんだよ。きっと小学生目当てで公園とかにいると思って。まあ予想以上だったけど」


「遊びに来るならそう言ってくれればちゃんとむかえに行ったのに」

「やだなぁ、突然来ることに意味があるんだよ」


「そうなの?」


 そういえばみんなけっこう突然遊びに来るよね。

 行き違いとかになったらどうするんだろう。


 やっぱり私の居場所って捕捉されているのかな……。

 いや、もしかしたら普段からみんながこういうことしてて、けっこうな数を失敗してるとか?


 だったらやだなぁ。

 ちゃんと遊びに来るって教えて欲しいよ。


 でもでも、智恵ちゃんがわざわざここまで来てくれたのは嬉しいな。

 最近どんどん仲良くなってるよね私たち。


「そういえば智恵ちゃん、この前は楽しかったね」

「うん? この前?」


「そう、一緒に神社行ったこと」

「え、神社? 私と? やだなぁ、一緒に行ったのはショッピングモールでしょ?」


「……え? その後神社に行ったよね、小路ちゃんと一緒に」

「確かに小路ちゃんとは出会ったけど、あそこでお別れしたよね?」


 私の頬に冷たい汗が流れる。

 そういえば確かにあの時、神社で一緒だった智恵ちゃんはなんだか様子が変だった。


 突然目の前に顔を近づけてきたりとか、他にもいろいろと……。

 カナカナカナカナってセミが鳴いてる声が聞こえてきそうな感じだったよね。


 あれは智恵ちゃんじゃなかったってこと?

 いや、そんなはずはない。


 ショッピングモールまでの記憶はあるのなら、なんでそこから先の記憶がないの?

 確かに一緒に行ったはずなのに。

 ……ホラー?


「くすっ」

「え?」


「あはは、冗談だよなずなちゃん。忘れてるはずないでしょ?」

「もぉ~! ひどいよ智恵ちゃん!」


「え~? 疑う方がおかしくないかな? かな?」

「む~」


 私は非日常を受け入れる人間なんだよ!

 だってその方が楽しいでしょ?

 お母さんもそう言ってたし。


「だからね、なずなちゃん。あの時にした約束通り、高校を卒業したら結婚しようね」

「え?」


 おかしい、そんな約束した覚えはない。


「くすくす、今度はなずなちゃんが記憶ないフリしちゃうの? 面白いね」

「あは、あはは……」


 結婚の約束?

 記憶にございません。

 あと顔が近いし、目が怖いよ智恵ちゃん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る