第68話 甘味処と将来の夢
甘味処に入ると、店員さんに誘導されテーブルへ。
小路ちゃんが先に奥に入ったので、私は特に何も考えずその隣に座る。
すると愛花ちゃんも私の隣に座ってきた。
片側に3人座るという状態になってしまう。
変な客に思われないだろうか。
私は真ん中に挟まれていい気分ですけどね。
メニューをテーブルの上に置いて何にしようか眺める。
栗にしようと思ったけど、こういろいろあると目移りしてしまうものだ。
甘いものは何でも大好きだからね。
両側から覗き込んでくる小学生二人の甘い香りも大好きさ。
おおっと!?
左側にいる小路ちゃんの胸元が少し開いているだと!?
和服の胸元はいかんですよ。
思わず手をつっこみたくなるじゃないですか!
くっ、沈まれ私の左手よ!
「どうしたんですか? 手が痛いんですか?」
「あ、何でもないんだよ。痛いのは私の存在かもしれないね」
「え? どういうことですか?」
「いや、ごめんね、忘れて」
いけないいけない、危うく中二病を発症するところだった。
呼吸を整え、冷静になるんだ。
私が深呼吸をして目を閉じていると、急に私の手が誰かに握られる。
目を開くと、私の左手が愛花ちゃんの両手に包まれていた。
私は驚いて愛花ちゃんの方を見る。
「大丈夫?」
うおおおおおおおお!!
大丈夫じゃないぞおおおおおお!!
君を食べちゃいたいくらいだあああ!!
「愛花ちゃん、ありがとおおおおおお!!」
私は愛花ちゃんを抱きしめて頬をすりすりしてしまう。
それがもうお餅のようにやわらかくて食べてしまいたくなった。
そこに恐る恐るといった感じで声がかかる。
「あ、あの~、ご注文はお決まりでしょうか……?」
「……私はおぜんざいとお抹茶で」
栗はどこへいった私。
店員さんの必死の笑顔を見ていると少し心苦しくなる。
そりゃ注文を取りに行ったら、女子高生が女子小学生を襲ってるんだもんね。
私だったら一緒になって襲ってるかもしれない。
そう考えるとこの方はやはり接客のプロだといえるだろう。
素晴らしい。
「みんなはどれにする? 遠慮しなくていいよ、私がごちそうするから」
「あ、ありがとうございます。それでは私も同じものを」
小路ちゃんは私と同じものを頼んできた。
もしや小路ちゃんも愛花ちゃんのぷにぷにほっぺを見てお餅が食べたくなったなぁ?
「私は栗饅頭とお抹茶で」
そして愛花ちゃんが栗を頼む。
はっ、これは後で「ちょっと交換しよっ」イベントを発生させることができるのでは?
ぐふふ、罠にかかったね愛花ちゃん。
ぐふふふふ。
しかしこのままではまずい。
いつもなら茜ちゃんが止めてくれたりもするけど、今はいない。
おぜんざいで足りなくなった私はふたりのこともおいしくいただいてしまうのでないか。
それはイケナイ!
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
そうだ、このお姉さんならば私を止めてくれるに違いない。
だってプロだから。
「すいません、お姉さんも一緒に注文させてください」
「ふぇ!?」
「私にはお姉さんが必要なんです!」
「いやでもその、私はそういう経験ありませんので……」
お姉さんは顔を赤くしながら少しずつ後ろに下がっていく。
そりゃ、お客さんと一緒に甘味を食べる経験なんて普通ないだろう。
しかしここで諦めたら私はお縄につく可能性が残ってしまう。
「待ってください、だったら今ここで経験しましょう! お姉さんの未来のために」
「ご、ごめんなさい! バイト中ですので~!!」
お姉さんは走り去っていってしまった。
あの店員さんはバイトだったのか。
素晴らしい人材だというのに。
しかしこれで私は自力でこの楽園を切り抜けなければならなくなったということか。
ふぅ、頑張ろう。
と、そこでなにか視線が突き刺さって左をむくと、小路ちゃんがじ~っと私のことを見上げていた。
「えっと……、どうかした?」
「ナンパですか? 最低だと思います」
「いやいやいや、違うんだよ今のは」
「まあ別にいいんですけどね」
ぎゃ~!
好感度が下がってしまった~!!
ここは何か楽しい話題で誤魔化さないと。
「ふたりは将来の夢とかあるの? やっぱり野球とか?」
「何ですかいきなり……」
ちょっと苦しかったか~?
「私はホワイトリバーさんみたいな同人作家になりたいです」
先に答えてくれたのは愛花ちゃんだった。
ホワイトリバーさんというと、この前家で遊んだゲームの原作者さんか。
「そっか、ちゃんと夢があるんだね、私応援するから!」
「はい」
愛花ちゃんのいい笑顔に、私は下心なしで頭をなでる。
すると、後ろで小路ちゃんが小さくつぶやく。
「私の夢は、お嫁さんとか……」
「え」
ピュアピュアだ~!
かわいい~!
「もしかして好きな人とかいるの!」
って、まあ、言うまでもないよね。
「えっと、特には……」
「あれ、そうなの?」
ひまわりちゃんじゃないのか。
それとも恥ずかしいだけ?
「でもそうですね、お姉さんみたいな人がいいですね」
「え、私!?」
「はい」
「な、なんで私?」
てっきり興味なし、脈なしだと思ってたけど。
いったいなぜ?
「お菓子食べさせてくれる人が好きです!」
「……」
こどもだった。
「次のペットの名前、『なずな』にしますね!」
「えっ!? いや、その、『あやか』とかどうかな?」
「いい名前だと思いますけど、知らない人の名前はちょっと」
いやいやいや、なんで知ってる人から名前つけるの!?
まあ、なんとなく気持ちはわからないこともないけど。
「ということで、お姉さんの名前お借りしますね」
「ちょっと待って、よく考えた方がいいんじゃないかな~」
なんて私が追い詰められていると、そこにタイミングよく甘味が運ばれてくる。
ナイスです!
私たちの前に甘味が並べられると、運んできたお姉さんはなぜか対面の椅子に腰を下ろした。
よく見るとその人は、私服に着替えたさっきの店員さんだった。
「バイト、あがりにしてもらいました。よろしくお願いいたします」
「ええ~!?」
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