第67話 愛花ちゃんとお出かけ

 夜になって、小路ちゃんのことを考えながらベッドの上で寝転んでいた。

 あの子とうまく仲良くなる方法、そんなものはあるのだろうか。


 失敗すればひまわりちゃんのように、ペットに名前を付けられかねない。

 ……それもアリだと考えて、普通に攻めてみるか。

 いや~、でもなぁ……。


 そんなことを考えていると、私のスマホに着信が入る。

 お相手は愛花ちゃんだった。

 実は何度か夜におしゃべりしてたりする。


「こんばんは愛花ちゃん」

『あ、すみませんこんな時間に』


「いいよ~別に。今日はどうしたの? 眠れないとか?」

『あ、いえ、その……』


「……?」

『あのっ、明日、一緒にお出かけしませんかっ』

「お出かけ?」


 そういえば前に約束したけど、まだお出かけしてないな。


「いいよ、明日の放課後だね。どこか行きたいところあるの?」

『どこでもいいです。……お姉さんと一緒なら』


「そっか、じゃああんまり時間ないだろうし、なにか甘いものでも食べに行こうか」

『はい、楽しみにしてます!』


 その後もいろいろおしゃべりした後、電話を切って、決めた待ち合わせ場所とかをメッセージで送る。

 ふふふ、突然のことだったけど明日のお楽しみができちゃった。




 次の日。

 待ちに待った放課後。

 私はルンルン気分で同好会を休み、みんなに怪しまれながら下校する。


 このまま家まで全力ダッシュしそうな気分だったけど、待ち合わせまで時間はあるし、変なところで体力は使いたくない。

 どこで体力を使うことになるかわからないからね。


 もしかしたら歩き疲れた愛花ちゃんをお姫様抱っこして家まで送ることになるかもしれない。

 ここはちゃんと備えておかないとね。

 それも淑女のたしなみというものさ。


 ……違うか。


 私が愛花ちゃんと過ごすこれからの時間を想像し顔がにやけそうになっていると、校門を出たあたりでくいっと後ろから制服を引っ張られる。


「おっとっと」


 足を止めて後ろを振り返ると、なんとそこには愛花ちゃんがいた。

 待ち合わせ場所は違う所なのに、なぜここにマイエンジェルが?


「えっと……、待ちきれなくて来ちゃいました」

「愛してる!」


 私はみんなが見ている前だというのに、大声をあげながら愛花ちゃんを抱きしめる。

 最初は恥ずかしいのか身をよじっていた愛花ちゃんも、しばらくしてあきらめたようにおとなしくなった。


 もうこのまま唇を奪ってしまうのもアリじゃないか?

 なんて思っていたけど、さすがに校門でこんなことをしているとまわりの視線が痛い。


 なにやら顔を赤くしながら、興奮した様子でシャッターチャンスをうかがっているっぽい人もいるし。

 ここはあきらめて引き下がることにする。


「そろそろ行こうか」

「はい」


 私は自然な流れで手を差し出すと、これまた自然な流れで手を握ってくれる。

 おっし、最高だ!

 手を繋いで歩き出すと、愛花ちゃんがさらに距離を縮めてきて、私の腕に頭を預けてくる。


 まるで猫のようにすりよってくる姿がめちゃくちゃかわいい。

 もう最高だ!


 まわりからはどんな風に見えるのだろう。

 ラブラブカップルに見るのかな?

 それとも仲良し姉妹?


 まあ、なんだっていい。

 私は今幸せなのだから。


 そのままくっついた状態で、私たちは学校近くにある商店街へと消えていった。




 さてさてどのお店にしようかな。

 この商店街には喫茶店も甘味処もあり、甘いものには困らない。


 今の私はなんとなく栗が食べたい気分だ。

 モンブランとコーヒーがいいか。

 いやしかし、栗ようかんにお抹茶というのも捨てがたい。


「むむむ……」


 私が人生を左右する大きな決断を迫られていると、そこにふらっと見覚えのある人物が視界に入った。


「あっ」

「あ、こんにちは」


 その人物は小路ちゃんだった。

 ただ、今までと違ってなぜか和服に身を包んでいる。


 なんかすごい目立ちそうな格好なのに、似合いすぎてて全然違和感がない。

 誰も視線をむけてこないところがすごいと思う。


「愛花ちゃんもこんにちは」

「うん、こんにちは」


 あれ、ふたりは知り合いなの?

 って、まあ同じ学校なんだし、別におかしいことじゃないか。


「おふたりはずいぶん仲がいいんですね」


 小路ちゃんは私の腕に抱きついたままの愛花ちゃんを見ながら言った。

 これはまあ、そうだよね。


「愛花ちゃんは柑奈ちゃんのことが好きなんだと思ってた」

「うん好き。でもお姉さんのことも好き」


「お姉さん?」

「柑奈ちゃんのお姉さん」

「そうなんだ」


 小路ちゃんはあまり興味なさそうに言って、それから私のことを見た。


「?」

「お姉さんはみんなから好かれてるんですね」


「そ、そうかな」

「はい、でもなんとなくわかる気がします。やさしい雰囲気がしますから」


 そこで小路ちゃんはふわっと笑顔を見せてくれた。

 ちょっと大人っぽい表情で、不意打ちだったこともありドキッとしてしまう。


 とても猫にひまわりちゃんの名前を付けているような子だとは思えない。

 ちょうどそんなことを考えていた時だった。


「そういえばひまちゃんは一緒じゃないの?」

「うん、お店には連れていけないから」


 ひまちゃん?

 ひまわりちゃんってこと?

 ……どっちのだ。


「ねえ愛花ちゃん、ひまちゃんっていうのは?」

「小路ちゃんの家の猫」


「やっぱりか」

「ひまわりちゃんと同じ名前だから、ひまちゃんって呼んでる」


 なんてこった、みんなその状況を知ってるのか。

 やっぱり小学生の間では普通なの?


「あの、それってひまわりちゃんは知ってるの?」

「一応気付かれてないと思う。そのためにひまちゃんって呼んでるから」

「そうなんだ……」


 どうやら猫に友達の名前を付けることが流行っているわけではないらしい。

 ほっと一安心だ。

 ……安心していいのだろうか。


「では私はこのお店に入りますので」


 そう言って小路ちゃんが指差す先には甘味処が。


「あ、私たちもここにしようか」

「はい」


 どこにするか決めかねてたしちょうどいい。


「それでは一緒に入りましょうか」

「だね」


 私たちはせっかく出会ったということで、一緒に甘いものを食べることにした。

 愛花ちゃんとのお出かけだったはずだけど、これは小路ちゃんとも仲良くなれるチャンス!

 少しでも距離を縮めてみせるよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る