第65話 彩香の写真撮影と大胆ななずな

「う~ん、いませんね~」


 珊瑚ちゃんがスマホを手にしながらつぶやく。

 私と珊瑚ちゃん、彩香ちゃんの3人は今、学校の近所にある公園にいた。

 同好会の活動で写真撮影をするためだ。


 何の写真かは今さら説明するまでもないと思う。

 我々は幼女同好会なのだから。


 しかし、肝心の被写体がいない。

 珍しいなぁ、大体この時間は何人か遊んでるはずなんだけどなぁ。


 あてが外れてどうしようかと思っていると、近くでカシャッとシャッター音が聞こえる。

 そちらを見ると彩香ちゃんが楽しそうに写真を撮り続けていた。


 その様子を見て、珊瑚ちゃんが不思議そうに声をかける。


「委員長はさっきからいったい何を撮っているのですか?」

「え? お花だけど?」


「なぜ?」

「なぜって言われても……、きれいだったから」


「委員長、私たちは何の写真を撮りに来たのかわかっていないのですか?」

「えっと……」


「私たちはかわいい女の子の写真を撮りに来たのですよ! 真面目にやってください!」

「そんな堂々と言われても……。っていうかなんで私怒られてるのかしら……」


 女の子を撮影しに来たヤバい女子高生に、お花を撮影している健全な女子高生がお説教されるという不思議な状況。


 私はこの瞬間をこっそりばっちりカメラに収めておいた。

 それより誰もいない公園では私たちの目的は達成できるはずもない。


「どうする珊瑚ちゃん? 別の公園に移動する?」


 私が珊瑚ちゃんに声をかけると、代わりに彩香ちゃんが返事をした。


「あら、別にここでもいいじゃない。かわいい女の子ならここにもいるんだし」


 そう言って彩香ちゃんは、ニヤッと口角をあげながらスマホを珊瑚ちゃんにむける。


「……え?」


 珊瑚ちゃんは彩香ちゃんの言ったことを遅れて理解し、驚いた表情をする。


「委員長は私のことをそんな目で見てたのですか!?」

「あら、私は最初からあなたのことはかわいいと思っていたわよ」

「ひぃ!?」


 珊瑚ちゃんは想定外の人物から攻撃を受け、恥ずかしくなったのか、私の後ろへと逃げ隠れた。

 そして警戒したような目を彩香ちゃんへむける。


 背中に抱きつかれる形となった私は、そのいろいろとやわらかい感触と甘い香りに包まれて顔がにやけそうになった。

 しかしここは毅然とした態度で彩香ちゃんへと立ちむかう。


「彩香ちゃん、珊瑚ちゃんがかわいいのはわかるけど、独占しちゃダメだよ! 私も撮りたいんだから!」

「ダメよ、今はあなたも被写体なのだから。やっぱり美少女がふたり並ぶと華やかね」


 彩香ちゃんは冷静な態度を崩さず、なんと私もまとめて撮影されようとしている。

 いつもの彩香ちゃんじゃな~い!


「キャ~! 彩香ちゃんの変態!」

「委員長最低です!」


 私と珊瑚ちゃんはお互いに抱きつきながら身を隠そうとするけど、それがまた逆効果になった。


「あなたたち以上の変態はなかなかいないわよ。それよりいいわね、美少女同士のハグっていうのは。映えるわ」

「キャ~!」


 あれ、彩香ちゃんってこんな子だったっけ?

 油断した、彩香ちゃんの興味は愛花ちゃんにしかむいてないのだと思っていた。


 しかしそこは幼女同好会に属する者。

 ただのシスコンで終わるわけがなかったということなの!?


「どうしちゃったの彩香ちゃん! 愛花ちゃんへの愛はどこへいっちゃったの!?」

「ぐふふ……、実は愛花ちゃんからあなたたちの写真が欲しいと頼まれているのよ」

「結局愛花ちゃんか! っていうか、何頼んでるの愛花ちゃん!?」


 小学生でそれはレベル高すぎないだろうか。

 求めてもらえるのは嬉しいんだけどさ!


「愛花ちゃんのためなら私は変態にだって身を落とすわ!」

「落としちゃダメだよ! もっと自分を大切にして!」


「ウフフフフ……、さあさあ、キスでもなんでもしちゃいなさい!」

「キスって……、いったい何の写真頼まれてるの!?」


 もしかして愛花ちゃんは、私というよりそういうのが好きなの!?

 そういえば家に来た時も女の子同士の恋愛ゲームを一緒に遊んだなぁ……。

 そんなことより今は自分の身を守らなくては!


 私は写真を撮るのは好きだけど、撮られるのはあまり好きじゃないのだ!

 めちゃくちゃかもしれないけど、なんとでも言ってくれて構わない。


 いったん珊瑚ちゃんから離れて逃げようと考えた私だったが、それはなんと珊瑚ちゃんによって阻止されてしまう。


「えっと、あの~、珊瑚ちゃん? なんでそんなに私のことをホールドしてるの? 逃げないと恥ずかしい写真撮られちゃうよ?」

「構いません」

「え?」


 珊瑚ちゃんから返ってきた意外な答えに私は驚いて固まる。


「愛花ちゃんのためです! さあキスしましょう!」

「えええええええええ!?」


 私はさらに驚き、思わず大きな声で叫んでしまった。

 珊瑚ちゃんの目がハートになっている。

 これヤバいやつだ!


「きたあああああああああああ!! 動画にしておいてよかったあああああああああ!!」


 そして彩香ちゃんも奇声に近い声をあげる。

 動画にしてたんならこの声は邪魔になると思うよ?

 なんて冷静なこと思ってる場合じゃない。


 逃げなきゃ!


 私は何とか珊瑚ちゃんを振りほどこうと手を動かす。

 しかし、これまた偶然にも、私の手はなんと珊瑚ちゃんの胸を鷲掴みしてしまった。


 いや、ホントにわざとじゃないから!

 ホントホント!

 こんな時にバカなことしないから!


 しかし、珊瑚ちゃんと彩香ちゃんはそうは思わなかったらしい。


「なずなさん……、だ・い・た・ん♪」

「違うってばああああああ!!」


 珊瑚ちゃんの目のハートマークがひと回り大きくなった気がする。


「白河さん、ノリノリね!!」

「だから違うってばああああああ!!」


 彩香ちゃんも勘違いしちゃってるし。

 しかし、口ではそういうものの、私の手はこのチャンスを逃さず、珊瑚ちゃんの胸をいまだに揉みしだいていた。


 ああ、やわらか~い。


 というか、彩香ちゃん、それ本当に愛花ちゃん用なの?

 本気で自分が楽しんでるようにしか見えないんだけど!

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