第62話 紅葉さんと制服デート③

 お店を出た後、商店街をぶらぶらと歩き、いい時間になったところでお昼ご飯をとることに。

 紅葉さんってどういうところでご飯食べるんだろう。


 やっぱり一応デートだし、お洒落なところとか行くのかな?

 あまり得意じゃないので緊張するなぁ。

 私はそわそわしながら紅葉さんについていくと、よくあるカフェの前で立ち止まった。


「う~ん、ここにしましょうか」

「ああ、はい」


「ラーメンの方がよかったですか?」

「なぜそこでラーメンなんですか?」


「この前先輩に連れて行ってもらったんですけど、すっごくおいしかったので!」

「そうだったんですか。まああんまりお腹空いてないのでここでいいと思いますよ」


「じゃあ入りましょうか」


 中に入り、注文をし、メニューを受け取って席に着く。

 頼んだものはコーヒーとサンドイッチ。

 今はこれくらいがちょうどよかった。


 あまりお腹が空いてないのは、紅葉さんとのデートが楽しくて満たされているからかもしれない。

 ずっとにこにこしている紅葉さんの笑顔を見ていると、なんだかすごく幸せな気持ちになる。


 笑顔は幸せをおすそ分けできる。

 紅葉さんを見ていると、そんな風に感じた。


 昼食を食べ終えた私たちは、店を出てまた歩き出す。

 今度はどこへ行くんだろう。

 そう思いながら歩いていると、紅葉さんが急に振り返って言った。


「なずなちゃん、やっぱり海に行きせんか?」

「え、海ですか?」


「はいっ! もちろん泳ぐわけじゃないですよ?」

「別にいいですけど……」


 いきなりな話だったけど、海は好きなので断る理由はない。

 ちょっと帰るのは遅くなるかもしれないけど、紅葉さんと一緒にいられる時間が長くなるのは嬉しい。


 さっそく私たちは駅へ行き、海にむかう電車へと乗り込んだ。

 むかう先は少し遠い海で、ここからだと大体1時間くらいかかる。


 なので、電車の中ではさっき買ったばかりのラノベや同人誌を読んで過ごした。

 そんなことをしていると、1時間はあっという間で、あやうく降り損ねそうになる。


 駅を出ると、すでに海が近くにあるんだとわかるような空気を感じた。

 私はまだ来たことのなかった場所で、紅葉さんに付いて道を進んでいく。


「紅葉さんはよくここに来るんですか?」

「う~ん……、たまにですね。昔、先輩に連れてきてもらったことがあるんですよ」

「お母さんに?」


 もしかしてお母さんのお気に入りの場所だったりするのかな。

 海に行きたいだけだったら、私がよく行く場所だと30分くらいで行けたりする。


 近いわけでも、一番都会というわけでもなく。

 かといって、誰も知らない秘密の場所という感じもしない。

 何か思い出でもあるのかな。


「あ、そうだ。手を繋いで歩きましょう」

「いいですよ」


 今日はさんざん腕を組んだりして歩いてるし、手だって何度も繋いでる。

 それで気付いたことがあるんだけど、私は今まで腕を組む方がドキドキするんだと思ってた。


 でも今日、紅葉さんと手を繋いでわかった。

 手同士の方が、柔らかさとか体温とかが伝わってきて、こっちの方が恥ずかしいということ。


 世のバカップルたちはすごかったんだなぁ。


「うふふ」

「楽しそうですね」


「はいっ! 先輩と来た時もこうやって手を繋いで歩いたんですよね~。懐かしいです」

「そうですか……」


 お母さんも紅葉さんと手を繋いで歩いたりするんだなぁ。

 やっぱり仲良かったんだ。

 どういう関係だったのか、ちょっとわからないところもあるけど、ただの先輩後輩じゃないのかも。


 紅葉さんの笑顔を見れるのは幸せなことだけど。

 私にお母さんとの思い出を重ねられるのはちょっと……、胸がもやもやしてしまった。




 しばらく歩くと、視界いっぱいに海が広がった。

 きれいな海岸沿いの道路は歩いているだけでなんだかテンションがあがってくる。

 夏に来たらもっと爽快な景色が見れるんだろうなぁ。


 さらに歩き続けると、立派に整備された公園が見えてきた。

 中にはさぞかしバカップルがうじゃうじゃいるんだろう、なんて思ってたけど意外と人は多くない。


 いるのはみんな中学生か高校生くらいの女の子たちで、ただのお友達とは思えないような雰囲気を醸し出していた。

 まるで京都の鴨川等間隔の法則みたいに並んで座っている。


 私たちはそんな幸せそうなみなさんを眺めながら後ろを通り過ぎ、さらに人の少ないところまで移動した。


 そこで紅葉さんはそっと手を離して、先に海の方へ行ってベンチに座る。

 私もそっとその隣に腰を下ろした。


 とてもきれいな景色、どこまでも続いているような海と空を眺めていると、隣で紅葉さんが深く息を吐いた。

 チラッと横目で見てみると、いつものようなニコニコ笑顔ではなく、ちょっと大人な憂のある表情をしている。


 初めて見る表情だったけど、これはこれで普段とギャップがありドキッとしてしまった。

 やっぱりこの人と一緒にいると、私の中のロリコン魂が揺らいでしまう。


 負けるな私!

 私は小学生が、大好きなんだぁあああああああ!!


 なんて心の中で叫んでいると、なぜかいきなり紅葉さんが私の頭をなで始めた。


「え、なんですか?」

「むふふ~、かわいい子だなって思いまして」


「そ、そうですか?」

「そうなんですぅ~。だって先輩のこどもなんですから」


 そう言って私の頭をなでる紅葉さんの顔は、いつものこどもっぽいものではなく、やっぱりお母さんなんだなって思うようなやさしい表情だった。

 でも制服姿に違和感が出るわけでもなく、かといってお姉ちゃんという表情でもなく。


 親がこどもにむける、特別な表情だと思った。

 それがなんで私にむいているのかはわからないけど。

 ただぼんやりと、私のお母さんに関係があるんじゃないかと思った。


 そしてそれが私の想像通りであるのなら。

 私はその事実をあまり聞きたくはないな、なんて思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る