第61話 紅葉さんと制服デート②
ひまわりちゃんのママさんである紅葉さんに手を引かれ、連れてこられたのはこの辺りで一番大きなアニメショップだった。
この辺りは大手のアニメショップが近くにいくつかあり、この街のオタロードのような場所になっている。
とは言ってもごく普通の商店街なので、メイドさんがチラシを配ってたりとかはしていない。
アニメショップの中に入ると、紅葉さんがグイっと腕に抱きついてきて連行される。
制服を着てるからそうは見えないだろうけど、お友達のママさんに抱きつかれてアニメショップを徘徊するってどんな状況なのだろうか。
紅葉さんの胸が腕に当たって気持ちいい。
大きくはないけど、小さいわけじゃない、サイズは普通。
でもなんだかとてもやわらかい。
今まで何人かの胸を触ったことがあるけど、一番感触がいい気がする。
……人のママさんの胸でいったい何を考えているんだ私。
紅葉さんが最初に立ち止まったのは新刊のコーナー。
私も紅葉さんもお目当ての本はなかったので、軽く目を通した後、次はラノベの棚へむかう。
そこには最近人気上昇中の作品がコーナーを作って並べられていた。
そのコーナーで『トラックにひかれた女子高生が異世界へ転生したら幼女だらけの世界でした』という本が目に入る。
あ、これ、珊瑚ちゃんが書いてたっていうWEB小説だ。
書籍化してるよ……。
本当にすごいな珊瑚ちゃんは。
もうなんでもありだね。
私が珊瑚ちゃんの作品に意識を持っていかれていると、いつの間にか離れていた紅葉さんがいくつかの本を持って戻ってきていた。
「なずなちゃんにこの作品をお勧めしますよ!」
「え、なんですか?」
反射的に本を受け取り、そのタイトルに目を通す。
『私の友達のママさんがかわいすぎる』
『私の友達とそのお母さんが修羅場すぎる』
『学生時代の先輩の娘が私にメロメロになるまでの100日間』
……。
わあすごい。
全部百合作品な上に、女子高生とママさんの恋愛ものだ。
というか、最後のやつ、私狙われてる!?
大歓迎ですよ紅葉さん!
「素晴らな作品たちですね。ぜひ読んでみたいです」
「本当ですか! コミック版もあるんですよ、全部買ってあげますね!」
「いやいやいや、それはさすがに悪いですよ」
「いいんですよ! これもなずなちゃんの調教……、いや洗脳……、いや教育のためですから!」
「……」
紅葉さん、何度も言い直してますけど、全部この場ではふさわしくないと思いますよ。
せめて布教とかでよかったのでは?
結局一番巻数の少ない最後の作品の小説版とコミック版を全巻、紅葉さんはカゴに投入していた。
私アニメショップでカゴ使ったことないや。
これが大人買いってやつか。
うらやましい……。
いつか私もやってみたい。
「なずなちゃん、こっちこっち」
「え、あ、待ってくださいよ~」
少し目を離した隙に、紅葉さんは同人誌の棚の方へ移動していた。
ここは中古本も取り扱っているので、古い同人誌も結構残っていたりする。
そこで紅葉さんは何かを探しているようだった。
「好きなサークルさんとかあるんですか?」
「いえ~、特にそういうのはないんですけど……、あ、あった」
「うん?」
紅葉さんが棚から抜き取ったのは、あきらかに百合作品だとわかる表紙をした薄い本。
イラストは非常にきれいで、ついつい中身を知らなくても買ってしまいたくなるようなものだ。
「この本を探してたんですか?」
「はい! ほら、先輩って同人活動やってるじゃないですか」
「え、そうなんですか?」
「あれ、知らなかったですか? 言っちゃまずかったのかな……」
衝撃の事実を聞かされた私と、「やばっ」みたいな顔をする紅葉さん。
しばらくふたりで固ってしまう。
「ま、いっか! これがですね、先輩の描いた作品の一つなんですよ~」
「ええ!?」
お母さん、めちゃくちゃ絵うまい!
「先輩って学生の頃から同人やってて、結構有名な人だったんですよ」
「へぇ~」
珊瑚ちゃんといい、お母さんといい、すごい人たちが多いなあ。
もっと私みたいに普通の女子高生はいないのだろうか。
「こっちは最近出したらしい本なんですけどね、見てください、私たちに似てると思いませんか?」
「え……」
紅葉さんが次に見せてきた新刊の同人誌には、私たちに似ていると言われれば似ているような、そんなキャラクターが描かれていた。
さっきの本のイラストもかなりうまかったけど、これはさらに進化している。
もはやトップクラスのプロレベルだ。
お母さん、すごいなぁ……。
「そしてこのふたりはこんなことをしています」
「ひょえ!?」
紅葉さんが裏をむけて、そこに載っている数ページの漫画の中で、このおふたりはキスをしたり、その……抱き合ったりしていた。
えっと、これ、一般向けになってますけど大丈夫ですか?
私、買っちゃいますけど大丈夫ですか?
「きっと先輩は仲良しな私たちを見て、エッチな妄想をしていたんですね。そう思うと、なんか込み上げてくるものがありますね!」
「いやいやいや、私、同じ家に住んでるのにそんな目で見られてたと思うといろいろ怖いんですけど! しかも母親に!」
「私これ4冊買うので1冊あげますね」
「ありがとうございます!」
カゴに同じ本が4冊入っていく。
すごいね、大人の資金力。
紅葉さんは他にもいろいろ百合作品をカゴにいれてレジにむかっていく。
私たちは普段よりも数段高いテンションでお店を後にした。
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