第56話 懐かしき小学校となずなの誘惑

 放課後、私たちは同好会のとある活動が終わり現地解散したところだった。

 その場所はなんと柑奈ちゃんたちが通う小学校だ。


 まあ大半の小学生は、私たちが来る頃には帰っちゃっていないんだけどね。

 なのでやましいことなんか何もしてないよ?


 残っているのは放課後に学校に残って遊んでいる子たちくらいだ。

 きっと柑奈ちゃんたちも家に帰っていることだろう。


 そんなところに何をしに来たのかというと、珊瑚ちゃんが私と茜ちゃんが過ごした小学校を見たいと言うので連れてきてあげたのだ。

 柑奈ちゃんがいる学校なので、すでに珊瑚ちゃんはチェック済みだと思うんだけどなぁ。


 それでも珊瑚ちゃんは私の思い出話を楽しそうに聞いていたから、今日はいい一日になったんじゃないかと思う。

 というか、こっちがお目当てだったんだよね、きっと。


 珊瑚ちゃんと彩香ちゃんは先に帰っていき、ここに残っているのは私と茜ちゃんだけだ。

 懐かしいグラウンドを眺めていると、なんだか中に入ってキャッチボールでもしたくなってきた。


「ねえねえ茜ちゃん、久しぶりだしちょっと中に入ってみない」

「え? ダメでしょ、私たちはもう部外者だよ?」


「結依ちゃんに頼めば大丈夫だよきっと」

「う~ん、結依ちゃん先生に迷惑かかりそうで嫌だなぁ」


「まあまあ、無理は言わないから」

「なずなが頼んだら断りづらいと思うんだけどなぁ……」

「え、なんで?」


 私、別に結依ちゃんの弱みとか握ってないけど?

 そんなことを思いながら、私たちは堂々とグラウンドに突撃していく。

 いったん職員室へむかおうとしていたところだったのに、ちらっと見た遊具の影になぜか結依ちゃんを見つけた。


 何をしてるんだあの人。

 スマホを構えていて、その先を見ると、数名の女子生徒がキャッチボールをして遊んでいた。


 運動して暑いのか、結構薄着になっていて、しかもそれがチラチラときわどくめくれたりしている。

 なるほど、シャッターチャンスだ。

 しかし私のスマホではこの距離だといい写真は撮れそうにない。


 私はもっと近づいて撮ることにして、今は結依ちゃんを正しい道に導いてあげるのが先だ。

 先生として大丈夫なのかなこの人、私が言うのもなんだけどさ。


「ちょっとよろしいですか」

「ひぃっ!?」


 いつか私が誰かにやられた事を結依ちゃんにやってみた。

 そりゃびっくりするよね~。

 人生終わった感じするもん。


 結依ちゃんは私だと気付いていないらしく、ぎぎぎとこっちをむく。


「わあ」


 私はニコッと笑いながら両手を振る。

 ドッキリ大成功だね。

 声を掛けたのが私だとわかった結依ちゃんは、わかりやすくほっとしていた。


「どうしてここになずなちゃんがいるの?」

「遊びに来たんだよ」


「そんな簡単に入って来ちゃダメよ?」

「え~? だって結依ちゃんにも会いたかったし……」

「ふひっ!?」


 私がちょっとあざとく小首をかしげながら言ってみると、結依ちゃんは変な声を出しながら固まった。


「なずな! ダメだってそういうことしたら」

「そういうこと?」


「その誘惑するみたいなのだよ! 結依ちゃん先生は耐性ないんだから」

「?」


 茜ちゃんが言ってることがよくわからず、今度は演技ではなく自然と小首をかしげてしまった。


「あんっ」


 すると今度は茜ちゃんが変な声を発し、胸の前で両手を組んだまま後ろに倒れていった。


「え、何? どうしたの茜ちゃ~ん!?」


 私はすぐに茜ちゃんに駆け寄り、頭を起こしてひざに乗せた。


「茜ちゃん、しっかりして!」

「うひ、うひひ……、かわいいよぉ……」

「茜ちゃ~ん! 誰が、誰がこんなひどいことを~!」


 そんな感じで私たちが騒いでいると、さすがに目立ってしまったようで、誰かが私のそばに近づいてきたことに気付く。

 顔をあげると、それは私のよく知るエンジェルちゃんだった。


「こんなところで何してるんですか、なずなさん……」

「あ、ひまわりちゃん!」


 突然の天使の降臨に、私は思わず立ちあがって抱きついてしまう。


「いたっ」


 そのせいで茜ちゃんの後頭部が地面に激突してしまった。


「あ、ごめんね茜ちゃん」

「いいよいいよ、私も気持ちよかったし」


「え……、茜ちゃんって痛くされたい人だったの……?」

「ち、違うよ、膝枕のこと!」


「なんだ~、よかった」

「そんなところ疑わないでよ……」


 だって頭打ってニヤニヤしながらそんなこと言われたら勘違いしちゃうよね?

 膝枕がそんなによかったのなら今度またやってあげようかな。


「あの~、なずなちゃん?」

「うん? 結依ちゃん、どうかした?」


「はやく放してあげないと、ひまわりちゃんが……」

「え、ひまわりちゃん?」


 言われて、抱きしめていたひまわりちゃんの様子を見ると、なんと顔が私の胸に埋もれてしまっていた。


「わわっ」


 慌てて解放すると、ひまわりちゃんは幸せそうな表情をしながら、さっきの茜ちゃんみたいにそのまま後ろへ倒れていった。

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