第55話 大親友で大切な人、そしてフィギュア

「まったくもう! まったくもうです!」

「ご、ごめんね珊瑚ちゃん」


 なんでかわからないけど突然ご機嫌斜めになった珊瑚お嬢様。

 私は何を間違えたのでしょうか。

 誰か教えてください。


 そんなよくわからない状況で、私たちは今、お昼ご飯代わりに焼きそばを食べている。

 海の家は営業してないので買ったものではない。


 黒服の皆さんが、持ってきたらしいバーベキューセットで作ってくれた。

 めちゃくちゃおいしいです、ありがとうございます。


 そんな黒服の皆さんは今、持ってきた食材をふんだんに使用してバーベキューを楽しんでいらっしゃる。

 いつの間にか車が増えていて、大勢ですごく楽しそうだ。


 もしかして今日は休暇を兼ねているのだろうか。

 楽しそうで何よりですね。


 おおっとなんだあの大きなお肉は!

 今熱々の鉄板にとても大きなお肉が投入されようとしている。

 ああ!


 なんていい音を奏でるんだあのお肉は!

 炭のにおいとともに、お肉とたれのにおいが風で運ばれてくる

 食べたい、食べたいよ~!


「なずなさん! 聞いてますか!」

「あ、ハイ、すみません、聞いてますよ!」


「じゃあ、結婚式は来週の日曜日で決定ですね」

「はい……、え? 何の話?」


「なずなさん、全然聞いてなかったでしょう!」

「ごめんね、ちょっと考え事してて」

「もういいです!」


 珊瑚ちゃんはぷいっと顔をそむけてしまう。

 でも頬をふくらませてかわいい。

 思わず私の頬は緩んでしまった。


「……なずなさんはやっぱり私のことなんかどうでもいいんですね」

「え?」


「結局なずなさんが好きなのはかわいい小学生だけで、私たちのことなんかカモフラージュくらいにしか思ってないんです」

「そ、そんなことないよ! 珊瑚ちゃんは私の憧れのお嬢様で、私の目指すべき女の子で!」


「でも全然私のこと構ってくれません! もういいです、別れましょう! さようなら!」

「あ、ちょっと待って珊瑚ちゃん! 別れるもなにも私たち付き合ってないし! ああっ」


 珊瑚ちゃんは普段からは想像もできない速さで砂浜を走り去っていく。

 早く追いかけないと!


「って、ええ!?」


 すぐに追いかけようとしたけど、なんでかこのタイミングで私が脱いで横に置いていたサンダルが強風でさようなら。

 こうなったら私の靴を返してもらうしかない!


「黒服の皆さん! 私の靴を……」

「「かんぱ~い!!」」

「乾杯してるぅうううううう!!」


 ダメだあの人たち、完全にオフになっている。

 というか全員お酒飲んでない?

 ドライバーさん残ってる?


 とにかくこうなったら私が裸足で走るしかない!

 待ってて珊瑚ちゃん、すぐに追いついてみせるから!

 私は、すでに姿が見えなくなった、困ったお嬢様を探すため走り出す。




 結果から言うと珊瑚ちゃんはすぐに見つかった。

 ちょっとだけ離れたところにあったカフェの前の階段みたいなところで、珊瑚ちゃんは座りながら海を眺めていた。

 元から隠れるつもりも、私から離れるつもりもなかったんだろう。


「珊瑚ちゃん」

「む~」


「そう拗ねないで、ね?」

「拗ねてません~」


 拗ねてるよね、それ。


「早かったですね、見つけるの」

「それはまあ、私、足は速い方だし。それに……」


「?」

「珊瑚ちゃんは私のこと置いていったりなんかしないって思ってるから。近くにいるだろうなぁって」


「む~」


 珊瑚ちゃんは私の言葉の何かが気に入らなかったのか、ポカポカと私のことを叩き始める。

 全然痛くないし、それにかわいい。


「あはは」

「何がおかしいんですか?」


「ううん、珊瑚ちゃんのいろんな表情が見れて嬉しいなって思って」

「え?」


「ずっと憧れっていうか、私たちとは別の世界の人だって思ってたのに、お友達になって、こんな風に一緒にお出かけまでして、すごく嬉しい!」

「あ……」


 私が思っていることを伝えてニコッと笑うと、珊瑚ちゃんは少し驚いたような顔をした。

 でもまたすぐに拗ねたような表情に戻る。


「だったらなんで最近同好会に来てくれないんですか?」

「え?」


「私といるのが楽しくないから、最近同好会に来ないで帰っちゃうんじゃないんですか?」

「そ、そんなことないよ! それに好きな時に来ればいいって言ってたし……」


「そうですけど! だから、来たくないのかなって……、思って……」


 珊瑚ちゃんは言葉を続けながら、だんだんしょんぼりとしていく。

 そうか、そんな風に思わせちゃったのか。


 私は柑奈ちゃんとの時間を優先しただけだったんだけど、確かにそう思われても仕方ないかもしれない。

 これは私にも責任があるなぁ。


「ごめんね、そんなつもりはなかったんだけど、これからはちゃんと行くから」

「べ、別に無理に来なくていいんです! なずなさんの邪魔になりたくありませんから……」


「邪魔なんかじゃないよ! 私も珊瑚ちゃんと一緒にいたいんだから!」

「なずなさん」


 私は珊瑚ちゃんの手を両手で握りしめて、しっかりと目を合わせて気持ちを伝える。


「珊瑚ちゃんは私の大親友、私の大好きな人なんだから!」

「!?」


 珊瑚ちゃんは目を大きく見開き、そしてそこからゆっくりと涙が流れた。


「仲直り……ですね」

「許してくれるの?」

「はいっ」


 私たちはお互いに笑顔をむけて、仲直りした。

 そもそもこれはケンカだったのか、それも私の中ではよくわからない。


 どんなに大切で大好きな人でも、すれ違ったりすることもある。

 そんな時はきちんと言葉で伝えることが大事だと思う。


「あ、そうだ。これ、私のなずなさんへの愛の証です、受け取ってください!」

「うん、ありがと……う?」


 珊瑚ちゃんからの贈り物を受け取った瞬間、私はその場で固まってしまった。


 だって仕方ない。

 それは小さな珊瑚ちゃんだったから。


 珊瑚ちゃんを細部まで再現したフィギュアだ。

 サイズはなんと四分の一スケール。

 よくかばんの中に入っていたものだ。


「これは……」

「こんな風にキャストオフできますよ」

「キャ~!!」


 珊瑚ちゃんは自分を再現したフィギュアだというのに、何のためらいもなくパンツのパーツを取り外してしまった。


 パンツの下ということはつまりそういうことなのだが、残念ながら謎の光によって拝むことはできない。

 後で自宅に戻ってから楽しむとしよう。


 これは、その、ご本人が忠実に再現されていると思ってよいのでしょうか?

 しかもこのクオリティ。

 そんなことができる人物がいるのだろうか。


 ……いや、ひとりだけ心当たりがある。

 最近よく遊びに来るあの子なら、珊瑚ちゃんを忠実に再現することも可能かもしれない。


 ありがとう。

 今度会ったら何かお礼をしないといけないかな。

 それにしてもこれ、このまま受け取るのはなんとも問題だらけのような気が……。


「珊瑚ちゃん、これはもらっちゃっていいものなのかな……?」

「はい、ご自由にお使いください!」

「あ、ありがとう……?」


 いや使うとか、ちょっと意味わからないなぁ~。

 親友の証として大切に飾っておきはするけどね。


「こんな素晴らしいものをもらっちゃって、なにかお返しをしないと……」

「お気になさらないでください、それに私もなずなさんのフィギュア持ってますので」

「え?」


 珊瑚ちゃんはかばんの中からもう一体フィギュアを取り出した。

 それは私が再現されたフィギュア。


 珊瑚ちゃんフィギュアと同じく、四分の一スケールくらいだろう。

 あの時果南ちゃんが学校に持ってきたものよりも大きい。


「うふふ、キャストオフ♪」

「キャー!!」


 そして同じくパンツのパーツは取り外し可能だった。

 ということはつまり、その部分に関しては想像で作られているわけだ。

 ふう……、一安心。


 と思っていたら、珊瑚ちゃんはまた別の衝撃発言をする。


「うふふ、家には二分の一スケールもあるんですよ!」

「なんですと!?」


「それに今、等身大フィギュアを発注中なんです! もちろんキャストオフ仕様ですよ♪」

「やめてええええ~!!」


 恥ずかしいのは恥ずかしいんだからね!

 おのれ果南ちゃん。


 今度会ったときはお礼をしないとだね……。

 ぐふふふふふ……。


 でもまあ、珊瑚ちゃんにならいいかなって思えるんだよね。

 なんか不思議だ。

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