第53話 愛花と果南のゲーム対決

 休日。

 いつものようにというか、私の部屋には柑奈ちゃんとひまわりちゃん、そして愛花ちゃんが遊びに来ていた。


 なぜいつも私の部屋なんだろう。

 別にいいけどね。

 柑奈ちゃんの部屋って誰も入ったことないのでは?


 そんなことを思いながらゴロゴロしていると、今日はさらに来客があった。

 玄関まで迎えに行くと、やってきたのはなんと。


「お姉様! 遊びに来ました!」

「か、果南ちゃん……。本当に来たんだ」


 結構遠い場所なのに、なんの連絡もなしに遊びに来るなんて。

 確かにまた来週とは言ってたけど……。

 なかなかすごい行動力だよね。


「そんな度々遊びに来て大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ! ママが送ってくれるので」


「ああ、そうなんだ」

「はい! ママはよくこの街で遊んでるんですよ。親戚もいるので」

「それもそうか」


 茜ちゃんや珊瑚ちゃんと果南ちゃんは親戚なんだから、結構知り合いが多いのかもね。

 一度挨拶くらいはさせてもらいたいな。


「まあ、とりあえずあがって」

「は~い」


 急だったけど、遊びに来てくれた果南ちゃんを連れて私の部屋に戻る。

 ドアを開くと、当たり前だけどひまわりちゃんが驚いた顔をしていた。


「げっ」

「ちょっとひまわりちゃん、何その反応! 失礼でしょ」


「この前来たばっかりでしょ! なんでまた遊びに来てるの?」

「別にいいじゃない、負け犬同士仲良くしましょうよ」

「誰が負け犬だ~!!」


 あいかわらずだなぁこのふたり。

 ひまわりちゃんのこんな姿、普段は全然見ないんだけどね。

 なんだかんだライバルというか、気を遣わずにすむ仲ってことかな。


「果南ちゃん、いらっしゃい」

「おじゃまします、柑奈ちゃん」


 そして柑奈ちゃんと果南ちゃんは「いえい」と両手でハイタッチ。

 なんだ?

 めちゃくちゃ仲良くなってる?


「柑奈ちゃん、私が来ること言わなかったんだね」

「うん、その方が姉さん驚くと思って」


 このふたり、もしかして連絡を取り合ってるのか。

 いつの間にそんな仲になっていたんだ。


 こどもの成長って早いんだなぁ……。

 私もまだこどもだけど。


 そして果南ちゃんの視線は最後の一人、私のベッドの上にいる愛花ちゃんの方にむく。

 だけど愛花ちゃんはまるで興味がないのか、それとも気づいていないのか。

 視線は携帯ゲーム機の画面にくぎ付けとなっていた。


 それでもようやく視線に気づいたのか、ふと顔をあげて果南ちゃんと目が合う。


「初めまして、若狭果南です、よろしくね」

「……富山愛花です、よろしく」


 愛花ちゃんは静かに自己紹介をして、ちょこんと首を傾けながらほんのりと笑顔を浮かべている。

 そのやさしい笑顔に私と果南ちゃんのハートが撃ち抜かれた。

 今、私の心臓が『ドッキュ~ン!!』っていったよ?


 果南ちゃんもカタカタカタと体を震えさせている。

 そして私の方へ顔だけむけると、何度か口をパクパクさせてから、ようやく声が出てきた。


「か、かわいいです……」

「……うん、でしょ? すごいわかるよ」


 やっぱりさ、大人しい子ってかわいがりたくなるじゃない?

 小動物みたいな感じっていうかさ。


 私は愛花ちゃんの近くに腰を下ろし、ゲーム画面を覗いてみる。

 愛花ちゃんが今遊んでいるのは音ゲーみたいだ。

 邪魔しちゃ悪いよね、これ。


 私もゲームでもしようかな、なんて思っていると、果南ちゃんがいきなり私の膝に座ってくる。


「……どうしたの?」

「え~? お姉さまとくっついていたいだけですよ~」


「それは嬉しいんだけどね、そんなことされると私は自由に動けないんだけど」

「代わりに私を自由にしてください!」

「いやいやいや……」


 小学生のみんながいる前で自由になんてできるわけないでしょ!

 って、別に何もしないからね。

 私、そんな変態じゃないから。


 なんて思っていると、急に私の膝の上から果南ちゃんが飛んでいった。

 代わりになぜか愛花ちゃんが寝転んでいて、そのままゲームをプレイしている。

 何が起こったんだ?


 隣に飛んでいった果南ちゃんが起き上がって、私の方を不思議そうな顔で見ながら言う。


「あのお姉さま、私、蹴られませんでしたか?」

「いや、きっと気のせいだと思うよ?」

「そうですか……。ならいいんですけど」


 うん、蹴られてはいないよ。

 わずかに見えた感じでは、蹴られたんじゃなくて、足でのけられたんだね。

 ……なんでみんなそんなに果南ちゃんの扱い雑なの?


 そしてちょうどゲームをプレイし終えて起き上がった愛花ちゃんと果南ちゃんの目が合う。


「……」

「……」


 お互い無言で見つめあった後、愛花ちゃんがふわっと笑顔を浮かべる。


「ドッキュ~ン!」


 果南ちゃんは擬音を口にしながら、目をハートにして私の枕にむかって倒れていった。

 それでいいのか果南ちゃん。

 君、のけられたんだよ?


 そんな果南ちゃんはいきなり起き上がると、ちょっと興奮気味に愛花ちゃんの前へ飛び込む。


「ねえねえ愛花ちゃん、一緒にゲームしようよ!」

「……なんで?」


「私が一緒に遊びたいからだよ!」

「……別にいいけど、何するの?」


「ふたりで遊べるものならなんでもいいよ」

「じゃあパズルゲームでもする?」

「する~!」


 というわけらしいので、私はゲーム機をセットし、パズルゲームを起動する。

 後は若いおふたりでどうぞ。

 私は後ろで見てますので。


 そして愛花ちゃんと果南ちゃんの対戦が始まる。

 果南ちゃんも結構ゲームが好きなのか、私が見ていてもかなり上手だと思った。

 ルールを最初から知ってたってことはこのゲーム持ってるのかな?


 けっこうなゲーマーである愛花ちゃんと互角に戦っているのは普通にすごい。

 さっきから勝ったり負けたりを繰り返していた。


 私や柑奈ちゃん、ひまわりちゃんはもはや蚊帳の外。

 ふたりは熱いバトルをずっと続けている。


 いつまで続くんだろうと思いながら、ちょうど12勝12敗となったところで果南ちゃんのスマホに着信が入った。

 ……対戦時間は約2時間だ。


「ちょっとごめんね」


 果南ちゃんが電話に出ると、相手は果南ちゃんのお母さんのようだった。


「あ、うん、わかった。もうそんな時間だったんだね。は~い」


 電話を切ると、果南ちゃんは私の方を見て残念そうに言った。


「もうすぐむかえにくるらしいので帰ります」

「あ、そうなんだ。やっぱり遠いもんね」


「はい、今度は朝から遊びに来ますから!」

「あ、うん、あんまりお母さんに無茶ぶりしちゃダメだよ?」

「大丈夫ですよ、ママはしょっちゅうこの辺に来てるので」


 そんなわけで果南ちゃんと玄関までむかう。


「次はもっとゆっくり遊ぼうね、果南ちゃん」

「はい、それではまた」

「うん、バイバイ」


 お互いに手を振り、少し歩いたところで果南ちゃんが足を止める。


「あれ、私、お姉さまと全然遊んでない!」

「うん、そうだね」


「私、何しに来たの!?」

「こっちが聞きたいよ!?」

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