第52話 魔法少女ともえ
智恵ちゃんの部屋まで行くのに階段を上っている最中、急におトイレに行きたくなって場所を教えてもらう。
「私の部屋はここだから、終わったら勝手に入ってきてね」
「は~い」
そしておトイレを済ませた私が洗面所で手を洗い、ついでにうがいをしていると、ふと誰かに見られている気がして鏡越しに視線を移動させる。
するとその先にいたのは、かわいいかわいい美咲ちゃんだった。
なぜだかじ~っと私のことを見ている。
うがいを済ませて振り返ってみると、私と目があった美咲ちゃんはまたバンザイをして笑う。
「わ~」
「わ~」
かわいい。
確か小学3年生だったかな。
天使か妖精の類だね、これは。
「えっと、私になにか用かな~?」
「お姉ちゃんも魔法少女なの?」
「え……」
ああ~、そういえばそんな設定になってるんだっけ?
すっかり忘れてたよね。
「さあどうかな~。簡単に正体は教えられないからね~」
「じゃあ、どうやったら教えてくれるの?」
「そうだね~、もっと私と仲良くなったらかな?」
うまいぞ私! なんという話のつなぎ方だ!
「どうやったらお姉ちゃんと仲良くなれるの?」
「う~ん、じゃあ一緒に遊ぼうか」
「遊ぶ~!」
よっしゃぁあああああああああああ~!!
……おっといけない。
私はおしとやかな女子高生。
私は大和撫子。
頭の中に珊瑚ちゃんを思い浮かべながら、私は自分の行動を律する。
まるでお嬢様のような仕草で鮮やかに美咲ちゃんを抱き上げ微笑む。
「じゃあ行きましょうか」
「高~い」
美咲ちゃんを抱き上げたまま、私は階段を上って智恵ちゃんの部屋へとむかった。
両手がふさがっているので、ドアを開けることができず、私は中にいる智恵ちゃんにむかって声を掛ける。
「智恵ちゃ~ん、ちょっと開けてもらってもいいかな~?」
ちょっとの間があって、ドアが開くと、智恵ちゃんは私と美咲ちゃんの姿を見て目を丸くした。
「……何があったの?」
「まあいろいろ」
「そうだよね~、なずなちゃんだもんね~。ひとりにした私も悪いよね~」
「なんかひどいこと言われてるような……」
「そんなことないけどさ……」
あれ、智恵ちゃん、ちょっと拗ねてる?
やっぱり美咲ちゃんと仲良くしすぎるのはよくないかな?
妹が自分よりも他人と仲良くしてるのは確かにいい気持ちにはならないよね。
そんな微妙な空気だったのを、美咲ちゃんは笑顔で吹き飛ばしてくれる。
「はやく遊ぼ~」
「あ、そうだね。なずなちゃん、入って入って」
「は~い」
美咲ちゃん、本当に天使か。
危うくベッドにダイブするところだったよ。
や、別に何もしないけどさ。
女の子って抱きしめてるだけで落ち着くじゃない?
そんな感じだよ。
「さてさて、美咲ちゃんも一緒だし、何して遊ぼうかな」
智恵ちゃんはベッドに腰を下ろして遊ぶ内容を考え始める。
私は床に置いてあるクッションの上に座り、美咲ちゃんはなぜか私の腕の中。
というか、今日は美咲ちゃんが私に会いたがってるという話だったのでは?
なのに智恵ちゃんは美咲ちゃん抜きで遊ぼうとしてたような……。
そんなことを不思議に思いかけていた時、急に美咲ちゃんが両手をあげて智恵ちゃんに声を掛ける。
これかわいいよね。
「お姉ちゃん、魔法少女に変身して~」
「え……」
キタ~!
智恵ちゃんのやっちゃったやつ!
本当に信じてるんだなぁ。
巻き込まれないように注意しないと。
「いや~、何もないのにむやみに変身するのもねぇ?」
智恵ちゃんは助けを求めるように私の方をちらっと見る。
私は自分の身を守るために、とりあえずニコッと笑顔を返しておく。
その瞬間、智恵ちゃんの顔が少し赤くなったような気がした。
もしかして怒っちゃった?
そんなことないよね。
「う~……、しょうがないね。特別だからね」
おっ、これは智恵ちゃんのコスプレが見れちゃうのかな?
楽しみ楽しみ。
自分の身の安全が確保できたので私は余裕を持って鑑賞できるだろう。
と思っていたら、コスプレどころか、それ以上のものが目の前で行われようとしていた。
なんと智恵ちゃんはクローゼットを開き、いくつかあるコスプレ衣装の中から一つを選ぶと、この場で着替えを始めてしまう。
え、いいのこれ。
いくら背中側しか見えないとはいえ、ちょっと無防備すぎじゃないだろうか。
誘っているのかな?
私を誘っているのかな?
思えば、今日私を誘ったときの上目遣い、それに美咲ちゃんへの投げキッス。
そしてこのお着替えストリップ劇場。
これじゃまるでビ○○……、いやそんなはずはない。
智恵ちゃんはそんな子じゃない。
妹さんを楽しませるために一生懸命で、他のことに気が回らない不器用な子なんだろう。
でもだからって私はこのチャンスを逃したりはしない。
見ちゃうよ?
私はばっちり見ちゃうからね?
そしてついに智恵ちゃんは下着姿を披露した。
後姿だけど。
さらに智恵ちゃんはなぜか下着にも手をかけ、私の興奮は最高潮に達しようとしていた。
これ以上はまずい。
そう思った時、智恵ちゃんは「あっ」と声を漏らして下着から手を離した。
あるよね、ついつい流れで脱いじゃいそうになる時って。
そこからはちゃっちゃと慣れた様子で衣装を身にまとっていく。
いや~いいもの見せてもらいました!
完全に魔法少女姿になった智恵ちゃんはくるっとこちらに回転し、決めポーズ。
「魔法少女ともえ、降臨!」
降臨した~!
「かわいいよ、智恵ちゃん!」
「ほ、本当? なんか照れるなぁ~」
魔法少女姿でもじもじとする智恵ちゃんは本気でかわいい。
下着姿を見ちゃった後だけど、私の心は最高に踊り狂っていた。
私は我慢できずにスマホを取り出し、智恵ちゃんをフレームにおさめる。
「わわわ、撮られるの恥ずかしいよ~」
「ごめん、かわいすぎてつい……。ダメ?」
「うっ、い、いいよ……。なずなちゃんが喜んでくれるなら」
「ありがとう!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
了承を得た私は、調子に乗ってものすごい枚数の写真を撮っていった。
最高、最高だよ智恵ちゃん!
この私に、小学生の美咲ちゃんを置いて写真を撮らせるなんて!
智恵ちゃん、恐ろしい子!
その後、私は何をしに来たのかわからないけど、ちょっとだけ魔法少女のアニメを鑑賞して、時間がきたから帰ることになった。
「なずなちゃん、今日は来てくれてありがとうね」
「何言ってるの、こっちこそありがとうだよ。すごく楽しかった」
本当にいろいろとありがとう。
宝物にするからね。
「それじゃあまた明日、学校でね」
「うん、私今こんな格好だからここで見送るね」
「あはは、バイバイ智恵ちゃん、美咲ちゃん」
「バイバイ」
私は玄関のドアを開いて外へ出る。
その時、美咲ちゃんも一緒に家の中から出てきた。
「どうしたの美咲ちゃん」
「えっと、結局お姉ちゃんは魔法少女なの?」
「ああ……、そうだね、仲良くなれたし教えちゃおうかな?」
「本当に!?」
「うん、私の正体はね……」
私は美咲ちゃんの耳元まで顔を寄せて囁くように言う。
「悪い魔女さんなんだよ」
「え?」
驚く美咲ちゃんがかわいくて、私は「ふふっ」と声を出して笑った。
そして智恵ちゃんの真似のつもりで投げキッスをしながら言葉を続ける。
「私たちだけの秘密だよ? じゃあね」
私は美咲ちゃんに手を振って、そのまま家路に着いた。
そして次の日の朝。
私が自分の席で昨日の智恵ちゃんを思い出しながらぼ~っとしていると、その智恵ちゃんが教室に入ってきて私のところまでやってきた。
それはもう慌てた様子だった。
「うわ~ん! 大変だよなずなちゃ~ん!」
「えっと……、どうしたの?」
「美咲ちゃんが魔女になるって~! お姉ちゃんは敵なんだって~!!」
「あらら……」
もしかしなくても、私のせいかな……?
ごめん、智恵ちゃん。
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