第48話 柑奈の過去①
私、白河柑奈は、現在おばあちゃんと一緒に暮らしている。
今日は、訳あって別々に暮らしているお母さんが私に会いに来てくれる日だ。
私は今日、お母さんにひとつお願い事をしてみようと思う。
それはお姉ちゃんに会わせて欲しいというものだ。
私には、会ったことはないけどお姉ちゃんがいると聞かされている。
人見知りする私はそんなに友達が多いわけではない。
毎日が楽しくないわけじゃないけど、家にいるとふとした時に寂しいと思ってしまうことがある。
最近私には親しくしているお姉さんがいて、たまに遊んでもらったりしていた。
もし自分に本物のお姉ちゃんがいれば、毎日一緒にいられて寂しくないのかなとか考えてしまう。
そのお姉さんは「私を本物のお姉ちゃんだと思ってくれていいからね」と言ってくれている。
でも私に本物のお姉ちゃんがいるのなら会ってみたいと思った。
どうして会ったらだめなのか。
別に一緒に暮らせないとしても、会っちゃダメってことはないと思う。
そういう家族だって世の中にはたくさんいるはず。
というわけで、会いに来てくれたお母さんにその話をしてみる。
そしたらお母さんは私のことを抱きしめながら言った。
「一度会っちゃったら、きっと一緒に暮らしたいって思っちゃうから……」
そして悲しそうな顔をしながら言葉を続ける。
「ごめんね、寂しい思いをさせてるよね……」
これは卑怯だと思う。
私だってお母さんを悲しませたいわけじゃない。
この話は終わりにした方がいいと思った私は、スマホの画面を見せながら安心させようと思って言った。
「別に寂しくないよ。私にはお友達がたくさんいるから」
その画面を見たお母さんは目を丸くした後、もっと泣きそうな顔をして私を抱きしめた。
「柑奈ちゃ~ん! 本当にごめんね~」
私の見せた画面にはアニメのキャラクターがたくさん写っていたのだ。
事態は深刻だと思ったのか、お母さんはお姉ちゃんを見せてくれると言った。
と言っても、少し離れたところから見るだけらしい。
もし出会っちゃっても姉妹とは明かさないという。
相変わらず意味がわからないけど、とりあえずお姉ちゃんがどんな人なのか見てみたかった。
逆に姉妹だと明かさないのだから、私の好きじゃないタイプの人だった時に二度と会わないという選択ができる。
初対面の相手にはいい話なのかもしれない。
そういうわけで私はなぜかお母さんに連れられて、女の子が野球をしている公園にやってきた。
ここにお姉ちゃんがいるということだろうか。
「柑奈ちゃん、あの子があなたのお姉ちゃんよ」
「え、どれ?」
「ちょっと待ってね」
お母さんはスマホで写真を撮って、私に見せながらその人物を指さす。
「え……」
この人……って。
「なずなさん……?」
「え、なんで柑奈ちゃん、なずなちゃんのこと知ってるの!?」
お姉ちゃんだと紹介された人のことを私は知っていた。
そのことにお母さんが驚いていると、なずなさんはふとこっちに視線をむける。
ばっちり私たちと目が合い、驚いたようになずなさんが駆け寄ってきた。
「お母さん! それに柑奈ちゃんまで! なんでこんなところにいるの?」
私の前でなずなさんの胸が躍る。
中学生とは思えない大きさだ。
私の目が胸に吸い寄せられている間に、隣ではお母さんが慌てて言い訳をしていた。
「いや、えっと、この子とはさっきそこで出会ってね。なずなちゃんのこと知ってるみたいだったから一緒に見てたのよ」
「へ~、そうなんだ! 柑奈ちゃんとはこの前公園で知り合ってさ~」
そう、私がなぜすでになずなさんと知り合いだったのか。
それは少し前のことだった。
実際のところ、私には友達がほとんどいなかった。
学校で一緒に遊ぶ程度の友達ならいるが、家に帰ってからも遊ぶような友達はいない。
そして姉妹もいないものだから、私はいつも寂しかったのだ。
ある日私は、思いついたように隣の学区まで出かけてみることにした。
なにか新しい出会いがあるかもしれないと思ったからだ。
隣の学区と言っても、川を挟んだ反対側がすでに別の学区なので、そんなに離れているわけではない。
普通に歩いて橋を渡り、そしてたまたま見かけた公園へと入ってみた。
当然見知らぬ人だらけで、そもそも人見知りする私がそんな子たちに声を掛けられるはずもない。
結局私はひとりぼっちで、空いていたブランコに乗ってその子たちが遊ぶ姿を眺めていた。
もしかしたら私を見つけた人が声を掛けてくれるかもしれない。
そんなマンガの主人公のような人が現れることに、私はわずかな希望を抱いていた。
しかしそんな都合のいいことはあるはずもなく、何も起きないまま日が暮れ始めた頃、私はうつむいてため息を吐く。
その時だった。
どこかでシャッター音が聞こえた気がしてふと顔をあげる。
すると、私の視線の先にはスマホを構えたお姉さんがいた。
私と目が合うと、「やばっ」みたいな顔をした後、「あはは……」と笑いながら私の前までやってくる。
その人はこの辺りの中学校の制服を着ていた。
私の学区とこの学区の小学生は、そのままだと同じ中学校に通うことになる。
この人の着ている制服はその中学校のものだ。
「ごめんね、写真撮っちゃった」
「はぁ……、なぜですか?」
「え? それはあなたがかわいいからだよ」
「私が?」
おかしなことを言う人だった。
かわいいというのはこの人のような女の人のことを言うはずだ。
私なんてお味噌汁の中に入っている、中身がどこかにいっちゃった貝みたいなものだろう。
それに比べてこのお姉さんは、かわいいし、おっぱいは大きいし揺れてるし触りたいし。
そんな人が私に何の用があるんだろうか。
「ほら見て、あなたはこんなにかわいいんだよ?」
「……誰ですか? この雑草みたいな子は」
「あなただよ!? じゃなくて、あなたはかわいいの! 私が思わず写真撮っちゃうくらいにはね!」
「何言ってるんですか……。かわいいっていうのはこういう子のことを言うんですよ」
私はスマホに画像を表示してお姉さんに見せる。
「二次元だ! まあ確かに『魔法少女ユキちゃん』はかわいいけどね」
「え、ユキちゃん知ってるんですか!?」
「あ、うん、それはもちろん知ってるよ。アニメ好きなら大体知ってると思うよ」
「わあ……!」
まさかこんなかわいいお姉さんが私と同じようにアニメが好きだなんて!
私は少し興奮気味に、次の画像を用意する。
「じゃあじゃあ、このアニメは知ってますか!?」
画像を見せようと顔をあげた瞬間。
お姉さんは再び私のことをスマホで撮った。
「あうっ」
「ほら見て。あなたはこんなにもかわいいんだよ」
「え?」
そこに写っていたのは、自分でもひさしぶりに見る笑顔の私。
自分のことをかわいいだなんて思いはしないけど、でもとても私とは思えない、いい笑顔だとは思った。
私もまだこんな顔をすることができたんだ。
このお姉さんはこんなにも簡単に私の笑顔を引き出してくれた。
思えば、なんで私はこの人相手だとあんまり緊張しないでいれてるんだろう。
出会い方があんなだったから?
それもあるかもしれない。
でもそれだけじゃない気がした。
なんだかずっと昔から知っているような、やさしいにおいのようなものがする。
とても不思議な感覚だった。
私はこの出会いを運命だと思った。
だから勇気を振り絞って言った。
「あのっ! あの、私とお友達になってくれませんか?」
言っちゃった……。
私の言葉に目を丸くしているお姉さんは、しばらくして「う~ん……」と悩むような素振りを見せる。
悩むってことは嫌なのかな……。
急……過ぎたよね。
失敗したと思って、気持ちが落ち込み始めた時、お姉さんはようやく口を開いた。
「う~ん、友達もいいんだけどね? 私は妹が欲しいんだよね~」
「……へ? 妹?」
「そうそう、私、妹が欲しいんだ~」
「あの、私はお友達が欲しいんですけど……」
「まあまあ、私のことは本物のお姉ちゃんだと思ってくれていいからね!」
「は、はい……」
どうしよう話を聞いてくれない……。
「あ、私は白河なずな、よろしくね!」
「白河柑奈です」
「え、同じ苗字だ! これはもう姉妹確定だね!」
「そ、そうですね……」
同じ苗字。
この時の私はすごい偶然もあるものだなぁなんて思っていた。
私はこの人に出会う運命だったのかもしれないなんて、本気で思った。
今日私がここに来たこと。
いや今までの私の人生すべてが、この時、この人に出会うために調整されていたのかもしれないと。
そんなどこかのロマンス小説みたいなことを思ってしまった。
それくらいに私は、この瞬間、この人に、心を奪われてしまったのだ。
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