第46話 愛花と恋愛ゲーム②
突如ゲームに登場した、私に似ているキャラクター。
とはいえ、デフォルメされているのだから、髪型とかいろいろ被ったら似てしまうのも無理はない。
そう思うことにしよう。
「私はこの子を攻略します」
「なんで!?」
他にいっぱいかわいい子いるじゃない!
あっちにもこっちにも、ほらそこにいる、ヒロインの妹の小学生まで攻略対象に入ってるよ?
何が楽しくて、私そっくりなんて言われてる子が攻略されるのを見なくちゃいけないの?
でも今プレイしているのは愛花ちゃんだ。
私が口をはさむことではない。
それにほら、よく見たら別にそこまで似てないんじゃないかな?
と思い始めてきたのに、シナリオが進んでとあるイベントに突入。
そこでその先輩さんは、近くの公園で小学生を激写するという悪事を働いていた。
私のしていることは、他人目線だとこんなにも残念に見えるのか……。
よく私は今まで無事に日常を送ってこれたなぁ……。
しかし、このゲームの主人公は、私のまわりにいるやさしい人たちとは一味違った。
『先輩、こんなことしてただで済むと思ってるんですか? ちゃんと動画を撮りましたからね。ネットにあげちゃおっかなぁ~』
ひどいなこの主人公。
さっきまでとは思いっきり性格変わってるじゃない。
『お、お願い、見逃して! 何でもするから』
『何でも?』
ちょっとちょっと、なんかエッチなゲームみたいな展開になってきたよ?
まさかまさかまさか……。
『それじゃあ、今度のお休みに私と一緒にお出かけしましょう』
『へ?』
おお、さすがにそんな展開にはならなかったか。
それはそうか、一般むけだもんね。
『そんなことでいいの?』
『はいっ、約束ですからね!』
『あ、うん、わかったよ』
なんだなんだこのヒロイン、小学生を撮影した上に、主人公からデートに誘われてるぞ。
最高の人生を楽しんでるね。
そしてゲームはデート当日へ。
待ち合わせからヒロインの私服を見せつけるようにイベントスチルがはさまれる。
その後のデートシーンはこれでもかというくらいにCGを連発。
ギャルゲーとは違って、百合ゲーだからか、主人公とのツーショットばかりだ。
女の子ふたりが楽しそうにしている姿は、見ているだけで心がポカポカしてくる。
ヒロインも自分に似ているということが気にならなくなるくらいにかわいく感じられてきた。
なかなかいいゲームじゃないですか?
デートのシーンは終わりをむかえ、いよいよお別れのシーン。
『先輩、この前は意地悪してごめんなさい。私、どうしても先輩と一緒にお出かけしたくて』
『あはは、別にいいよ。私も楽しかったし。また誘ってくれると嬉しいかな』
『はいっ、ぜひ』
『それじゃあね』
『あっ』
ここでまたもイベントスチルが入り、主人公が先輩の手をつかんでいるシーンが映し出される。
『えっと……、どうしたの?』
『その、あの、好きです!』
『え……?』
うおっ、展開早っ!
『嬉しい……、実は私も一目惚れだったんだ』
そりゃ、あなたはかわいければ全員一目惚れでしょうが。
『本当ですか? 妹さんよりも私のこと好きですか?』
『え……、えっと、そう……だと思う』
おいおいおいおい、ちゃんと言い切りなよ。
ダメじゃんこのヒロイン。
まるで私みたいだ!
……あれ?
『もうっ、なんですかその返事は! でもそんなところも好きです!』
うわ~、この主人公大丈夫か?
なんだか人生破滅していきそうな子だなぁ。
そして画面にはふたりのキスシーンが映し出され、そのままエンディングへ。
え、もう終わり?
まだ一時間くらいしかプレイしてないけど?
ていうか、ほとんど野球関係なかったね。
「ふぅ、大満足」
「お疲れ様」
「どうでしたか?」
「短かったけど、けっこう濃いゲームだったね」
「そう、この短さがいい。忙しい現代人にピッタリ」
愛花ちゃん……、小学生がそんなこと言わないで……。
その後ゲームを終了した愛花ちゃんは、私の膝の上にコテンと寝転がった。
私はそんな愛花ちゃんのさらさらの髪の毛を指先ですくいあげる。
さっきのゲームのデートシーンでもこういうのあったなぁ。
そう思うと少し照れてしまう。
さらに愛花ちゃんは仰向けになり、それから私に抱きついてきて、私は後ろに押し倒されてしまった。
私の隣で私に抱きつきながらすり寄ってくる愛花ちゃん。
何が起きてるのか理解できないが、とりあえずかわいいので問題なし。
しばらくゲームのような甘々な時間を過ごしていると、突然愛花ちゃんが起き上がってベッドから降りた。
「そろそろ帰らないと」
「え? 何か用事でもあるの?」
「お姉ちゃんが一緒にお出かけするってうるさくて」
「へえ、仲良くていいことじゃない」
「私はお姉さんと一緒の方がいいです」
「うへへ、それはうれしいけど、また今度ね。約束破ると彩香ちゃん泣いちゃうよ?」
「仕方ないです」
私は愛花ちゃんを見送るため玄関までついていく。
突然の訪問だったけど、楽しかったなぁ。
でも柑奈ちゃんとは結局会えずか。
よかったのかなぁ。
「それじゃあお姉さん、お邪魔しました」
「うん、また来てね」
ペコリとお辞儀をした後、家を離れていく愛花ちゃん。
でもいきなりくるりと私の方に回転する。
「あ、あのっ」
「うん?」
なんだかもじもじとしていて、その姿はさっきまで遊んでいたゲームのお別れシーンを思い出してしまう。
ま、まさか。
これは!?
「あの、今度一緒にお出かけしませんか?」
「え?」
「ダメですか?」
飛び出した言葉は告白ではなかったけど、それでもこれはうれしいものだった。
もちろん私の答えは決まっている。
「いいよ。私も愛花ちゃんとはもっと仲良くなりたいしね」
私が答えると、愛花ちゃんはぱぁっと笑顔を見せてくれる。
普段感情が顔に出にくい分、最高にかわいい。
愛花ちゃんは照れてしまったのか、ちょっと走ってからこっちに振りむき手を振る。
「さようなら~」
「うん、バイバイ」
私も手を振り返すと、愛花ちゃんはテテテと走って帰っていった。
そして愛花ちゃんを見送った私は、とりあえず自室へと戻る。
ベッドに寝っ転がって、愛花ちゃんと過ごした時間を思い返す。
私、いつの間に愛花ちゃんと仲良くなってたんだろう。
愛花ちゃんのいきなりの訪問から始まった甘い時間を繰り返し思い出しながら、私はしばらくベッドの上で転がり続けていた。
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