第45話 愛花と恋愛ゲーム①
今日は休日。
柑奈ちゃんとお母さんは一緒にどこかへ出かけてしまったので、今私はひとりで家にいる。
あのふたりはたまに私を置いて出かけていくけど、いったいどこに行ってるんだろう。
なぜ私を連れて行ってくれないんだ。
まあいいけど。
私自身も今日は誰とも遊ぶ約束してないしなぁ。
後でショッピングモールにでも出かけるとするか。
というわけで今は絶賛暇なのである。
そして大体こういうタイミングで誰かがやってくるんだよね。
『ピンポーン』
ほら来た!
さてさて今日は誰かな~。
ドアホンで相手を確認すると、そこには愛花ちゃんの姿が映っていた。
ひとりで来るなんて珍しいなぁ。
とりあえず待たせちゃ悪いよね。
私は急いで玄関へとむかった。
「は~い」
「あ、こんにちは……」
「こんにちは。ごめんね、今日は柑奈ちゃん出かけてて」
「あ、大丈夫です……」
「……」
「……」
「えっと、あがる?」
「はい」
もしかしてちゃんと約束して来てるのかな?
とりあえず私の部屋に通しておくか。
「どうぞ~」
「お邪魔します」
「自由にしてていいからね」
「はい」
私は一度部屋を出て、冷蔵庫からジュースを持って戻ってくる。
冷蔵庫には私の好みで紙パックの100%果物ジュースが並んでいるのだ。
その中からオレンジとグレープフルーツをチョイスした。
「愛花ちゃん、どっち飲む?」
「ありがとうございます……。えっと、グレープフルーツで」
「は~い」
私はジュースを手渡すと、ベッドに腰かけて手に残っているオレンジジュースにストローを差した。
すると、愛花ちゃんはなぜか私にぴったり張り付くような距離で隣に座ってジュースを飲み始める。
ち、近い。
なんだこれは……。
「はふぅ、落ち着きます」
そう言いながら今度は頭をこてんと私の方に預けてくる。
なんだなんだこれは……。
私は全然落ち着かないんだけど。
今ふたりきりなんだよ?
こんなことされちゃったら、どうにかしちゃうかもしれないじゃない!
例えばだよ?
『こっちのジュースも飲んでみる?』
『はい、飲んでみたいです』
『じゃあ飲ませてあげるね』
『あ、そんな……、んっ』
なんて口移しでジュースを飲ませてあげるイベントが発生しちゃったりなんかしてさ!
その後、そのまま押し倒して、お花が散る演出があってさ!
いったい何があったのかな~なんてね!
……これはいかん。
こんな調子では本当に何かやらかすかもしれない。
その前にこの状況をなんとかしないと!
異議な~し!!
「ねえ愛花ちゃん、ゲームでもする?」
「お姉さんはゲーム好きなんですか?」
「愛花ちゃんほどじゃないと思うけどね。一応これだけのハードを揃えてるくらいには好きだよ」
まあ、これが世間ではどれくらいなのかはわからないけどね。
「やりましょう!」
「よっし、何やる?」
「お姉さんは何が好きですか?」
「それはもちろんギャ……、じゃなくて野球ゲームかな!」
危ない危ない、ギャルゲーとか言いかけちゃったよ。
まあ野球ゲームだって嘘じゃないしね。
彼女攻略ばっかりしてるけど……。
「やっぱりお姉さんは野球好きなんですね。そんなお姉さんにおすすめのゲームがあるんです」
「え?」
「このゲームを遊びましょう」
「……今どこから出したの?」
いつの間にか愛花ちゃんの手に握られていたゲーム。
それは表紙に野球のユニフォームを着た少女達が描かれたものだった。
女の子たちの野球ゲームってことかな?
そんな素晴らしいゲームを私が知らないなんて不覚!
「面白そうだね、やろうやろう!」
「はい」
愛花ちゃんはディスクを挿入し、ゲームを開始する。
この時私は、このゲームを野球ゲームだと思い込んでいた。
しかし、起動した画面には『はじめから』『つづきから』『設定』という、なんか見慣れた文字が。
野球ゲームでこんなシンプルなタイトル画面って今時珍しくないかな?
愛花ちゃんは『はじめから』を押して、ゲームを開始。
しばらくすると、これまた見慣れた画面構成。
思いっきりADVゲームだった。
なにこれギャルゲーなの?
愛花ちゃんもこういうゲームやるんだ……。
ていうか、何この状況。
私は妹の友達と一緒にギャルゲーをするの?
なぜに?
呆然としている私を置いて、愛花ちゃんはゲームを進める。
かわいらしい女の子がコロコロと表情を変えているのが見えるが、私の目はまったく文字を追いかけていなかった。
そのうちにイベントスチルが映し出され、ふたりの女の子が楽しそうにじゃれ合っているのが見える。
あれ?
「これはもしかして百合ゲー?」
「はい、高校の女子野球部が舞台の恋愛ゲームです」
「こんなよさげなゲームを私が知らないなんて……」
「同人誌からのゲーム化なので、一般の人にはあまり知られてないんですよ」
同人って、愛花ちゃんはそんなところまで手を出してるのか。
「それにしても愛花ちゃんはよく見つけたね。私も百合関係は結構アンテナ貼ってるんだけどなぁ」
「元々、この同人サークル『ホワイトリバー・スモールリリィ』さんのファンだったので。大好きな作品がゲーム化すると聞いてずっと待ってたんです!」
おおっ、愛花ちゃんが珍しくテンション高い。
そんなに顔をぐいっと近づけられると、私の唇もぶちゅっと近づいちゃうぞ?
「このゲーム、できればお姉さんとやりたいなって思ってたんです」
「え、どうして?」
「もう少しすればわかります」
「?」
どういうことかわからないまま、私はゲームが進行していくのを眺め続ける。
そのうちにヒロインたちが続々と登場し、そしてとある先輩ヒロインが画面に映った。
それはどうやら主人公の親友のお姉さんらしい。
「見てくださいこのヒロイン、お姉さんにそっくりです」
「うん……、まるで私を二次元にしたみたいだね……」
そう言ってしまえるくらいに、そのキャラクターは私にそっくりだった。
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