第44話 果南とのお別れ、そして友情
お昼休みになると、なぜか果南ちゃんは私のクラスメイトたちに囲まれてお昼ご飯を食べていた。
私たちと一緒に食べる予定だったはずなんだけど、まあ本人は楽しそうだしいいか。
珊瑚ちゃんもついていてくれてるし。
「茜ちゃん、今日は教室で食べようか」
「そうだね。一応果南ちゃんのことも気になるし」
「でもいいのかな、小学生が高校に入ってきちゃってるのって」
「まあいいんじゃない? 浜ノ宮さんもついてるし、なんとかなるでしょ」
「でも今日って平日だよ? 学校さぼってるの丸わかりじゃない?」
「それも浜ノ宮さんの力で出席扱いになってるんじゃないかな」
「いやいや、それはさすがにおかしいでしょ」
珊瑚ちゃんの力が、まさかよその学校にまで及ぶとは思えないし。
でも珊瑚ちゃんだしなぁ……。
私はちらっと珊瑚ちゃんの方を見る。
そこには楽しそうな果南ちゃんと珊瑚ちゃんの姿があった。
「なんで果南ちゃんはあんなに気に入られてるんだろうね。やっぱりみんな、かわいい小学生が好きなのかな?」
「多分フィギュアでしょ」
「みんなフィギュアに興味あるの? 確かにすごいクオリティだとは思うけど」
「いや、なずなのフィギュアだから」
「そんなことはないでしょ。なんで私なんかのフィギュアを欲しがるの」
「それはまあ……、いろいろな理由で」
「なにそれ……」
家に私のフィギュアなんか並んでたら気持ち悪くてしょうがないと思うけどなぁ。
まああのクオリティで柑奈ちゃんのフィギュアがあったら間違いなく飾るけどね!
「みなさん、私の力で何としてでもこのフィギュアを量産してみせます!」
「浜ノ宮さん、量産したら私にも売ってね! 観賞用、保存用、布教用の三つね!」
ちょいちょい、待って待って、なんか私のフィギュアが量産されようとしてないかな!?
ていうか布教用って何?
いったい誰に何を広めるつもりなの?
「ふふふ、もしファンクラブに入っていただけたら、特典として量産したこのフィギュアをプレゼントいたします。どうですか?」
「入りま~す!」
「私も!」
「私も~!」
わあ、すごい、珊瑚ちゃんのところにクラスのみんなが集まっていく。
いったい誰のファンクラブ?
珊瑚ちゃんの?
なんて思いながら、ボーっとその様子を見ていると、果南ちゃんが抜け出して私のところに近づいてきた。
「さすがお姉さま! 大人気ですね!」
「え? 今の流れで何でそんな話に?」
放課後。
今日は果南ちゃんのこともあるので、同好会はなしにして帰ることになった。
私と茜ちゃん、果南ちゃんの三人は、下校途中にいつもの河川敷公園に立ち寄る。
そこには柑奈ちゃんたちが先に遊んでいた。
「あ、姉さんだ」
「柑奈ちゃん、ただいま」
私は柑奈ちゃんに挨拶をすると、ひまわりちゃんのところへむかった。
「……」
「ひまわりちゃん、大丈夫?」
「……」
ひまわりちゃんは何も言わず私にそっと抱きついてくる。
こうやって会うのは、果南ちゃんとの勝負以来だ。
果南ちゃんと会わせるのはまずかったかな……。
でも今日で果南ちゃんは帰っちゃうし、このままにしておく方が後まで引きずりそうな気がするんだよね。
しばらく私に抱きついていたひまわりちゃんは、すっと私から離れて「よしっ」と気合を入れた。
そして果南ちゃんの前に立つ。
「果南ちゃん!」
「な、なんですか?」
「次会うときは絶対に私が勝つから! なずなさんと一緒に練習して、もっと強くなるから!」
「ふんっ、受けて立とうじゃない。それに私だって柑奈ちゃんに負けちゃったしね。もっとうまくなって、今度は劣化版なんて言わせないんだから!」
果南ちゃんはビシッと柑奈ちゃんを指さす。
しかしその瞬間の柑奈ちゃんはちょうちょを目で追いかけていて、まったく果南ちゃんの話を聞いてはいなかった。
「……え?」
「ぐぬぬ……、絶対に負けないんだから!」
「……何の話?」
悔しがっている果南ちゃんを見て、柑奈ちゃんは首を傾げる。
まあそういうとこあるよねこの子。
でも何だろうね。
遠く離れた土地にライバルがいるっていうのは素晴らしいことだと思う。
これも野球をやってたからこそできた絆なんだから。
私にもいたなぁ。
小学生の頃にできた、名前も知らないその日限りの友達とか。
また会える日がきたりするのかな。
会ったとしても気付かないかもね。
夕日に染まり始める公園で、ちょっぴり昔を思い出してしんみりしていると、土手の方に大きな車が停まるのが見えた。
車は詳しくないけど、結構お高そうな車だ。
窓が開き、そこから顔を出した女性がこちらにむかって声を掛けてきた。
「果南~! むかえに来たわよ~!」
「あ、ママだ!」
え、果南ちゃんのママさん?
果南ちゃんって結構なお嬢様なの?
そういえば珊瑚ちゃんの親戚だもんね。
ということは茜ちゃんも実はお嬢様なのかな?
そんな感じはあんまりしないけど。
「それじゃあ私帰りますね!」
「うん、いろいろあったけど楽しかったよ。また一緒に遊ぼうね」
「はいっ、今度は私の家にも来てくださいね!」
「あはは、遠いからなかなかむずかしいけど、いつか必ずね」
「予定さえ決めてもらえればむかえに来ますよ?」
「そっか、ありがとう。また連絡してね」
「はいっ。茜ちゃんも柑奈ちゃんも元気でね」
果南ちゃんが手を振ると、ふたりも手を振り返す。
それから果南ちゃんはひまわりちゃんの前まで移動すると、拳を突き出す。
「今度会う時を楽しみにしてるわ」
「……うん!」
ひまわりちゃんも笑顔を見せて拳を突き合わせる。
あんまり女の子がやるのを見たことないけど、なんだかすごくかっこよかった。
そして次は私の前にやって来て、改めて挨拶をする。
「それじゃあまた来週!」
そう言って果南ちゃんは、背伸びをして私の頬にキスをして走り去っていく。
「ちょっ、今の! というかまた来週って何!?」
いろいろ最後までやらかしてくれた果南ちゃんは、車に乗り込んで去っていった。
私のまわりでは、最後のキスのせいで茜ちゃんや柑奈ちゃんが騒いでいる。
でもひまわりちゃんはなんだかすっきりとした表情で果南ちゃんを乗せた車を見送っていた。
よかった、自分で吹っ切ることができたんだね。
果南ちゃんのおかげでひまわりちゃんはまたひとつ成長できたのかもしれない。
私はキスをされた頬に手を添えて、ふぅっと息を吐く。
やれやれ、騒がしい時間もこれでひと段落かな。
そんなことを思いながら、私の顔には自然と笑みが浮かんでいた。
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