第43話 果南、なずなの学校へ行く
次の日、学校へ行こうとすると、果南ちゃんが一緒に家の外まで出てきた。
見送りしてくれるのかな?
「お姉様! 私も一緒に学校へ行きます」
「え? どこの学校に行くの?」
「お姉さまの学校です!」
「いやいや、勝手には入れないよ?」
「大丈夫です! ちゃんと話は通しておきましたから」
「……どういうこと?」
いったい誰に話を通したらそんなことが……。
……珊瑚ちゃんの確率80%。
やっぱりあそこなんだろうなぁ。
そんな話をしていると、一緒に出てきた柑奈ちゃんが不満そうな顔をしてこっちを見ていた。
「柑奈ちゃん?」
「む~、私も姉さんの学校に行こうかな……」
「ダメだよ、柑奈ちゃんはちゃんと学校に行かないと」
「でも、姉さんも果南ちゃんも学校休んで好き勝手してる……」
「そうだね。でも、私は柑奈ちゃんにはこんな風になってほしくないんだよ」
「姉さん、言ってることめちゃくちゃ。でもわかった」
「うんうん、柑奈ちゃんはいい子だね。ひまわりちゃんにもよろしくね」
「ひまわりちゃん? うん、わかった」
ひまわりちゃん、復活してくれてたらいいんだけど……。
「じゃあ、行こっか」
「はいっ」
私は果南ちゃんを連れて学校へとむかった。
校門前に着くと、そこには壁に背を預けながら本を読んでいる珊瑚ちゃんがいた。
あいかわらずキラキラしてて目を引くなぁ。
「珊瑚ちゃん、おはよう」
「おはようございます、なずなさん。あと果南ちゃんも」
「おはよ~珊瑚お姉ちゃん!」
ん~、やっぱり知り合いだったかこのふたり。
茜ちゃんの情報を送っていたり、私のことを教えたりしてたのは珊瑚ちゃんだったんだな。
珊瑚ちゃんなら この学校のこともなんとかできちゃうもんね。
「珊瑚ちゃん、いいの? この子を学校に入れちゃっても」
「はい、と言っても授業中に教室まで入れるわけにはいきませんので、とりあえず部室にでも入れておきましょう」
「あ、そうだね……」
なんだろう、この珊瑚ちゃんから放たれる違和感は……。
「さあ、ついてきてください、果南ちゃん」
「は~い」
一応私も見届けておくか。
私たちは珊瑚ちゃんについて部室の方へとむかっていく。
そして部室までもう少しというところで立ち止まり、果南ちゃんに微笑みかける。
「さあ、ここですよ」
「掃除用具入れじゃん!?」
「あら、私としたことがうっかり」
「どうやったら間違えるの!」
あら……、もしかしなくても珊瑚ちゃんは果南ちゃんのこと嫌いだったり?
でもそうなら茜ちゃんのことでずっと協力したりしないよね……?
なにかあったんだろうか。
「もう、わがままなんですから」
今度こそ珊瑚ちゃんは部室の鍵を開けて、中に果南ちゃんを入れてあげる。
「それじゃあ放課後までここでじっとしているのですよ」
「放課後まで!? それじゃあ何の意味もないじゃん!」
確かに。
せめて休み時間の度に様子を見に来てあげようか。
でもこんなことするくらいなら、おとなしく家で待ってた方がよかったんじゃ……。
「それでは私は行きますので」
「あ、うん。私もすぐに行くから」
珊瑚ちゃんはやさしい笑顔で手を振りながら部室を出て行った。
「うう……、珊瑚お姉ちゃんがやさしくない……」
「えっと、次の休み時間にはまた来るからね」
「お姉様~!」
果南ちゃんは私に抱きついて、その顔を胸にうずめてくる。
ちょっと迷惑だったけど、今は甘えさせてあげよう。
かわいそうだし。
授業が終わり、休み時間がくると、私は果南ちゃんの様子を見に行こうと席を離れる。
そこに茜ちゃんが声をかけてきた。
「なずな、どこか行くの?」
「ああ、今果南ちゃんが部室に来てるんだよ。ちょっと様子を見に行こうかなって」
「え、なんで果南ちゃんが……」
「珊瑚ちゃんに頼んだらしくて」
「あの子、浜ノ宮さんとどういう関係が……」
あれ、茜ちゃんは珊瑚ちゃんが親戚だって知らないのか。
まあ私も自分の親戚のことなんか詳しくないけど。
「そういうことなら私も一緒に行くよ」
「そう? じゃあ行こっか」
ということでふたりで部室にむかおうとした時だった。
教室の入り口の方から私にむかって声がかかる。
声をかけてきたのは、隣の席の駿河智恵ちゃんだ。
「お~い、なずなちゃ~ん、お客さんだよ~」
「お客さん?」
智恵ちゃんの方を見ると、教室の扉からこちらを覗き込む果南ちゃんの姿があった。
目をウルウルさせて泣きそうな顔をしている。
寂しくて出てきちゃったのだろうか。
「あ、本当に果南ちゃんだ」
「うん、果南ちゃんだよ」
茜ちゃんは果南ちゃんの姿を見て、呆れたような顔をしていた。
クラスメイトの視線を集めながら、果南ちゃんは教室内へ入ってきて私に抱きついてきた。
当然私にも注目が集まる。
「誰あの子……」
「白河さんの妹さんとか?」
「いえ、妹さんはぺったんこだったはずよ」
クラスメイトのこそこそ話が聞こえてくる。
なんで柑奈ちゃんのことを知ってる人がいるのかはわからないけど、今は注目を集めてるのが恥ずかしい。
「果南ちゃん、出てきちゃったんだね」
「だって~、部屋から変な音がするんです~!」
「変な音?」
不思議に思いながら、ふと珊瑚ちゃんの方を見ると、今まで見たことのない、まるでいたずらっ子のような顔をしていた。
さては珊瑚ちゃん……、何かやったね?
「珊瑚ちゃん」
「はい、何でしょう?」
「何かしたでしょ?」
「いえ、何も。ただ果南ちゃんが眠ってしまわないようにアラームをセットしておいただけですわ」
「アラーム?」
「これですわ」
珊瑚ちゃんはスマホから、設定したのと同じだと思われる音声を流し始める。
それは何かがカサカサいってる嫌な音と、ガタガタいってる不気味な音だった。
ひとりでいる時にこんなの聞こえてきたら、私でも部屋から逃げるかもしれない。
「これだぁ!」
果南ちゃんは珊瑚ちゃんのスマホを指さして、腕をぶんぶんしている。
「珊瑚ちゃん、あんまりいじめないであげて」
「すみません、果南ちゃんがなずなさんを独り占めしようとするものですから、つい……」
え……、私が原因だったの……?
「もおおおおおお! 私は独り占めなんかしようとしてないから! せっかく珊瑚お姉ちゃんのために、これ持ってきたのに!」
そう言って果南ちゃんはかばんから何かを取り出して、私たちの目の前に置いた。
それはフィギュア。
私の姿を再現した、ハイクオリティなフィギュアだった。
「こ、これは……」
あまりのクオリティに珊瑚ちゃんや茜ちゃんが顔を近づけ、クラスメイトたちも集まってくる。
「なんで私がフィギュアになってるの……」
一方の私は目の前に自分のフィギュアを置かれて、めちゃくちゃ複雑な気持ちだった。
どういう状況なのこれ?
「いったいどこでこのようなものを……」
珊瑚ちゃんは自分でも手に入らないクオリティのフィギュアに感動しているようだった。
「すごいでしょ、私が作ったんだよ」
「果南ちゃんが? すごいですわ!」
「ちなみにパンツは着脱可能です」
果南ちゃんはフィギュアをひっくり返してパンツのパーツを外した。
「ぎゃあああ」
「「きゃあああああ!!」」
その瞬間、私の悲鳴と、それ以上のクラスメイトの歓声が響き渡った。
なんてものを作ってるんだこの子は。
そんなところまで作りこまないでよ!
そして珊瑚ちゃんはどこに電話してるの!?
「お母様! いますぐ果南ちゃんを買い取って私の妹に!」
「ちょっと何怖いこと言ってるの!?」
この後、果南ちゃんは一瞬でクラスの人気者になりましたとさ。
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