第38話 ひまわりちゃんとバッティングセンター

 それは平和な平和なごく普通の日曜日。

 今日はひまわりちゃんと近くにあるバッティングセンターに遊びに来ていた。

 私はピッチャーだけど、やっぱり打つ方も楽しい。


 動きやすいようにとミニスカートで来たけど、それがひまわりちゃんに好評だった。

 私がスイングするたびに小さなシャッター音が聞こえるんだけど、これは気のせいなのだろうか。


 後ろを振り返っても、ひまわりちゃんのスマホは別の方向をむいてるし、私を撮っているわけではないのかな。

 でもタイミングはばっちり私のスイングと合ってるんだけどね。

 ひまわりちゃんの盗撮スキルもなかなかということか。


 ホームランを連発して終了した私は、順番をひまわりちゃんに譲る。

 よし、私もひまわりちゃんを撮影しちゃうぞ♪

 ばっちりミニスカートだからね。


 ひまわりちゃんは真剣な雰囲気でバットを構えている。

 ボールが飛んできて、そしてフルスイング。


「ナイスショット!」


 私はばっちりひまわりちゃんのパンチラを写真におさめていた。

 まあ見せパンとしてフリフリのペチコートパンツをはいていたけどね。

 それがどうした、むしろ興奮するよ、ゲヘヘ。


「もう! ナイスショットってなんですか! しかも空振りなんですけど!?」

「え?」


 そういえば打った音しなかったな。

 お尻ばっかり見てて気にしてなかった。

 しかもナイスショットって……、何言ってるんだ私。


「もう! ちゃんと見ててくださいよ」

「見てる見てる! もうばっちり見てるから心配しないで!」


 ああ、見てるだけじゃなく触りたいなぁ。

 なんて、そんなことできるわけないし、今は頑張って撮影するぞ!


 そしてひまわりちゃんの次のスイング。

 今度はばっちりボールをとらえてライナー性のいい打球だった。


「いいね!」


 そう言いながら私はひまわりちゃんのお尻を追いかけ、素晴らしい一枚を撮影していた。

 そんな時だった。


 ぽんと私の肩が後ろから叩かれる。

 またこのパターンか。

 どうせ茜ちゃんか珊瑚ちゃんだよね?


 なんでかよく遭遇するもんね。

 もしかして私のこと付け回してるんじゃないの?

 そう思いながら、笑顔で振り返る。


 そこにいたのはばっちり見回り中のおまわりさんだった。

 あれれ~? おかしいぞ~?


「すいません、あなた今、あの子のこと撮ってましたよね?」

「いや、違うんです! これはその……」


「まあまあこんなところではなんですから、ふたりきりになれる場所にでも行きましょうか」

「や、ちょっと……」


 ヤバい、ヤバすぎて頭が回らない……。

 変な汗が吹き出し、おろおろしているところに、ひまわりちゃんの声が響く。


「な、なずなさん!? 今度は何しでかしたんですか!?」

「助けてひまわりちゃ~ん」


 私は泣きそうになりながら、おまわりさんから逃げてひまわりちゃんにすがりつく。


「あら、お知り合いだったの?」

「えっと、はい、友達のお姉ちゃんです」


「それはごめんなさい。写真を撮ってたから不審者かと」

「え……」


 ひまわりちゃんが苦笑いしながら私の方を見る。

 そんな目で見ないで!

 先にやったのはひまわりちゃんだよね!?


「それはですね、私が頼んだんですよ。フォームをチェックしたくて」

「そうだったのね。ごめんなさい、許してね」


 おまわりさんは両手を合わせて、てへっと笑った。

 おお、よく見たらこのお姉さんかわいいぞ?


 助かったことで心に余裕が生まれた私は、ようやくおまわりさんのことをまともに見ることができた。

 そしてなぜか私はスマホを構えて写真を撮ってしまう。


「……」

「……」


「なぜ私の写真を撮ったのかしら」

「えっと、その……、かわいかったから……」


 ダメだ~!

 せっかく助かったのに何してんの私!


 やらかした~と思いながら、恐る恐るおまわりさんの顔をうかがう。

 するとなぜか、おまわりさんは顔を赤くして固まっていた。


「えっと、お姉さん、どうしたんですか?」

「あ、ああ、そのかわいいって、私が?」

「はい、そうですけど?」


 そこに関しては嘘は言ってない。

 私が無意識にカメラを構えたくらいだからね。


「うわ~ん、今までの人生で初めてそんなこと言われたよ~」

「嘘でしょ……」


「嘘じゃないもん、今まで一度も恋人いたことないし」

「ええ!?」


 こんなかわいらしい人でもそんなことになっちゃうの?

 だとしたら私なんかはどうなるっていうの?

 この世はそんなにもハードモードだったっけ?


「それが本当なら、きっと今まで出会ってきた人たちの見る目がなかったんですね」

「え?」


「だってそうじゃないですか。こんなにもかわいらしくて一生懸命な方、なかなかいませんよ?」

「そ、そうかな、えへへ……」


 おまわりさんは照れながら、表情がふにゃふにゃになった。

 どうやら私は助かったらしい。


「よ~し、自信でてきた~! お姉さん頑張っちゃうから」

「はい、頑張ってください!」


「それじゃあ私行くから!」

「はい、お元気で」


 おまわりさんは元気いっぱいに手を振って、バッティングセンターから出て行った。


「何だったんだ……」


 どっと疲れた私が、とりあえず助かったことに安堵していると、いきなりひまわりちゃんが抱きついてくる。


「どうしたのひまわりちゃん」

「なずなさん、さっきの人のこと、かわいいって……」


「まあ、かわいい人だったからね」

「……私は?」


「え?」

「私はどうなんですか?」


「もちろんすっごくかわいいよ? そんなの決まってるでしょ?」

「えへへ~」


 私の言葉を聞いてひまわりちゃんの表情がとろける。

 ああ、かわいい……。

 天使、マイエンジェル、ひまエル。


 この後しばらくイチャイチャした。

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