第37話 ひまわりちゃんとキャッチボール
土曜日のお昼過ぎ。
今日は朝からお母さんと柑奈ちゃんが、なぜか私だけを置いてお買い物に出かけていった。
仕方なく私はひとり寂しくお昼ご飯を食べることにする。
「……うむむ、うどんにするかな」
冷蔵庫の中を見ながら、お昼ご飯はうどんに決めた。
どうせ時間もあることだし、ちょっと豪華にきめてみますか。
初めてのチャレンジだけど、すき焼き風うどんを作ってみよう。
そして私は昨日の晩御飯で残ってしまったすき焼きを取り出す。
え、別にズルはしてないよ?
誰も一から作るなんて言ってないし~。
このすき焼きだって私が作ったものだし~。
……私は一人で何をやっているんだ。
まあ、ぱぱっと済ませて、小学生ウォッチングにでも出かけることにしよう。
私は本当にぱぱっと調理をして、完成したすき焼き風うどんをテーブルに置く。
「うん、おいしそうにできてるね」
さっそくいただこうとした時、タイミング悪くインターホンが鳴った。
ドアホンのモニターを見ると、映っていたのはひまわりちゃんの姿。
私は玄関までむかい、扉を開く。
「あ、なずなさんこんにちは~!」
「こんにちは~。ごめんね、柑奈ちゃんは今出かけてるんだ」
「そうなんですか。じゃあ代わりになずなさんが遊んでください!」
「あはは、いいよ。でもまだお昼ご飯食べてないからちょっとだけ待っててくれる?」
「は~い」
私はひまわりちゃんをリビングに通してテーブルにむかう。
「わあ、すき焼きうどんだ!」
「ちょっとひとりだから贅沢してみたよ。残り物だけどね」
「おいしそ~」
「一口食べてみる?」
「いいんですか!? あ、でも記念すべき一口目はなずなさんがどうぞ」
「記念すべきって……、そんな大袈裟な」
そう言いながら私は先に一口食べてからうどんをひまわりちゃんの前に持っていく。
「はいどうぞ」
「あ~んしてください」
「ええ? 甘えん坊になったねひまわりちゃん」
「ダメですか~?」
「いいよ別に」
私はお肉とうどんをお箸ではさんでひまわりちゃんの口の前に運ぶ。
「はい、あ~ん」
「あ~む」
ひまわりちゃんの口がお肉を包み、うどんをちゅるちゅるとすする。
そして私も続きを食べる。
うむ、おいしい。
適当に作ったとは思えないほどいい出来だ。
これからはすき焼きをしたらわざと残しておこうかな。
五分ほどで食べ終えた私はさっさと食器を洗ってひまわりちゃんのもとに戻ってくる。
「お待たせ~、さあなにして遊ぶ?」
「今日はキャッチボールでもしませんか? 私のボール受けてみてください!」
「お、いいよ。じゃあ河原にでも行こっか」
「はい! あ、なずなさんは動きやすいようにミニスカートにするべきだと思います!」
「それはやめておくよ、このままでも動きやすいし」
「ちぇ~」
というわけで私たちはいつもの河川敷公園へとむかった。
ひまわりちゃんには柑奈ちゃんのグローブを貸してあげて、さっそくキャッチボールを始める。
かる~い感じの投げ合いから、少しずつ距離をとって強いボールを投げるようになっていく。
さすがひまわりちゃん、力強い球が飛んでくる。
そして十分な距離があいたくらいで、私はひまわりちゃんに声をかけた。
「ひまわりちゃ~ん、思いっきり投げてみて~!」
「は~い、いきますよ~」
ひまわりちゃんはゆったりとしたフォームから驚くほど速い球を投げ込んでくる。
そのフォームはどこか私のものに似ている気がした。
この球を捕ってたあの時の子もけっこうな実力者だと思う。
普通の距離ならキャッチャー防具がないと危険なレベルな気がするし。
「なずなさんも思いっきり投げてみてくださ~い!」
「ええ? ぎっくり肩になっちゃうよ~」
「いやいや、何言ってるんですか、大丈夫ですよ!」
「わかった、いくよ~」
実は私、野球部には入ってないけど、トレーニングは欠かしてないんだよね~。
投球フォームは体が覚えてる。
現役だったころを思い出しながら、私は久しぶりに全力投球をしてみた。
私の手から離れていくボール。
懐かしい感覚と、確かな手ごたえが心地いい。
放たれたボールは私の想像を超える勢いでひまわりちゃんへとむかっていく。
「ひゃっ」
ひまわりちゃんの小さな悲鳴の直後、ボールがグローブに叩きつけられた大きな音が響き渡る。
「は、速すぎですよなずなさん! 野球辞めたんじゃないんですか?」
「野球部に入らなかっただけで、完全に辞めたとは言ってなかったり……」
「ええ!? そうなんですか!?」
だって野球をするのが好きなことに変わりはないんだよね。
今はちょっと愛に生きてるだけさ……。
「はぁ~、やっぱりなずなさんはすごいなぁ」
「ひまわりちゃんはどう? 野球は好き?」
「はい! なずなさんの次くらいに好きですよ!」
「くはっ」
なんだ今のは……。
ドキッとしすぎて胸が痛い。
かわいすぎるよ、ひまわりちゃん。
「ねえ、これからはたまにでも一緒に野球しようか」
「いいんですか!」
「うん、茜ちゃんも連れてさ。茜ちゃんはずっとキャッチャーやってたからどんな球でも捕ってくれるよ」
「茜さんはいいです。ふたりでやりましょう!」
「あ、うん……、ひまわりちゃんがそう言うなら」
お願いひまわりちゃん、茜ちゃんとも仲良くしてあげて……。
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