第34話 茜の従妹

 茜ちゃんとひまわりちゃんの激闘から一夜が明け、あまり眠れないまま朝をむかえる。

 ひまわりちゃんは早い時間に自分の部屋へと戻っていった。


「ふあ~」

「眠そうだね、なずな」


「誰のせいだと思ってるの?」

「あはっ、ごめんね」


「まあいいけど」

「じゃあ準備ができたら出かけるよ」


「え、もう出るの?」

「うん。むこうは学校があるから登校前に会うことになってるんだ」

「そういうことか」


 そういえば今日は平日だったね。

 すっかり学校を休んでること忘れてたよ。


 と言うか、いったい誰と会うんだろう。

 私がついていく意味あるのかな?




 準備を済ませた私たちはふたりだけで近くの公園へと移動した。

 平日の朝七時くらいということもあって、公園にこどもの姿はない。

 ちょっと残念だ。


 私の隣では茜ちゃんがさっきからそわそわそわそわしている。

 私は眠いこともあってゆるゆるな空気をまとっているけど、茜ちゃんは何かを警戒するようにピリピリしていた。

 その時、茜ちゃんの後ろからぴょんとその背中に誰かが抱きついてくる。


「わぁ!」

「うひゃっ」


 茜ちゃんは驚いて小さな悲鳴をあげる。

 抱きついてきたのはランドセルを背負った女の子だった。


「ひさしぶりだね茜ちゃん」

「あ、うん、ひさしぶり……」


 どうやらこの小学生が茜ちゃんの待ち合わせ相手らしい。

 なんで茜ちゃんはこんなに元気がないんだろう。


 見た感じすっごくかわいいけど。

 もしかして性格に難ありとか?


「そっちの人は?」

「ああ、このお姉さんは私の友達だよ」


 茜ちゃんは私を小学生に紹介する。


「白河なずなです、よろしくね」

「若狭果南です、よろしくお願いします」


 なんだなんだ礼儀正しくていい子じゃないか。

 茜ちゃんはいったい何を心配してるんだろうね。


「なずなお姉さんは茜ちゃんとどういう関係なんですか?」

「うん? そうだね、幼馴染だよ。一番の親友なんだ」

「そうですか、親友なんですね。私は茜ちゃんの婚約者なので」


 ……うん?

 婚約者?

 何言ってるんだろうこの子は……。

 あ、もしかして。


「ねえ茜ちゃん、この子は前に言ってた従妹さん?」

「うん、そうだよ……」


 やっぱりそうか。

 前に自分と結婚するって言ってるから紹介できないと言ってた従妹さんだ。

 もっとちっちゃい子がよくわからず言ってるのかと思ってたけど、これは重症の類かもしれない。


「えっと、果南ちゃん、茜ちゃんと結婚っていうのは本気なの?」

「はい、私たちが結ばれるのは生まれた時から決まっていたんです。うふふ……」


 うわ~……。

 こ、これは、私が言うのもなんだけどひどい。


「ねえ茜ちゃん、この子は今いくつ?」

「小学六年生、柑奈ちゃんたちと同い年だよ」

「そっか……」


 柑奈と果南、名前が似てる。

 なんて今はそんなことどうでもいい。


 この子はなかなかやばい子だ。

 そんな香りがする。


「茜ちゃんが全然連絡くれないから、私寂しかったよ?」

「あ、うん、ごめんね」

「いいよ、その分今補充するから」


 果南ちゃんはぎゅっと茜ちゃんに抱きついて、その胸に顔を押しつけている。

 昨日茜ちゃんが私にやったやつだ。

 なんなら茜ちゃんは深呼吸までしてた。


「う~」


 茜ちゃんは微妙に嫌そうな顔をして私に助けを求めていた。

 そんな嫌がらなくてもいいと思うんだけどなぁ。

 確かに小学生が好きじゃないと嬉しさもあまりないのかもしれないけど。


 こんなかわいい子に好かれて抱きつかれていたら、別にロリコンじゃなくても悪い気はしないと思うんだけどな。


「ああ、茜ちゃんのにおいがする……」


 ……う~ん、やっぱりちょっと気持ち悪いかもしれないかな?


「あの果南ちゃん? そろそろ離れてあげたら?」

「何ですかお姉さん、もしかして嫉妬ですか?」


「いや、そんなことはないけど……」

「ふふん、そんな大きなものをぶら下げていても、茜ちゃんの抱き心地にはかないませんよ」

「あ、そうですか……」


 ごめん茜ちゃん、どうやらこの子は茜ちゃんしか興味がないみたいだよ。

 ついてきた意味なかったかも。


 やがて充電完了したのか、果南ちゃんは茜ちゃんからようやく離れた。

 そこで茜ちゃんがずっと疑問に思っていたことを口にする。


「ところで果南ちゃんはどうして私がこの街にいるってわかったの? 私何も伝えてないよね?」

「ふふふ、それは秘密だよ。まあ私くらいになると愛する人の居場所くらいは感覚でわかるから」


 いやいや、秘密って言ってる時点で何かあるんでしょ!

 誰かとつながっていて情報をもらってるとか。

 あまり考えたくはないけど、盗聴なんかも疑わなくてはいけない。


「さあ、果南ちゃん、そろそろ学校へ行く時間じゃない? 送っていくよ」

「まだ大丈夫だよ。あと一時間くらいは」

「そっか」


 一時間……。

 長いな。


 せめて私が相手してあげられたらいいんだけど。

 果南ちゃんは茜ちゃんに会いたかったんだし、それじゃあ意味ないよね。

 ここは素直に果南ちゃんを満足させる方向で行くべきじゃないかな。


「ねえ果南ちゃんは何かしたいことはある?」

「茜ちゃんと旅行行きたいです!」


「あと一時間じゃ無理かな~」

「う~ん、じゃあその旅行の計画を立てる!」

「おおう……、まあできないことはないけど……」


 これは万事休すじゃないかな茜ちゃん。

 と思ったら茜ちゃんは果南ちゃんの前でかがんで手を握りながら言った。


「果南ちゃん、ごめんね。私ね、この人と結婚することにしたんだ」

「え?」


 お~い茜ちゃん、何しれっと嘘をついてるの~?

 果南ちゃんは驚いた顔で私のことを見る。


 うっ、ここで嘘だよとは言えない。

 でもこの子に嘘を吐きたくない。

 困った私はとりあえずニコッと笑っておくことにした。


 その笑顔を肯定ととったのか、果南ちゃんはさらにショックを受けた顔でうつむく。

 そして。


「うわ~!! 茜ちゃんのバカ~!!」

「ぎゃっ」


 果南ちゃんはなぜか私にむかって飛びついてきた。


「この胸か! この胸に誘惑されたんだね!」

「や、やめて果南ちゃん……」


 私の胸は鷲掴みされ、もてあそばれる。

 なんだか最近標的にされやすいなこの胸は。

 とりあえずおとなしくしてもらうために、ぐいっと果南ちゃんを抱き寄せてホールドする。


「むにゅっ」


 思いっきり抱きしめて頭をなでてあげると、次第に果南ちゃんはおとなしくなった。

 そこで私は果南ちゃんを開放する。


「ほへ~」


 果南ちゃんは幸せそうな顔で気を失っていた。

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