第33話 なずなの胸は誰の物?

 飲み物を持って私たちの部屋に戻る。

 いろいろあったものの、とりあえずひまわりちゃんが私たちの部屋で寝ることは決定した。

 この話を誤魔化すために飲み物を買いに行ったのに、逆に確定してしまったなぁ。


 まあいっか、ひまわりちゃんの好意の理由も分かったことだし。

 後は私が一晩欲望に打ち勝てばいいだけだ。

 でもちょっと触るくらいならいいかな。


 髪のにおいをかいだりとか、抱き枕代わりに抱きしめるとかくらいいいよね。

 だってしょうがないよ。

 ひとり用のベッドでふたりが寝たら、そりゃ触れちゃったりくらいしちゃうよね。

 デュフフ……。


「あれ? 茜ちゃんどこ行ったんだろう」


 気付けば部屋に残ったはずの茜ちゃんの姿がない。

 そういえばスマホを見ながら困った顔をしてたし、なんか心配だなぁ。


 私たちは茜ちゃんの飲み物をテーブルに置いてからベッドに腰かけた。

 ちょうとそのタイミングで部屋のドアが開き、茜ちゃんがどこかから帰ってくる。


「あ、なずな帰ってたんだ」

「うん、さっきね。どこ行ってたの?」

「あ~、ちょっと電話してて」


 わざわざ外で電話するなんて、聞かれたくない話だったのかな。

 あまり踏み込まない方がよさそうかも。

 そう思ってたのに、急に茜ちゃんが私に飛びついてきてベッドに押し倒されてしまう。


「何してるんですか茜さん! 私が先ですよ!」


 ひまわりちゃんは少しずれたツッコミを入れながら、茜ちゃんのことをポカポカと叩いていた。

 いやいや、ひまわりちゃんが先とかそういうのないからね。

 何もしない、何もしないんだから。


「どうしたの茜ちゃん」

「助けてなずな」

「とりあえず落ち着いて。深呼吸しようか」

「うん」


 茜ちゃんはなぜか私の胸の谷間に自分の顔をうずめて深呼吸した。

 何してるんだろうこの子は。


 そういうのは私の役目だと思うんだけど。

 だんだん茜ちゃんも成長してきたなぁ。


「落ち着いた?」

「うん、落ち着いた」

「そっか」


 私の胸がお役に立てたようでなにより。


「あのねなずな、明日ちょっとついてきてほしいところがあるんだ」

「え? まあいいけど」


「ありがとう」

「それだけでいいの?」


「うん、来てくれたらきっと何とかなるから」

「わかった」


「じゃあ私、明日に備えてもう寝るね」

「もう寝ちゃうの? そんなに大変なことなんだ……」


「私にとってはね。じゃあおやすみ」

「おやすみ~」


 茜ちゃんはおやすみのあいさつをすると、早々とベッドに入ってしまった。

 そう、私の寝るベッドに。


「茜ちゃん、こっちは私の寝るベッドだよ」

「あ、ごめんね、そうだったね」

「……」


 茜ちゃん、そんな簡単なこともわからなくなるくらいに明日のことが憂鬱なんだね。

 大丈夫、私が助けてみせるからね。


「じゃあ私たちも寝ようか、ひまわりちゃん」

「は~い」


 私とひまわりちゃんは一緒のベッドで横になる。

 布団をかけると、すぐにひまわりちゃんは私の左腕に抱きついてきた。


「えへへ、夢が叶っちゃいました」

「こんなことが夢だなんて、なんだか照れるなぁ」


「憧れの人と一緒に寝られるんですから、こんなことじゃないです」

「そっか。でもね、私にもひまわりちゃんとお風呂に入るっていう夢があるんだよ」


「ええ!? 私とお風呂が夢!? 今すぐ入りに行きましょう! さあさあ!!」


 ひまわりちゃんは大興奮した様子で布団をめくりあげて私の腕を引っ張る。


「いやいや落ち着いてひまわりちゃん。今の私が一緒にお風呂入ったらきっと大変なことになるんだよ」

「大変なこと?」


「そう。私の中の怪物が暴走をして、ひまわりちゃんが天に昇ってしまうかもしれない」

「私は構いませんよ!」


「いやいや、私の人生が終わっちゃうから。だから私は少しずつこうやって経験値を積んで、いつかひまわりちゃんとお風呂に入れる日を夢見てるんだ」

「そうなんだ。残念だけど、それまで待ってますね」


「うん。まあそのうち暴走して一緒にお風呂入っちゃうかもしれないけどね」

「その時はその時ですね」


「そうだね。おとなしくお縄につくことにするよ」

「いやいや」


 ふたりは顔を見合わせて笑う。


「ねえ、なずなさん。私後ろむいてるから、ぎゅっとしてもらってもいいですか」

「うん、いいよ」


 ひまわりちゃんは私から離れて背をむける。

 その体を私はやさしく包み込むように抱きしめた。


「あったかい……」

「うん」

「幸せ……」

「うん」


 ひまわりちゃんの体、あったかいなぁ。

 ちっちゃくてやわらかくて、すごくいい抱き心地だ。

 意識が夢の中に溶けていきそう。


 そんな幸せな時間を過ごしていると、後ろのベッドで茜ちゃんが動く気配がした。


「ねえ、なずな」

「あ、まだ起きてたんだ。どうしたの」


「私もそっちに行っていい? 隣でイチャイチャされるとやっぱり寂しいよ」

「茜ちゃんてそんな甘えん坊だったっけ? まあいいよ」

「ありがとうなずな」


 茜ちゃんはすぐに私のベッドにもぐりこんでくると、速攻で私の胸を後ろから鷲掴みしてきた。


「ひゃっ」

「ちょっと何してるんですか茜さん!」


 ひまわりちゃんは飛び起きて、布団をはがし、茜ちゃんの手を引っぺがす。


「え~、ひまわりちゃんだってさんざんイチャイチャしてたんだからいいでしょ?」

「ダメです! このおっぱいは私のものですから」

「何言ってんの? これは私が育てたおっぱいなんだから、私のものだよ」


 このふたりはいったいさっきから何を言ってるんだろう。

 私の胸は私のものだと思うけど。


「まあいいでしょう、このままではなずなさんに迷惑が掛かりますし、今夜は仲良く半分個しましょう」

「しょうがないね。今夜だけは半分だけ譲ってあげる」


 ふたりは言い争いながら、私の胸を半分ずつ掴んでくる。

 いや、私の意志は?

 あとすっごく迷惑なんだけど……。

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