第30話 みんなのお姉ちゃん

 女子高生四人と女子小学生六人の大所帯が街を行く。

 私たちは学校を休んでる身なので目立つわけにはいかないんだけど、絶対に目立ってる。


 でも引率っぽく見えなくもないから、あまり気にはされていないようだった。

 それよりも気になるのが、この柑奈ちゃんのお友達がずっと私から離れないことだ。


 いくらお姉ちゃんに憧れを持っていたとしても、私がこんなに懐かれると戸惑ってしまう。

 もちろん私はとてもうれしいけどね。


 ただ柑奈ちゃんと甘々な時間を過ごせてないのは残念なことではある。

 今柑奈ちゃんは珊瑚ちゃんと茜ちゃんのところにいて、何かの話で盛り上がっていた。


 愛花ちゃんは彩香ちゃんと一緒だ。

 そしていつの間にかひまわりちゃんは私の右腕に抱きついていた。

 さっき相手できなかったから寂しかったのかな?


 だとしたらかわゆすぎる。

 このまま連れて帰って一緒に暮らしたい。

 今の私なら一緒にお風呂に入っても大丈夫な気がするし!


「ねえねえお姉さん」


 私がひまわりちゃんとの同居生活を妄想していると、柑奈ちゃんのお友達から声がかかる。


「なあに?」

「お姉さん学校はどうしたの?」

「う~ん、そうだねぇ……」


 さすがに堂々と休んだって言うのもよくないよねぇ……。

 しかし、休んで遊びに来ているのは紛れもない事実。


「私くらいの歳になるとね、学校よりも大事なことができちゃうものなんだよ」

「大事なもの?」


「うん」

「それって何?」


「それはね、私の大切な妹の柑奈ちゃんだよ。柑奈ちゃんのそばにいることが、私にとっては学校へ行くことよりも大事なんだよ」

「ふ~ん、でも柑奈ちゃんはあっちのお姉さんたちのところにいるよ?」


「うぐっ、そうなんだよね。柑奈ちゃんはあのお姉さんにあこがれてるらしいんだ」

「お姉さんフラれたの?」


「フラれてないよ!? そういうのじゃないんだよ。私はただ同じ空間で同じ空気を吸っているだけでいいんだ……」


 あれ?

 なんでひまわりちゃん離れていくの?

 行かないでひまわりちゃん!


 ひまわりちゃんにまで見捨てられたら、私もう心が壊れちゃう!


「私はお姉さんのこと好きだよ!」


 三人のお友達のうち一人が突然私に抱きついてそう言ってくれた。

 ああ、なんだこれは。

 やわらかい感触と温かな何かが私を満たしていく。


 この胸の高鳴りはなんだかひさしぶりな気がする。

 これはそう、ギャルゲーをプレイしていた時にサブヒロインだと思っていたキャラのイベントが発生して、「え、この娘ルートあんの!?」ってなった時に似てる。


 つまりこれは……恋だ。

 桜が咲く季節でもないのに、こんなんでいいのか私。

 でも、でも……、いろんな女の子に好かれて、いろんな女の子を好きになるのは、すっごく幸せなんだよね……。


「えへ、えへへ……」

「あ、お姉さんがだらしない顔してる!」

「いや、これはいやらしい顔とも言える!」


 なんかひどいこと言われてるけど仕方ないじゃない。

 かわいい子に好きって言われたらどうしたってにやけてしまう。

 そんなの私にはコントロールできないよ。


「ねえ、私のお姉ちゃんになって~」

「私も~」

「ええ……」


 なんだなんだ?

 私にモテ期到来ですか?

 とりあえず断る理由はないかな。


 なので「いいよ」と答えようとしたら、いつの間に近くにいたのか、いきなり柑奈ちゃんが私に飛びついてきた。


「ダメ! 姉さんは私の姉さんだから!」


 真正面からぎゅっと私を抱きしめながら、他の子たちを牽制する柑奈ちゃん。

 さっきまでちょっとそっけなかったのに、いきなりデレたね。

 そんな柑奈ちゃんを見て、お友達のみんながクスクスと笑い出した。


「やっぱり柑奈ちゃんはお姉ちゃんが大好きなんだね」

「素直になればいいのに」

「見かけによらずツンデレなんだから」


 次々と私との仲をからかう言葉に、柑奈ちゃんは「うう~」とうなりながら顔を赤くする。

 それでも私から離れることはなく、私はかわいい妹の頭をなでなでしていた。


「大丈夫だよ柑奈ちゃん、私はみんなのお姉ちゃんだから」

「そこは私だけのお姉ちゃんって言って欲しいよ!?」


「え~、だってみんなかわいいし、お姉ちゃんが欲しいって言ってるし」

「も~!」


 柑奈ちゃんがポカポカと私のことを軽く叩き始める。

 全部胸を狙っているのはわざとですか?

 なんかそういうところあるよねこの子。


 前もお風呂で私の胸をひたすら洗ってたし。

 でもまあ、今日は来れてよかった。


 柑奈ちゃんのかわいい姿も見れたし。

 お友達もいい子ばかりだし。

 ちゃんとうまくやれてるみたいで安心した。


 私は柑奈ちゃんの手をそっと握りしめる。

 恥ずかしそうにする柑奈ちゃんだったけど、手を振りほどいたりはしなかった。

 そのまま私たちはみんなで街を順番に巡っていく。


 なぜか私のまわりに集まってくれる三人組やひまわりちゃんに思わずニヤニヤしていると、柑奈ちゃんの手を握る力が急に強くなったりもした。


 小学生に囲まれながら、幸せで、心がぽかぽか温かくなるような時間を過ごし、私たちは目的地へとたどり着く。

 ずっと握ったままだった柑奈ちゃんの手が離れていくのはちょっと寂しい気持ちになった。


「じゃあ姉さん、私たちは行くけど、地元の小学生に手をだしたりしたらダメだよ?」

「やだなぁ、そんなことしないってば、私を何だと思っているの?」


 私がそう言うと、柑奈ちゃんだけでなく、他のみんなからも冷たい視線がむけられていた。


「え、何?」

「……なんでもないよ」


「ええ~、気になるよ~」

「とりあえず無事に帰ってね。茜ちゃん、姉さんをよろしく」


 柑奈ちゃんはなぜか私を茜ちゃんに託していた。

 何なの?

 いつの間にふたりの間には信頼関係が築かれているの?


 珊瑚ちゃんのことはお姉さまって呼んでるし。

 彩香ちゃんとはこの前ゲームの話で盛り上がってたし……。


「私は柑奈ちゃんをそんな女たらしに育てた覚えはありません!」

「え、何? 突然どうしたの姉さん……」

「何でもないよ!」


 私はそういうと、三人組の一人を抱きかかえる。


「きゃっ、どうしたの柑奈ちゃんのお姉ちゃん?」

「うおおおおお」


 私はその子をお姫様抱っこしたまま、近くの公園へとダッシュした。


「ちょっと何してるの茜ちゃん! ちゃんと姉さんを止めてくれないと!」

「私のせいなの!?」

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