第29話 愛すべき小学生たち

 私たちは早めの食事を済ませて準備を進める。

 と言っても何も特別なことはなく、ただ自然に合流して一緒に遊ぶだけだ。


 ひまわりちゃんも協力してくれることだし、このサプライズは成功するだろう。

 ふふふ、柑奈ちゃんの驚く顔が早く見たいなぁ。




 そして午後をむかえて、柑奈ちゃんたちのチーム別行動の時間。

 私はさっそく街へ繰り出す柑奈ちゃんたちと合流すべく、とある地点へとむかう。


 この時間は自由時間というわけではなく、ただ指定された場所をチーム別で回っていくだけ。

 だけど、私たちが一緒にいてはいけないわけではない。


 ここは合流できるチャンスだよ。

 とりあえず噴水のある広場へ先回りして、うまくひまわりちゃんに柑奈ちゃんたちを誘導してもらう。

 そして偶然を装い、自然に出会うんだ。


「あ、姉さん、ここにいたんだ」

「って、全然驚かない!」


 なんで?

 全然妄想と反応が違うんだけど!

 もっと驚いてくれないと!


「いや、姉さんがお泊りの用意をしてたから、もしかしたらこっそりついてくるのかなって」

「なんでバレてるの!?」


「それにさっきから姉さんのにおいがひまわりちゃんからしてたし」

「に、におい……」


 前にもあったけど、私のにおいって何?

 別に香水とかまったく使ってないんだけど。


 ひまわりちゃんも自分の服とかを嗅いでいるけど、まったくわからないらしい。

 柑奈ちゃんの鼻はいったいどうなっているんだ。


「姉さん、一応言っとくけど今日は平日なんだから、あんまりうろうろしてると補導されちゃうかもしれないよ」

「え、されるの?」


「さあ、詳しくないけど。せめて私たちと一緒にいたら引率くらいには見えるんじゃない?」

「一緒にいていいの?」


「そのために来てくれたんでしょ?」

「う、うん、そうだよ!」


「じゃあそうしようよ」

「うう~、柑奈ちゃん好き好き大好き~!」

「はいはい……、うへへ……」


 サプライズにはならなかったけど、柑奈ちゃんは私のことを歓迎してくれた。

 ちょっと予定は狂ったけど、一緒にはいられるんだし良しとしよう。

 私たちはそれでよかったけど、少しぎこちないことになっているふたりがいた。


「お姉ちゃん……」

「えへへ、愛花ちゃんがいないと寂しくて、来ちゃった♪」


 彩香ちゃんが今まであまり見せたことのない類の笑顔を披露する。

 ……なんだろう、今背中がぞくってなった。

 さらに愛花ちゃんは恥ずかしそうにしながら、なぜか私の後ろに隠れてしまう。


「ま、愛花ちゃ~ん……」


 泣きそうな声を出しながらあわあわしている彩香ちゃんはちょっとかわいそうだった。

 そんなに嫌だったのかなと思ったけど、そうではなかったらしく。


 私の後ろからちょこんと顔を出して、愛花ちゃんが彩香ちゃんにむかって小さな声でつぶやいた。


「私も寂しかったから……、ありがとお姉ちゃん……」

「ひょっ……」


 愛花ちゃんからのかわいいお言葉に彩香ちゃんは変な声を漏らしていた。

 そして、ガッツポーズをして叫ぶ。


「うひょおおおおおおおお、愛花ちゃんかわいいぃぃぃいいい!!」


 まわりにあまり人がいなくて助かった。

 叫んでいる彩香ちゃんは、私から見てもちょっと……、いや、かなり気持ち悪かった。

 私も人前では気を付けよう……。


「さあ、お友達だと思われると大変だから先に行こうか」

「そうですね」


 茜ちゃんが何気にひどいことを言いながら歩き始める。

 それにひまわりちゃんが同意して一緒についていく。


 たまに言い争っているふたりだけど、こういう時は息があってるんだよね。

 仲良しなのかはわからないけど。


 私たちはこのまま広場を出て次の目的地へとむかおうとする。

 そこに後ろからかわいい声で呼び止められた。


「お~い、柑奈ちゃ~ん」

「え?」


 私と柑奈ちゃんが振りむくと、三人の小学生が手を振りながらこちらにむかって走ってきていた。

 多分柑奈ちゃんのお友達かな?

 ちゃんと他にも友達いたんだね、一安心だよ。


「柑奈ちゃん、そっちの人は誰?」

「私の姉さん」


「ああ、柑奈ちゃんがいつも話してる人だね!」

「わ~! わ~!」


 柑奈ちゃんが慌てて誤魔化そうとするけど手遅れ。

 ほうほう、柑奈ちゃんはお友達に私の話をしているのか。


「ねえみんな、柑奈ちゃんは私のことなんて言ってるの?」

「え~、柑奈ちゃんが嫌がってるから言わないよ」


「そっか、いい子だなぁ」

「えへへ」


 私が頭をなでると嬉しそうに笑ってくれた。

 超かわいい。


「こんなやさしそうなお姉ちゃんがいるのって羨ましいなぁ」

「みんなはひとりっ子なの?」


「うん、三人とも」

「そうなんだ」


「ねえねえ、私のお姉ちゃんになってください!」

「あはは、本物のお姉ちゃんにはなれないけど、お姉ちゃんの代わりくらいならいいよ」


「やった~、じゃあぎゅってしてください!」

「いいよ~、ぎゅ~」

「きゃ~」


 私はかわいいかわいい小学生を三人まとめて抱き寄せる。

 ふわふわでやわらかくてかわいい。

 癒されるよ~。


「なずな、モテモテだね~」

「うへへ、幸せ~」


「その子たちをかわいがるのはいいけど、あっちもかまってあげないと大変なことになるんじゃない?」

「え?」


 茜ちゃんが指差す先を見ると、柑奈ちゃんとひまわりちゃんが頬を膨らませながらこっちを見ていた。

 もしかしてこの子たちに嫉妬してる?

 ふふふ、ふたりともかわいいんだからまったく。


「なずなさん、私も……」

「愛花ちゃん~、なでなで~」

「うにゅ~」


 いつの間にか彩香ちゃんのところから私の隣に来ていた愛花ちゃんの頭をなでる。

 気持ちよさそうにしている姿を見ていると、なんとなく猫っぽいなと思った。

 少し離れたところでは彩香ちゃんが「私の愛花ちゃんがあああああ!!」と叫んでいるのが見える。


 まあ、自分の妹が他の人の方に懐いていたらショックだよね。

 私なら耐えられない。

 そんな風に小学生に囲まれていると、珊瑚ちゃんがその様子をばっちり撮影しているのが見えてしまった。


「さ、珊瑚ちゃん、撮ってるの!?」

「ええ、女子小学生四人に囲まれて幸せそうな女子高生の映像はなかなかのものですわね」


「……後でいただけますでしょうか」

「お任せくださいな」


 こんな二度と訪れるかわからない幸せな時間を記録してくれた珊瑚ちゃんには感謝だよ。

 人に見られたら何か言われそうなものではあるけど、私の宝物のひとつになりそう。


 うふふ、幸せすぎて後が怖いね。

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