第28話 なずなの計画と妄想

「ふ~ん、ここって珊瑚さんの家の施設なんですか」


 私はひまわりちゃんに一応事情のようなものを説明する。

 不法侵入を疑われてたみたいで、とりあえず誤解は解けた。


「でも小学生に混ざって活動するわけにもいかないでしょ」

「それはそうだけど」


「それじゃあ柑奈ちゃんの学校生活なんて見れないんじゃないですか?」

「むむむ……、だったら先生に事情を説明して一緒にいさせてもらうとか」


「恥ずかしいことしないでください!」

「恥ずかしいかなぁ……」


「もし私がされたら、いくら大好きな人でもしばらく口を利かないかもしれません」

「それはダメ、この案は却下だね」


 う~ん、なにかいい方法はないだろうか。

 自然と小学生たちに混ざって交流できるような方法は。


「う~ん……」


 なぜかひまわりちゃんも真剣に考えてくれている。

 小学生側の立場からなら、私たちとは別の視点から何か思いつくかもしれない。

 頑張れひまわりちゃん、私の幸せのために!


「そうだ! 自由時間とかあるでしょ? そこで一緒に混ざればいいんじゃない?」


 そして案をひらめいたのは茜ちゃんだった。


 確かに自由時間なら何をしててもいいよね。

 偶然に出会ったお姉さんと遊んでいたって問題ないだろう。

 多分。


「ひまわりちゃん、自由時間ってあるの?」

「あるのはあるけど……、本気?」


「うん、せっかくここまで来たんだし、少しくらいは一緒に遊びたいよ」

「自由時間は明日の十時から十二時にありますよ」


「明日かぁ」

「あとは今日の午後からチーム別の行事があるから、そこなら一緒にいても大丈夫かも」

「それだ!」


 チーム別行事なら、偶然出会ったお姉さんと一緒に行動していてもギリギリセーフかもしれない。

 それにもしかしたら他のチームの子とお近づきになれて、ますます私の交友関係が広がるかも!


「よ~し! 頑張るぞ!」

「あんまり興奮しすぎて捕まらないでくださいね」


「大丈夫大丈夫」

「あと、愛花ちゃんは大丈夫だと思うけど、柑奈ちゃんがどう言うかはわかりませんよ」


「大丈夫だって、なんだかんだ柑奈ちゃんは私のこと大好きだから」

「いつの間にそんな自信を……」

 

 

 

 柑奈ちゃんたちのチーム別行動の時間。

 私はさっそく街へ繰り出す柑奈ちゃんたちと合流すべく、とある地点へとむかう。

 ひまわりちゃんの協力もあって、うまく柑奈ちゃんたちは私たちと同じ場所で鉢合わせることに成功した。


「ね、姉さん!? なんでいるの!?」

「えへへ、柑奈ちゃんと離れるのが寂しくて……、来ちゃった♪」


「もうっ、そういうの恥ずかしいからやめてよ」

「ごめんね、でも私、柑奈ちゃんのこと大好きだから」

「ううっ、ちょっとこっち来て!」


 柑奈ちゃんは私の手を握ると、強引に引っ張りながら走っていく。

 ちょっと転倒しそうになった体勢から持ち直して柑奈ちゃんを追いかける。

 柑奈ちゃんは近くの公園に入ると、そのまま人のいない林の中へと入っていく。


「はぁはぁ」

「どうしたの? こんなところに何かあるの?」

「むぅ」


 柑奈ちゃんは頬を膨らませながら、私を木にむかって追い詰める。

 私の顔の隣を手が通過した。

 今の私は、木を背にして壁ドンされている状況だ。


 と言っても、身長差があるので、柑奈ちゃんの顔は私の胸の前あたりだけど……。


「姉さんのせいだから」

「何が?」


「このお泊りの間、姉さんがいないのを我慢しようとしてたのに……」

「そうなんだ」


「でも、目の前にいたら我慢なんかできないじゃない!」

「じゃあ……、我慢しなくてもいいんだよ」

「姉さん!」


 柑奈ちゃんは勢いよく私の胸に顔をうずめると、そのままぎゅっと私を抱きしめてきた。

 私もぎゅっと抱きしめ返す。

 もう君をひとりになんかしない……。


 ……。

 ……。

 ……。




「なんてなんて展開になっちゃったりして~!」

「すごい……、妄想をすべて口に出すなんて……」


 私が柑奈ちゃんとのラブラブタイムを妄想しながらクネクネしていると、さすがの茜ちゃんも引いていた。

 でも私はこれを妄想で終わらせるつもりはない。


「よしっ、妄想を現実にしてみせるよ! お~!」

「まだ時間は先だけどね……」


 確かに。


「じゃあ、街でも観光しに行こうかな。ひまわりちゃんも来る?」

「いやいや、そろそろ戻らないと騒ぎになっちゃいますよ」


「あ、そっか、残念」

「うう~、私もなずなさんと観光に行きたかったです……」


「明日の自由時間にすればいいんじゃない?」

「ふたりで行ってみたいです……」


「あはは、じゃあまたこよっか」

「え? ふたりで?」


「うん、そんなに遠いところじゃないし、来ようと思えば来られるよ」

「あわわわ、約束ですよ!」


「うん、いつになるかはわからないけど」

「ふたりきりですよ!」


「ひまわりちゃんがそうしたいならふたりで来ようか」

「ぷしゅ~」

「わあっ、ひまわりちゃん!?」


 突然ひまわりちゃんが目を回して倒れてしまった。

 しばらくして回復したひまわりちゃんは、時間を見て大慌てで部屋を出て行った。


「大丈夫かな、ひまわりちゃん。突然倒れるなんて体調が悪いんじゃ……」

「なずな……」

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