第23話 甘い誘惑

 同好会のない放課後、ブラブラと散歩をしていると公園から女の子のはしゃぐ声が聞こえてくる。

 ふらふらと誘われるように公園の中へ入り、誰もいないベンチに腰を下ろす。


 ふう、やっぱりかわいい女の子を見ていると癒されるね。

 そうだ、ここらで新しいスマホのカメラを試してみますか。


 買い換えたばっかりで、まだ外では写真撮ってなかったんだよねぇ。

 もちろん記念すべき最初の撮影は柑奈ちゃんだったけど。


 この機種はソフトウェアの力できれいな写真を撮ってくれるとかなんとか。

 家の中で撮った柑奈ちゃんはいつも通りかわいかったが、外ではどうか。


 まずはここの風景で試してみようか。

 カシャッとね。


 おっといけない、たまたま女の子が画面に入ってしまった。

 いや~、こんな偶然もあるもんだね。


 そしてやっぱり優秀なカメラ機能だ、とてもかわいらしく写っている。

 でも、もしかするとこれは被写体がよかっただけかもしれない。


 これは他の女の子も撮って調べてみる必要があるんじゃないだろうか。

 いや、でもそんなことをして問題になったら大変だ。


 ここは風景を撮って比較しようじゃありませんか。

 カシャッとね。


 おっといけない、またまた女の子が画面に入ってしまった。

 いやいや、こんな偶然もあるんですなぁ。


「……何してるんですか?」

「わひゃっ!?」


 私の意識は完全に女の子にむかっていたので、背後を取られたことに全く気付かなかった。

 今のを見られたのか。

 完全に誤解されてしまう。


 私は恐る恐る後ろを振り返る。

 するとそこにいたのはひまわりちゃんだった。


「ひ、ひまわりちゃん!」

「あの、なずなさん、そういうのあんまりしない方がいいんじゃないですか? そのうち捕まりそう……」


「だ、大丈夫だよ、私女の子だから!」

「大丈夫じゃないと思いますよ……」


「やっぱり?」

「はい、なので私を撮ってくださいよ! 私なら言ってくれればモデルやりますから!」


「ありがとうひまわりちゃん。でも私、偶然出会った女の子も撮りたいんだ!」

「……」


「そんな目で見ないでひまわりちゃん、これは私の趣味なんだよ~」

「趣味だからって許されると思ってるんですか!?」


 くっ、仕方ない、これからはもう少しうまくやろう。


「よ~し、それじゃあ、今日はひまわりちゃんの撮影会でもしようかな」

「ふっふ~ん、任せてください」


「ありがとう、ムフフな写真いっぱい撮るね!」

「えっ!?」


「ああ、どんな服を着てもらおうかな~。水着はもう当然として、バスタオル姿とかもいいよね!」

「へっ!? ば、バスタオル!?」


「あ、思い切って手ブラとかどうかな?」

「も、もう! なずなさんのエッチ! でもなずなさんのためなら私頑張る!」


「うおおおおお!! 本当にいいの!? 柑奈ちゃんは絶対に撮らせてくれないのに!」

「それはそうだと思うよ……」


「ひまわりちゃん天使! 愛してる!」

「ふぇ!?」


 私はひまわりちゃんを抱きしめた後、頭をなでなでする。

 恥ずかしそうにしながらも、されるがままのひまわりちゃんはとてもかわいい。

 このままお持ち帰りしたい。


「まあ、さっきのは冗談だからね」

「え、冗談なの」


「あはは、さすがに小学生の手ブラとか撮ったらアウトだよ~。本当は目から血の涙がでるほど欲しいけどね」

「わ、私は別にいいですよっ、なずなさんのためなら頑張ります!」


「じゃあ水着姿まで撮ってもいいかな、それ以上は踏み込んじゃいけない気がするんだ」

「恥ずかしいけど頑張ります!」


「それじゃあ行こうか、私の部屋に」

「は、はいっ!」


 ……これじゃあ私、まるで怪しい人だよね。

 でもでも、いまさらやめるなんて言い出せない。

 これは責任を持って撮影会を成功させるしかないね!


「よし、ひまわりちゃん、お礼と言っちゃまずい気がするけど、コンビニで好きなおやつ買ってあげる」

「いいんですか?」


「一個じゃなくてもいいからね。好きなの選んで」

「やった! でも撮影会のお返しにおやつなんて、なんかイケナイことをしてる気分ですね!」


「うん! ドキドキするよね!」

「はい! なんかドキドキします!」


 今の私たちはきっと、恥ずかしさと興奮でどうにかなっていたんだろう。

 もうまわりの目なんかほとんど気にしていなかった。

 幸いにも大人の人たちはいなかったのでセーフだったけど、めちゃくちゃ近くにお知り合いがいることに気づけなかった。


「あの~……」

「ぴゃっ!?」


 さすがにさっきまでしていた会話の内容がまずすぎて、急に聞こえた誰かの声に驚いて変な声を出してしまった。

 もし聞かれていたのだとしたら言い逃れはできない。


 私は心臓に槍が刺さったような痛みと苦しさを感じた。

 なんかこのままじゃいつか心臓がやられてしまいそうだ。

 外での危険な行為は自重して、なるべく部屋に連れ込むようにしないと。


 そんなことを考えながら、話しかけてきた人物の方を振りむくと、そこにいたのは珊瑚ちゃんだった。

 どうしてこんなところに……。


「珊瑚ちゃん……」

「うふふ、驚かれたようですね。あまり外でそのような会話をしていると、いつか捕まっちゃいますよ」


「あはは……、気を付けます」

「まあ、私の力が及ぶ範囲でお助けしますけどね」


 それはそれで怖いんだけど。


「ところで珊瑚ちゃんはどうしてここに?」

「新しいスマホを買ったので、カメラを試しながらぶらぶらしてたんですよ」

「あ、珊瑚ちゃんもそのスマホ買ったんだ」


 珊瑚ちゃんが手に持っていたのは、まさに私が今使っていたのと同じ機種だった。


「うふふ、いい写真が撮れると聞いたのでつい買ってしまいました」

「へえ、珊瑚ちゃんもそういうの好きなんだ」


「そうなんですよ。それでぶらぶらしてたらいつの間にかこの辺りまで来ていたので、なずなさんのお家まで遊びに行こうかと」

「え」


 まずい、今から私たちは撮影会だ。

 珊瑚ちゃんが来てくれるのはうれしいけど、今日ばっかりは歓迎できない。

 私はちらちらとひまわりちゃんの方を見ながら、さてどうしたものかと悩む。


 すると、さっきの会話を聞いていた珊瑚ちゃんは私の気持ちなどお見通しだったようで、おかしそうに笑っていた。


「うふふ、大丈夫ですよなずなさん。これからひまわりちゃんとイケナイ撮影会なのでしょう? 邪魔はしませんよ」

「うう、ごめんね珊瑚ちゃん。でもイケナイ撮影会はやめて」


「はい。その代わり、今度私になずなさんを撮らせてくださいね」

「え……、それはちょっと恥ずかしいなぁ」


「おいしいケーキをご馳走しますから」

「意地悪だね、珊瑚ちゃんは」

「うふふ」


 今私がひまわりちゃんにしたことを、珊瑚ちゃんは私にしてきたわけだ。

 確かにこれはまずいよね~。

 甘いもので釣るところがまた何ともいやらしい気がする。


「よし、じゃあ、ケーキはいいから私にも珊瑚ちゃんを撮らせてね。それならいいよ」


 ふふふ、これなら珊瑚ちゃんも諦めるんじゃないかな。

 そう思っていたんだけど。


「まあっ! お互いに水着姿になってお互いを撮りあうんですか? さすがなずなさん、すごい趣味ですわ」

「なんでそうなるの!?」

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