第22話 シスコンクラブ

「今日も悪い魔女さんをやっつけてから帰るからね。じゃ、バイバ~イ」


 謎の一言とともに電話を切る駿河さん。

 ……なんだろう、悪い魔女さんって。


「いや~ごめんね、私の妹は世界一かわいい小学生だからさ」

「私の妹だって世界一かわいいよ」


「あはは、白河さんシスコンみたいだね」

「えっと、駿河さんもシスコンだと思うよ?」


「私が? あはは、おもしろいこと言うね。私は妹を世界一愛してるだけだよ」


 それをシスコンと言うんだけどね……。

 こんなキャラの濃い人が隣の席にいたのに、今までよく気付かなかったものだ。


「あ、そうだ、いままであんまりしゃべったことなかったし、一応自己紹介しておくね。私は駿河智恵だよ」

「白河なずなです、よろしくね駿河さん」


「智恵でいいよ、私もなずなちゃんって呼ぶから」

「うん、わかったよ智恵ちゃん」


「あはは、なんかなずなちゃんとは気が合いそうなんだよね」

「私も智恵ちゃんとは長い付き合いになりそうな気がするよ」


「じゃあ、付き合っちゃう?」

「へ?」


 そう言って智恵ちゃんは、唇を突き出しながら顔を近づけてくる。

 しかし、すぐに茜ちゃんの手刀が智恵ちゃんの頭に叩き込まれ、智恵ちゃんは笑いながら戻っていった。


 なかなか面白い子だなぁ。

 そういえばさっき電話で変なこと言ってたよね、ちょっと聞いてみようかな。


「ねえ智恵ちゃん、さっき悪い魔女さんがとか言ってたけど、何あれ」

「ああ~、あれはね、うちの妹は困ったことに、私を本物の魔法少女だと思っているらしいんだよ」


「どうしてそんなことに……」

「いや~、コスプレをしてるの見つかって、慌てて『私は魔法少女なのっ!』って言っちゃってさ」

「自分が原因なんだ……」


 どうしてそんな言い訳しちゃったんだろうね。


「うちの妹はさ、魔法少女が大好きなんだよ。すっごいキラキラした目で私のこと見ててさ……」

「あ~、やられちゃったんだね」


「まさに天使のような笑顔だったよ」

「かわいい妹のためなら仕方ないよね」


 わかるなぁ、私も柑奈ちゃんの目が光ってたら期待を裏切ったりできないもん。

 かわいすぎる妹を持つ姉の苦労、みんな理解してくれてるかなぁ。


「それで、具体的に何をしてるの?」

「特に何もしてないけど、まあ、眼帯つけて帰るくらいかな」


 なぜ眼帯を……。


「えっと、学校からつけて帰るの?」

「まあね」


「すごい……、すごいよ智恵ちゃん! まさにお姉ちゃんの鏡だよ!」

「そうかなぁ、私は立派にお姉ちゃん出来てるって思っていいのかな? たまに不安になるんだよね……」


「出来てるよ! そんな恥ずかしくて痛い格好、なかなかできないよ! 私尊敬しちゃう」

「えへへ、なずなちゃんみたいな人に言われると自信でてくるね。ありがとう」


 さすがに私も人前で魔法少女のコスプレはしたことがない。

 同じお姉ちゃんとして、智恵ちゃんのことは尊敬してしまう。


 私も柑奈ちゃんに頼まれたらやるのだろうか。

 ……やるんだろうなぁ。


「話は聞かせていただきました!」

「わわっ」


 窓際にいたはずの珊瑚ちゃんが、いつの間にか私の後ろにいて声を掛けてきた。


「は、浜ノ宮さん?」

「駿河さん、あなたも幼女同好会に入るべきだと思います」


「へ? 何それ……」

「ただの、幼女を愛する者たちが集まっている会です」


「浜ノ宮さんもそんなのに入ってるの? というか、私は別に幼女を愛してるわけじゃないよ。私が好きなのは私の妹だけだよ」

「あら、そうなのですか? てっきりお仲間かと」


 どうやら智恵ちゃんはロリコンではないらしい。

 純粋に妹ちゃんだけを愛しているんだね。


 私も柑奈ちゃんだけを愛するべきなのかもしれないけど、かわいい子が多すぎてそんなことできないよ。

 こんな私を許してね、柑奈ちゃん。


「話は聞かせてもらったわ!」

「い、委員長!?」


 私が心の中で柑奈ちゃんに謝っていると、今度は彩香ちゃんが智恵ちゃんに声を掛けていた。


「駿河さん、あなたの妹を愛する純粋な心、シスコンクラブに入るべきだと思うわ!」

「し、シスコンクラブ?」


 なにそれ。

 私も知らないクラブがいつの間にか出来あがっていたらしい。


「それって誰が入ってるの?」


 智恵ちゃん、興味あるのかな。


「実はまだ私と白河さんだけなのよ」

「いつの間に私入ってたの!?」


「この前入ったじゃない」

「ごめん、まったく記憶にないんだけど!?」


 え、入ってないよね?


「駿河さんはどうするの?」

「えっと、よくわからないけど、なずなちゃんが入ってるなら入ってみようかな」

「よし、決まりね!」


 いや、私入ってないんだけどね。

 別にいいけどね、シスコンって言うのは間違ってないし。


「それでいったい私は何をしたらいいの?」


 智恵ちゃんが活動内容を彩香ちゃんに尋ねる。


「活動内容は妹を愛することだけよ。そのために協力し合うの。活動場所は幼女同好会と同じね」

「それって幼女同好会と同じなんじゃないの?」


「違うわ! 幼女を愛するか、妹を愛するか、そこには大きな違いがあるのよ!」

「そ、そっか、そうだよね! とりあえずこれからよろしくね」


 智恵ちゃんがぺこりぺこりと私たちに頭を下げていく。

 なんだかよくわからない展開だったけど、とりあえず智恵ちゃんも仲間になったということでいいのかな。

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