第21話 なずなとクラスメイト

 今日もいつも通りの朝をむかえる。

 昨日は学校でやらかしてしまったから、ちょっと憂鬱な気分だった。

 でも早いうちに挽回しておいた方が後々楽だと思うし、覚悟を決めよう。


 私は朝食を済ませて仕度をして、茜ちゃんとの待ち合わせ場所にむかった。

 いつもより気持ち元気に挨拶した方が、茜ちゃんも安心できるかな?


「おっはよ~!」

「え、ああ、おはよう」


 茜ちゃんは私のことを心配していてくれたのか、元気な挨拶に驚いていた。

 逆に不自然だったかもしれない。


「さあ、行こ行こ」

「あ、待ってよなずな~」


 学校に着いて教室に入ると、みんながちらちらとこちらを見ているのがわかる。

 まあ、あれだけのことをやらかしておいて、まったく注目されないとかありえないからね。


 とりあえずすれ違うクラスメイトには挨拶をしながら自分の席へ。

 後は……、何事もなかったかのように振る舞おう。


 そうすればきっと、「あの時の白河さんは何者かに操られてたんだよ」とかなんとか、いい感じになるはず。

 よしこれでいこう。


 その時チラッと左を見ると、たまたま目が合った隣の席の子が顔を赤くして慌てたように下をむく。

 やっぱりあの投げキッスはみんなの心に深く刻み込まれてしまっているのか。

 思い出すだけで恥ずかしくて転がりまわりたくなるよ。


 さらに視線を感じ今度は右を見てみると、こちらはうっとりとした表情で私の方を見ていた。

 何だろうこの顔は。

 まるで恋する乙女のような表情だった。


 なんで私のことをそんな顔で見るんだろう。

 あ、これはあれだ。

 私が勘違いをしているだけで、きっと私の後ろに誰かがいるんだな。


 もしかしてさっきの左側のお隣さんかも。

 そう思ってもう一度左をむくと、その子の後ろにはもう一人女の子がいた。

 きっとさっきの視線はここにむいていたのだろう。


 窓際に立ち、静かに読書をたしなむその女の子は、我らがお嬢様、浜ノ宮珊瑚ちゃんだった。

 なんでそんなところで本を読んでるの? とはツッコまないでおくね。


 キラキラと光が降り注いでいるような幻覚が見えちゃうけど、私大丈夫かな?

 そしてその珊瑚ちゃんの手にある本には私も見覚えがあった。


 その本の内容は、闘病生活を送る小学生の妹とそれを支える高校生の姉の姉妹愛を描いた感動の作品。

 文章もラノベよりで読みやすく、私たちの業界では知らない人はいないと言われる名作。


 なぜそれを今さらこんな場所で読んでいるのかはわからない。

 ただ私の右側の子はきっと珊瑚ちゃんを見てうっとりしていたのだろう。

 あぶない、勘違いして手を振るところだった、恥ずかしい。


 もう一度私は右側の子を見る。

 女の子は私が振りむいたタイミングでニコッと笑う。

 う~ん、なんかやっぱり私の方を見ている気がする。


 女の子はさらにひらひらと手を振り始めた。

 後ろを見ても、珊瑚ちゃんは読書に集中していてまったく気づいていない。


 なんかかわいそうなので、私が代わりに右側の子に手を振っておく。

 すると女の子は嬉しそうに笑って、私の手に指を絡めてきた。


「白河さん!」

「は、はいっ」


「あなたも私のエンジェルだからね!」

「はい?」


 って言うか私!?

 さっきまでのは珊瑚ちゃんじゃなくて、全部私にむかってやってたの?

 てっきり嫌われ過ぎて無視されてるのかと……。


 それとエンジェルって何?

 私のこと?


「ああ、白河さん……」

「え、ちょっと、近いんだけど……」


 女の子は唇を突き出しながら、徐々に私との距離を詰めてくる。


「私ね、本物が欲しいの」

「本物って何!?」


 え、何? 本物のキスってこと?

 あの時の投げキッスのせいでこんなことになってるの?


 ああもう!

 あの時の私をどうにかしてやりたい!


「わわわわ」


 私は軽くパニック状態になって、逃げればいいのにそれができなかった。


「そ、そこまで~!!」


 そんな私を救ってくれたのは、頼れる茜ちゃんだった。

 助かった……。


「もうっ、駿河さん! なずなが困ってるでしょ」

「ええ? いい雰囲気だったと思うんだけど」


「えっと、どこらへんが?」

「私の勘違いか、てへっ」


 あ、今の表情、小学生みたいでかわいい。


「まあまあ茜ちゃん、私は大丈夫だから」

「なずなは甘いなぁ」


「いつもありがとね、茜ちゃん」

「いいんだよ、なずなのためなら」


 うう……、なんて友達思いなんだ茜ちゃんは。

 おかげで私の唇は守られたよ。


「えっと、駿河さん、ごめんね、私はファーストキスをささげるって決めた人がいるから」

「そっか~、それはごめんね、白河さんのことだからキスくらいほいほいしてるのかと思ってた」


「私、そんな風に思われてるの!?」

「私の初めてをもらってほしかったんだけどなぁ、まあ女の子同士のキスはノーカンだよね!」


「普通、女の子同士でキスはしないと思うよ」


 私がその言葉を放った瞬間、クラス中の視線が集まった気がした。

 みんな私たちの会話に聞き耳立ててたなぁ?

 注目を集めるの好きじゃないんだけど。


 あと、なんで茜ちゃんと珊瑚ちゃんは私をそんな白い目で見てるの?

 お前が言うなって感じなのかな。


 私だって自分が特殊なことくらいちゃんと理解してるんだからね。

 そのうえで私は小学生の女の子が好きだって言ってるんだよ。

 まあ、かわいければ小学生じゃなくてもいいみたいだけどね。


「うん?」


 その時、駿河さんが何かに気づいたようにスカートのポケットに手を入れた。

 どうやらスマホに着信が入ったみたい。


「あ、ごめん、妹から電話みたい。ちょっとでるね」

「え……」


 これはまさか。

 この展開はまさか……。


「や~ん、美咲ちゃぁぁぁぁん、どうしたのかなぁ~?」


 やっぱりかぁあああああ!!

 目の前でくねくねと気持ちの悪い動きをしながら、妹さんと電話をする駿河さん。

 ちょっとシスコン多くないですかぁ?

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