第19話 ネガティブなずな
ショッピングセンターでひまわりちゃんと紅葉さんに出会った翌日。
自分の好みについて悩みを抱えていた私は、なんとなく一日を上の空で過ごしてあっという間に放課後になっていた。
私は小学生が好きだし、妹の柑奈ちゃんのことも好きだ。
それにお母さんのことも正直かわいくて好きだと思っている。
ロリコン、シスコン、マザコンを私はフルコンしているのだ。
それに加えて、いくら若く見えるとはいえ、よその家のママさんまで好きになってしまうなんて。
しかも珊瑚ちゃんのことも気になっちゃってるし。
守備範囲の広さに定評があるとはいえ、これはちょっとひどすぎないだろうか。
そもそもなんで私のまわりにはこんなにかわいい女の子がたくさんいるんだろう。
幸せ過ぎて私はおかしくなってしまったんじゃないかな。
このままじゃ茜ちゃんのこともいずれは……。
そうだよ、茜ちゃんだってかわいい女の子だよ。
お母さんよりも一緒にいる時間が長かったから意識してこなかっただけかも。
「なずな、大丈夫? 悩み事でもあるの?」
「茜ちゃん……」
私のことを心配してくれている茜ちゃんが私の顔を覗き込んでくる。
やっぱりかわいい……。
「茜ちゃん、どうしよう私……、ただの変態だったみたいだよ……」
「いきなりどうしたの? なずなが変態なのは前からだよ……?」
「そうなんだけど、違うの。今の私は茜ちゃんのこともどうにかしてしまうかもしれないの」
「ええ!?」
茜ちゃんが私の言葉に目を丸くする。
だよね、こんな変態と幼馴染なんて、茜ちゃんの人生に響くよね……。
「私はいつか茜ちゃんの胸元に飛び込んで、クンクンペロペロしてしまうかもしれない……」
「な、なずな!?」
「そうなる前に、私はみんなから距離を置いた方がいいのかもしれないね……」
私は自虐的な笑みを浮かべて窓の外に視線をやる。
「ば、ばっちこーいだよなずな、さあ、私を好きにしていいよ。ウェルカムカモーンだよ!!」
茜ちゃんは両手を広げて私を受け入れる体勢になっている。
「茜ちゃん、ありがとう、気を遣わせてごめんね……」
「気なんか遣ってないよ! 本当に私のことめちゃくちゃにしてくれていいから」
茜ちゃんが必死な表情で私のことを気にかけてくれている。
「こんなに常識人でピュアな茜ちゃんにこんなことを言わせてしまうなんて……、私はクズだね……、ははっ」
「なずなぁ~……」
茜ちゃんが絶望したような顔をして泣きそうになっている。
ごめんね茜ちゃん、こんな奴が幼馴染で。
そんなやりとりをしている私たちのところへ、何も知らない珊瑚ちゃんが近づいてきた。
「なずなさん、今日の部活は何をします? 昨日撮影してきた小学生の写真でも鑑賞します?」
「浜ノ宮さん……、そんなことしてたらいつか大変なことになるよ……?」
とても楽しそうに笑う珊瑚ちゃんに対して、茜ちゃんは苦笑いをしていた。
確かに珊瑚ちゃんのやっていることはちょっと変態じみているかもしれない。
しかし、真の変態である私から言わせてみればまだまだである。
「ごめんね珊瑚ちゃん、変態がうつると大変だから今日は帰るね」
「変態が……、うつる?」
珊瑚ちゃんはかわいらしく首を傾げた後、おかしそうに笑った。
「うふふ、なずなさんは変態なんかじゃありませんよ。素敵な素敵な我らが姫……、じゃなくて素敵な女性ですわ」
私を元気づけようとしてくれているのか、珊瑚ちゃんはふんわりとしたやさしい笑顔をむけてくれる。
こんな変態にむかってなんともったいないことだろう。
「それに変態というのは私みたいな者のことを言うのだと思います」
「自分で変態って言っちゃった!」
珊瑚ちゃんは表情を変えず、笑顔のまま変態宣言をした。
すかさず茜ちゃんからツッコミが入ったけど、まったく気にした様子はない。
「珊瑚ちゃんは全然変態なんかじゃないよ、私の憧れのお嬢様だよ。私の本当の姿を見たらきっと変態だって認めざるを得ないよ」
「本当の姿って何? なずなは変身でもするの?」
私の方にも茜ちゃんからツッコミが入る。
変身なんかしなくても、ありのままの自分が変態なんだよ。
「なずなさんが本当に変態だというのなら、ここで服を脱いで踊るくらいのことはできるはずですわ!」
「ははは……、さすがに私もそんなことはできないかな」
「それじゃあなずなさんは変態ではありませんよ」
「ううん、変態だよ、唯一の変態という特徴さえ中途半端なクズ女だよ」
「な、なずなさん……」
珊瑚ちゃんは私の言葉に顔を引きつらせる。
私はその顔を見て、まるで心臓を刃物でえぐられるような心の痛みを感じた。
ふたりのそんな顔、見たくなかったなぁ。
なんだかこの場にいるのがつらい。
もっとふたりと一緒にいたいのに。
笑顔が見たい、お話がしたい。
ぎゅってしたい。
クンクンしたい。
ペロペロしたい。
スカートめくりたい。
あ、私変態だ。
「私、今日は帰るね……」
「なずなさん……」
ふたりは心配そうな顔で私を見送る。
私は逃げるように教室をあとにした。
その時ちょうど教室に入ってこようとした彩香ちゃんとばったり会ってしまう。
「あら、白河さん? 今日は部活行かないの?」
「ああ、彩香ちゃん、私に近づくと、そのかわいい顔にキスしちゃうかもしれないよ?」
「ええ!? どうしたのそんないきなり……」
「はは……、そうだよね、こんな変態にキスなんかされたら、吐いちゃうくらい気持ち悪いよね……」
「私そんなこと言ってないけど!? そういうことはちゃんとした手順を踏んでほしいだけで、別に嫌なんて言ってないし……」
彩香ちゃんが何か言っているけど、後半がもにょもにょしていて聞き取れなかった。
でもきっと私には聞かせられないような罵詈雑言を浴びせているのだろう。
それは仕方ない、だって私は変態なのだから。
もうここは開き直って変態を極めてみようか。
私は教室にいるみんなに聞こえるような声であいさつをかましてみた。
「じゃあね、私のかわいいエンジェルちゃんたち。また明日」
そしてそこで投げキッスをかます。
うん、我ながら気持ち悪すぎる。
こんな落ち込んだ気持ちでもさすがに恥ずかしくなってきたので、急いでこの場を去ることにした。
「「キャ~~~!! 白河さんの投げキッス~~~~!!」」
その後、教室からは盛大な悲鳴と人が崩れ落ちるような物音が聞こえてきた。
自覚はあるが、どうやら人が気絶するほど最後の私は気持ち悪かったらしい。
どうしよ、明日から学校に来づらいなぁ。
そもそも私に明日をむかえる資格はあるのだろうか。
もうこうなったら柑奈ちゃんに元気づけてもらうしかない。
一緒にお風呂入って、ご飯をあ~んしてもらって、夜は一緒に寝るんだぁ。
うふふ、楽しみだなぁ……。
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