第18話 ひまわりママ、赤坂紅葉

 日曜日。

 私は茜ちゃんと近くのショッピングセンターに来ていた。


 別に目的があって来たわけではなく、遊んでる途中でふらっと寄っただけ。

 こういうところに一人で来ると、ちょっと本屋によってからブラブラして終わっちゃうんだよね。


 今日は茜ちゃんもいるし、甘いものでも食べながらおしゃべりとかしようかな。

 そんなことを考えながら服売り場の前を通っていた時、不意に通路に出てきた小学生とぶつかりそうになる。


「わっと、ごめんね」

「いえ、こちらこそすみません……、ってあれ? なずなさんだ!」

「ひまわりちゃん!?」


 ぶつかりそうになった小学生は偶然にもひまわりちゃんだった。

 近くに住んでても意外と会わなかったりするものなんだけどね。


「なずなさんも服を見に来てるんですか?」

「ううん、私は茜ちゃんと一緒にブラブラしてるだけだよ」


「ふ~ん、ふたりはいつも一緒にラブラブしてるんですね」

「別にラブラブしてたわけじゃないんだけど……、まあ幼馴染だからね」


 私がそう言うと、ひまわりちゃんは視線を後ろにいた茜ちゃんにむける。


「私となずなはずっと一緒に育ってきたからね。付き合いの長さが違うんだよ。一緒にいるのが当たり前みたいな」

「むう」


 茜ちゃんがなぜか勝ち誇ったように言うと、ひまわりちゃんは不満そうに頬をふくらませている。

 なんだかんだこのふたり、実は仲がいいんじゃないだろうか。

 だって、なんでふたりがよく言い争っているのかよくわからないし。


「ひまわりちゃん、ここにいたんですかぁ?」


 私たちがおしゃべりしていると、ひまわりちゃんの後ろから一人の女性が声をかけてきた。

 見た目からして私たちと同い年くらいだろうか、背も同じくらいだ。

 そして恐ろしくかわいらしい人だった。


「もしかしてひまわりちゃんのお姉さん?」

「え?」


 私が思ったことを口にすると、ひまわりちゃんはきょとんとした顔になった。

 あれ? 違ったのかな。


「あはは、なずなさん、お姉さんじゃなくて私のママだよ」

「「ええ!?」」


 私と茜ちゃんは思わず大きな声をだして驚いてしまった。

 いや、どう見ても同い年くらいにしか見えないよ?


 もしかしたら年下かもって思ったくらいなのに。

 それがひまわりちゃんのお母さん!?

 まるで時が止まっているかのような人だなぁ。


「ひまわりちゃん、この子たちは? もしかして最近話に出てくる高校生ってこの子たちですか?」

「うん! なずなさんと茜さんだよ」

「そうでしたか! いつも娘がお世話になってます!」


 ひまわりちゃんのお母さんはぺこりとお辞儀をする。

 その仕草も大人っぽくはなく、やっぱり年下のように見えてしまう。

 つまりかわいい。


「むむ、むむむ?」


 そんなかわいいお母さんはなぜか私を見るなり、何か妙な表情をし始めた。

 な、なんだろう、どこかで会ったことあるとか?


 それよりも上目遣いで見上げてくるのはやめて欲しい。

 おかしいこととは思いながらもかわいさにキュンとしてしまうから。


「なずなちゃん、あなたは私が高校生の時に好きだった先輩に似てますね!」

「へ?」

「うんうん、まるであの頃の先輩が目の前にいるみたいですよ!」


 ひまわりちゃんのお母さんは、なんだか感動したように満面の笑みを浮かべていた。


「あ、私は赤坂紅葉っていいます。よろしくお願いしますね、なずなちゃん、茜ちゃん」

「はい、よろしくお願いします」


 なんだかこどもっぽくてやさしい人なんだけど、ひまわりちゃんのお母さんだと思うと少し緊張もする。

 普段私がしていることとかをひまわりちゃんが話してたりしたらどうしよう。


 笑顔の裏で、「こいつが例の変態女子高生か、うちの子をもてあそんで……」とか思ってたらどうしよう。


 いや、私は別にやましいことなんかしてないんだけどね?

 ほら勘違いされちゃうことってあるからさ。


「ねえねえ、なずなさんたちはこれからどうするんですか?」

「えっと、フードコートで甘いものでも食べてから帰ろうかなって」


 私がひまわりちゃんに答えると、なぜか紅葉さんの目が光った気がした。


「それならここは私がご馳走してあげますよ! ひまわりちゃんもお世話になってることですし」

「ええ、そんな悪いですよ」

「気にしなくていいんですよ、さあ行きましょう!」


 いやいや、気にするよ。

 私だってひまわりちゃんのおかげで楽しんでるのに。

 そんな私の気持ちなどお構いなく、紅葉さんはご機嫌な様子で先に行ってしまわれた。


「なずな、ここは甘えておこうよ」

「そうだね」

「じゃあ行こっか」


 私たち三人は紅葉さんを追いかけてフードコートへとむかった。

 先に行って席を確保していた紅葉さんが相変わらずのハイテンションで宣言する。


「さあさあ、好きなものを遠慮せず頼んでいいですからね」

「そんなに食べられないですけどね」


 私と茜ちゃんはここに来るとだいたいソフトクリームを頼んでいる。

 なので今日もソフトクリームにしようと思っていたら、茜ちゃんは追加でコーヒーも注文していた。


 私は別にいいかなと思ったけど、たまたま別のお客さんが頼んだコーヒーの香りが漂っていて、私も誘惑に負けてしまう。

 ひまわりちゃんはカップのアイスを注文し、紅葉さんはチョコレートパフェを頼んでいた。

 まさかこのフードコートにこんなものが存在するなんて私は知らなかったよ。


 全員の注文したものが揃い、私たちのスイーツタイムが始まる。

 私はちびちびと温かいコーヒーを飲んでいると、紅葉さんは豪快に生クリームの山を口に放り込んだ。


「うう~ん! 甘い! 幸せです~」


 本当にこどもみたいな笑顔を見ていると、まるでひまわりちゃんたちを見ているときのような胸のときめきを覚えた。


 なんだろうこの人、かわいすぎるかも。

 私がその笑顔に引き込まれてじっと見ていると、ふと紅葉さんと目が合ってしまう。


「一口食べる?」

「あ、はい」


「じゃあ、あ~ん」

「あ~ん」


 なんだろう、別にパフェを食べたいと思ってたわけじゃないし、普段ならこんな恥ずかしいことやらないんだけどなぁ。

 紅葉さん相手だと、なぜだか受け入れてしまう。


 どうしてしまったんだ私。

 私はロリコンじゃなかったのか。


 まさかこんな年上のお姉さんまでいける口だったというのか。

 それとも私はしょせん人を見かけで判断するような人間なのか。


 いやこれは紅葉さんがかわいすぎるのが原因だ。

 まるで小学生を前にしたときのように心がときめく。


 え? 私、この人のこと、好きなのかもしれない。

 珊瑚ちゃんの時も思ったけど、私の守備範囲広すぎないかな……。

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