第15話 約束の土曜日

 今日は約束の土曜日。

 珊瑚ちゃんたちが家に遊びに来る日だ。


 部屋にはすでに茜ちゃんが来ていて、柑奈ちゃんと一緒にゲームをしている。

 あとは珊瑚ちゃんたちを待つだけだね。


 ゲームが一区切りついた茜ちゃんは、私のベッドにもたれかかりながら話しかけてくる。


「浜ノ宮さんはちゃんと家の場所わかるかな?」

「学校で待ち合わせした方がよかったかもね」

「かもしれないね~」


 そんな話をしていた時、私のスマホに通知が入る。


「あ、珊瑚ちゃんからだ」


 確認すると、もう少しで着くというメッセージが届いていた。


「もうすぐ着くって。私、ちょっと外で待ってるね」

「は~い」


 私は、再びゲームを始めたふたりを残して家の外に出た。

 家の前の道で左右を確認すると、ちょうど私を見つけて手を振る珊瑚ちゃんの姿が見える。


 私も手を振って返すと、珊瑚ちゃんの隣に彩香ちゃん、そして愛花ちゃんもいることに気づく。


「ごきげんよう、なずなさん」

「こんにちは珊瑚ちゃん。彩香ちゃんも一緒だったんだね」


 私は彩香ちゃんの方に顔をむける。


「ごめんなさい、勝手に来ちゃって」

「あれ、彩香ちゃんも誘ってなかったっけ?」

「ええ、浜ノ宮さんから聞くまで知らなかったわ。今日もむかえに来てくれたのよ」


 あれ? そうだっけ? なんかあの話をしたときに彩香ちゃんもいたような気がするんだけど。


「なずなさん、今日の約束をした後に委員長は屋上に来たんですよ」

「ああ、そっか、ごめんね、誘ったつもりだったよ」


 あの時はいろんな衝撃があって彩香ちゃんの存在感がすごかったからねぇ。

 最初からいたんだと思い込んでたよ。


「いいのよ、それより愛花ちゃんもついてきちゃって」

「いいよいいよ、柑奈ちゃんと仲良くしてくれて私もうれしいよ」


 私はやさしく愛花ちゃんの頭をなでる。

 すると愛花ちゃんは顔を赤くして下をむいてしまった。


「その子、あなたに会いたいって聞かなくて」

「え?」

「お、お姉ちゃん!?」


 愛花ちゃんは恥ずかしそうに彩香ちゃんの腕をつねっていた。


「いたいっ、いたいって愛花ちゃん」

「も~」


 秘密にして欲しかったことをバラされたのか、愛花ちゃんは頬をふくらませていた。

 その様子もすごくかわいかった。


「とりあえずみんな中に入ろっか」

「そうですね」


 私は玄関のドアを開き、みんなが入るのを待ってからドアを閉める。

 2階にある私の部屋に案内して中に入ってもらう。

 これで6人になったけど、私の部屋は結構広いので全員入ってもまだ余裕がある。


「こんにちは~」

「あ、浜ノ宮さん、やっほ」


 珊瑚ちゃんと茜ちゃんが挨拶を交わし、他のみんなも適当な場所に腰を下ろす。


「あれ? 愛花ちゃん?」


 そこで柑奈ちゃんが愛花ちゃんの存在に気づいて立ち上がった。


「こ、こんにちは柑奈ちゃん」

「こんにちは、今日はどうしたの?」


「お姉ちゃんについてきたの」

「お姉ちゃん?」


 柑奈ちゃんは誰のことを言っているのかわからなかったのか、私の方を見上げてくる。


「言ってなかったっけ? 私の友達の彩香ちゃんと愛花ちゃんって姉妹なんだよ」

「そうだったんだ」


 柑奈ちゃんは愛花ちゃんと、少し離れたところに座っておしゃべりを始めた。

 ここから見ていると、愛花ちゃんがずっと照れっぱなしなのがわかってかわいい。


 そんな小学生2人を見て微笑ましく思っていると、私のすぐ隣に珊瑚ちゃんの顔が迫っていた。

 びっくりした私は思わずのけぞってしまう。


「ど、どうしたの珊瑚ちゃん?」

「……あれが柑奈ちゃんですよね」


「あ、そうだよ、かわいいでしょ」

「ええ、ええ、かわいすぎです! お持ち帰りしてもいいですか?」


「だ、ダメだよ」

「ああ、もう、この場でベッドに押し倒してぎゅ~ってしたいです!」


「さ、珊瑚ちゃん、落ち着いて……」

「私の、私の抱き枕になってください~!」


 ダメだ、予想はできたことだけど、珊瑚ちゃんの顔がひどいことになっている。

 ただ前みたいにモザイクが必要なほど崩れてないのは、少しくらい気にしているということなのかな?


 とりあえず珊瑚ちゃんを後ろから抱きしめる形で、これ以上柑奈ちゃんの方に行かないように食い止める。

 その時チラッと茜ちゃんたちの様子を見ると、さっきまで柑奈ちゃんと遊んでいたゲームを彩香ちゃんとふたりで始めていた。


 あそこは平和そうだなぁ。

 まあ私は私で、今はこのお嬢様のやわらかな体と幸せになれるようないい香りを堪能しておこう。


 そう思ったとき、インターホンの音が聞こえた気がした。

 ちょっと騒がしくしてたせいで聞こえづらかったけど、多分間違いない。

 確認するため、危険だけど珊瑚ちゃんを開放しリビングにむかう。


 聞き間違いではなかったようで、ドアホンのランプが点灯していた。

 そしてモニターを見ると、そこにはひまわりちゃんの姿が映っている。

 私は応答せずに玄関へとむかってドアを開いた。


「こんにちは~」

「ひまわりちゃん! 今日はどうしたの?」


「えへへ、暇になっちゃったからなずなさんに遊んでもらおうと思いまして」

「そっか、それはうれしいんだけど、今お友達が来てるんだ。一緒に遊ぶ?」


「はいっ」

「あ、愛花ちゃんも来てるよ」


「ええ!? もしかして私だけはぶられてる?」

「た、たまたまだよ、お姉さんについてきただけだから」


「愛花ちゃんのお姉さん?」

「そうそう、私の友達なんだよ」


「へえ~、まあ誰がいても、なずなさんは私だけと遊んでくれますよね」

「え~っと、最大限の努力はするけど……」


「えへへ、その気持ちだけで十分ですよ~」

「あはは……、ごめんね、ちょっと大変なもので」


「まあなずなさんのお友達が来てるなら、どんな状況か大体想像できますけどね~」

「それはちょっと偏見入ってないかな~」


 話をしながらひまわりちゃんを家にあげ、私の部屋へとむかう。

 そして私の部屋のドアを開いた瞬間、目に飛び込んできたのは珊瑚ちゃんの上に覆いかぶさる柑奈ちゃんの姿だった。


「ええええええええ!? 逆じゃないのおおおおおおお!?」

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