第14話 茜は幼馴染

 ある日の放課後。

 今日は珊瑚ちゃんが家の用事のため、同好会へは顔を出さないらしい。

 それならと、他のメンバーも今日はそのまま帰宅することに。


 茜ちゃんと一緒に帰り、家に入ると中には誰もいなかった。

 柑奈ちゃんはどこかで遊んでいるのかな?


 河原にはいなかったし、誰かの家にでも行ってるのかもしれない。

 お友達と仲良くできているのは良いことだ。

 一緒にいられる時間が減るのは寂しいけど、柑奈ちゃんの幸せが一番だからね。


 さて、今日は柑奈ちゃんと遊ぶつもりで帰ってきたから、このままだと少し時間を持て余してしまうなぁ。

 それならひさしぶりに女の子ウォッチングでもしてこようかな。

 うんうん、そうしよう。


 私はカバンを置いて、必要最低限の荷物だけ持って再び外へ出た。

 



 スマホを手にしながら私がむかったのは近所の公園。

 河川敷の公園には誰もいなかったので、今回は住宅街の中にある方へとやってきた。


 やっぱりこどもは無邪気に遊んでいる姿がかわいい。

 特にブランコとかは無防備な子だといろいろ見せてもらえて幸せになれる。


 そんな所を撮影なんかしてたら怪しさ全開だけど、私は女子高生というブランドに守られている。

 ……守られていると思いたい。


 私はなるべく自然な形で、風景を撮影しているかのように女の子の写真を撮る。

 うへへ、かわいい、かわいいよぉ~。


 私は女の子鑑賞に夢中になりながら、一線は越えない程度に写真を撮っていく。

 そんな幸せな時間を過ごしていると、突然ポンポンと肩をたたかれてドキッとなる。


「ちょっとよろしいですか?」


 鼻の詰まったような、こもった声がする。

 もしかして私は不審者だと勘違いされてしまったのだろうか。


 違うんですよ、私はただ、かわいい女の子の輝かしい瞬間を写真におさめていただけなんです!

 私は恐る恐る後ろを振り返ると、そこにいたのはなぜか茜ちゃんだった。


「?」


 他に誰かいないか、キョロキョロとあたりを見てみるけど誰もいない。

 もしかして、さっきのは茜ちゃん?


「あはは、びっくりした?」

「もお~、びっくりしたよ~」


「やましいことしてるからじゃないの?」

「うっ」


 確かに、いろいろ言い訳はしてたけど、さっきの私がただの不審者であることは間違いない。

 でも仕方ないじゃない。

 だって小学生は最高なんだから!


「それで、茜ちゃんはどうしてここにいるの?」

「え!? ああ、えっと、まあ、家から出たらなずなを見かけてついてきたというか」


「家からずっとついてきてたの? なら声かけてくれたらよかったのに」

「あはは……、ごめんね、私もちょっとやるべきことがあったから」


「……?」

「なずなは気にしなくていいんだよ、これは私の問題だから」


「なんかよくわからないけど、困ってるなら言ってね」

「あ、ありがとうなずな」


 茜ちゃんどうしたんだろう。

 私にも言えないような問題を抱えているのかな?


 教えてくれないのはつらいけど、もし頼ってきてくれたらその時は絶対に助けになるからね。

 大好きな親友が困ってるのに何もしないわけにはいかないよ!


「そうだ、せっかく会ったんだし、一緒にかわいい子たちの写真撮る?」

「やめとくよ、いつも言ってるけど私は別にそういう趣味はないからね」


「む~、そろそろ素直になってもいいと思うんだけどなぁ」

「素直なつもりなんだけど……」


 私が頬をふくらませていると、茜ちゃんは困ったように笑っていた。

 ずっと誘っているのになかなか落ちてくれないなぁ。

 もしかしてすでに心に決めた人がいるのかな?


 茜ちゃんに好きな人がいるのなら応援したいけど、一緒にいられる時間が減るのは寂しいなぁ。

 なんとなく茜ちゃんとは死ぬまで一緒にいるような、そんな気がしてたから。


 物心ついた時から一緒にいるのが当たり前だったから、いまさら茜ちゃんのいない日常なんて考えられない。

 それこそ、お母さんや実の妹である柑奈ちゃんよりも一緒にいる時間は長いはず。


 突っ走りがちな私についてきてくれて、そして隣でいつも笑っていてくれたのが茜ちゃんだった。

 ……なんかいろいろ思い出してたら、寂しくなってきちゃった。


 よし、今日はもう撮影は終わりにして茜ちゃんと遊ぶことにしよう。


「えいっ」

「ほえ?」


 私は茜ちゃんに抱きついて、ぎゅ~っと元気を充電する。


「な、なにしてるのなずな」

「充電だよ、充電」


「ええ? これじゃあ私の方が充電されちゃうよ」

「そう? だったら充電しちゃっていいよ」


「ぶほほほほ」


 私が抱きつく力を強めると、茜ちゃんが聞いたことのないような声をだした。

 ちょっと強すぎたかな?


「ねえねえ、これから茜ちゃんの家に行ってもいい? なんだか最近行ってないし」

「ええ!? 私の部屋はちょっと……、今散らかってて片付けるのに時間かかるから」


「そんなの気にしないよ、茜ちゃんの散らかってるなんて散らかってるうちに入らないからね」

「ダメダメ、なずなにだけは見せられないものが置いてあるから、今日のところは勘弁して」


「む~、柑奈ちゃんも同じこと言ってなかなか部屋に入れてくれないんだよ? ふたりともいったい部屋に何を置いてるの?」

「柑奈ちゃんもかぁ……、なずな、絶対勝手に柑奈ちゃんの部屋に入っちゃダメだよ?」


「入らないよぉ、でもなんだか悲しい」

「ごめん、ちゃんと片付いてる日ならいいから、今日はなずなの部屋じゃダメかな?」


「しょうがないなぁ、せっかくだから私の柑奈ちゃんコレクションを見せてあげるね」

「……堂々としていられるなずながちょっとうらやましいよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る